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第31羽   鳥、が纏いしは空の炎

 


 [魔装・蒼天]。


 俺が考案した、攻防一体の蒼炎魔法だ。

 俺の生命力の低さを補うにはどうすればいいかと考えていた時に、この魔法を思い付いた。

 まあ、今回は本来の用途ではなく、俺の姿を隠す為に使った訳だが。


 この魔法を展開した時の外見は、俺が成長した姿を想像したものだ。

 翼を広げた大きさは25m前後。蒼炎で構成されている為、全身蒼一色だが、中々良くイメージできていると思う。

 この魔法を発動したからといって魔法の出力が上がったりとかする訳ではない。ただ単純に、身体に纏った蒼炎が本体の俺の動きをトレースするだけだ。と言うと弱く感じるかもしれないが、そんなことはない。

 本気で発動した蒼炎は上位属性の炎熱魔法すら焼き尽くす。ランク・Ⅴ程度の魔物など、蒼炎に近付くだけで消し炭だ。触れることさえ許さない。

 正直、鳥でなく球のままでも性能は変わらないのだが、こちらの方が格好良いだろうと思ったんだ。



 鬼共を睥睨する。


 ……俺の方を向いてぎゃあぎゃあと叫んでいる。威嚇でもしているのだろう、奴等は遠距離攻撃の手段を持たないからな。精々、そこらの石を投げるくらいか。そのくせ俺に威嚇するとは……実力差が理解できていないようだ。


 ――っと、奴らの先頭集団が防壁へ向けて動き出した。守護者が指示でも出したか。

 まあいい、すぐにその足を止めてやる。



 スキル、【業火】を発動――



【業火】:

使用した炎熱系統魔法へと追加で魔力を込めることにより、魔法に【威圧】の効果を付与する。

対象となった魔法のランクが高いほど、威圧効果は上昇する。



 もちろん、対象魔法は[魔装・蒼天]。

 そのランクは、上位属性以上。


 ――…………………………。


 静寂。


 スキルが発動した瞬間、動き出していた奴もそうでない奴も、皆ピクリとも動かなくなった。

 俺を凝視してそのまま固まっている。と思ったら、奴等の全身が震え始めた。しかし、俺に合わせた視線は外さない、外せない。余りの恐怖に俺から目が離せないようだ。

 人は本当に怖いものからは視線を外せないというが……


 ……鬼も恐怖を感じるらしい。


 ――あ、やべ。カルナスの人達も震えちゃってる。

 えっと、蒼炎の対象指定でいけるかな…………お、いけたいけた。震えが止まったようだ。

 あー……あの防壁の上に居る女の人……漏らしちゃってるな……後で謝っとこう。

 アーリィとエリスさんは……唖然としているな。この鳥が俺だって絶対気付いてるよな、あれ。

 ……まあ当たり前か。二人への言い訳は終わってから考えよう。


 さて、鬼共の動きは止めた。

 だが、相変わらず守護者は地下から出てこないようだ。高見の見物ってことかね? いや、地下だから低見の見物? ってそんなことはどうでもいいな。


 しかし、よくもまあこの短時間でこれだけの数を揃えたもんだ……軽く五千以上は居るぞ。

 まあ、今の俺なら体当たりで滅却できるのだが……この数だと、効率が悪過ぎるか。


 ならば、使用するは広範囲殲滅魔法。

 結構な量の魔力を消費するが、動かない的に体当たりを繰り返すよりはいいだろう。


 それじゃあどの魔法を使うか…………あれでいくか。

 ふむ、この位置じゃ使い辛いな。


 南門の上空から鬼共の上まで移動する。

 羽ばたきに合わせて蒼き火の粉を撒き散らし、鬼共の中心部――その上空へと到着。


 殲滅開始だ。


 今は[魔装・蒼天]を発動・維持する為に、随分と集中力を必要としている。よって、他に複雑な魔法は使えない為、簡単な形状の魔法を選択した。


 イメージするのは、土星。

 惑星部分を蒼炎球に、土星の輪の部分を蒼円刃とする。

 球を直径3m、輪の直径を10mとする。

 ここで大事なのは【魔力圧縮】。内包魔力を増大させることにより、格段に破壊力が増すのだ。爆発や貫通系統の魔法には必須のスキルである。

 この【魔力圧縮】で、主に円刃へと魔力を集中させ……準備は完了だ。


 鬼共へと視線を向け、魔法を発動。

 次の瞬間、魔装の眼前に、蒼の土星が出現した。


 あ、そう言えばこの魔法に名前を付けていなかったな……[蒼星刃]とでも呼ぼうか。

 ついでに[蒼星刃]にも【業火】を発動。

 円刃が地面と水平になるように調整し、鬼共の中心部――真下へと射出する。


 放たれた蒼の土星は一瞬で鬼共へと肉薄し――衝突。

 [蒼星刃]の直撃を受けた個体は瞬時に焼き失せ、その付近に居た奴等も蒼く燃え上がり、灰と化した。


 とは言っても精々数十体が死んだ程度だ。まだまだ数は残っている。

 しかしそれでいい。この魔法は、ここからが本領。

 蒼球が地へと接し、地面と水平方向に360度展開されている蒼の円刃。


 さあ……爆ぜろ。


 瞬間、蒼炎球が爆発した。


 空色の爆炎。その勢いに背を押されるようにして、蒼き円刃が周囲へと広がってゆく。

 上空から見える景色、それはまるで……黒く静かな水面に、空色の波紋が伝わっていくかの如く。

 波紋の発する炎光により、大地が蒼に染め上げられていく。

 【業火】による恐怖に魅せられた鬼共は、眼前に迫るその蒼き波を避ける素振りさえしない、できない。

 蒼炎はランクⅤ程度の魔物など、触れる前に焼失させる。そしてその波紋――円刃は、【魔力圧縮】で更に熱量を上昇させている。その結果……


 波紋の広がりに合わせ、鬼共が蒼に巻かれ、焼き失せてゆく……。

 広がる円刃の、そのさらに外側に出現しつつ、広がっていく蒼い円。


 数秒後。

 蠢いていたそれは、その存在を、一つも残さず。

 魔装の蒼に照らされた大地のみが、その姿を見せていた。


 殲滅、完了。





 [蒼星刃]は“ビシャス・オーガとその魔石”を対象へと指定していたので、草原や防壁、その他は全て魔法の影響を受けていない。鬼共が消えただけだ。

 蒼炎球が爆発した箇所だけは地面が少し抉れているが、仕方がない。対象指定は熱による影響の有無を指定するというものだからな。爆風による圧力まではどうしようもないという訳だ。


 さてと……手下共が片付けられたというのに、地下の引き籠りはまだ出てこないのかね? もう鬼共の増産は止めたようだが……まあ、いいさ。


 出ないなら、引き摺り出そう、引き籠もり、だ。


 奴の反応は、爆発で抉れた地点の、ちょうど真下。

 良い目印になる。



 30mを越える蒼炎の槍を形成。その先端に極限まで魔力を圧縮し、貫通能力を強化。

 それを、十二本。


 魔装を取り囲み、眷属が付き従うかの如く宙へと出現した、長大な蒼槍。


 奴の反応を中心とし、時計の十二個の数字の位置へとそれぞれ一本ずつを射出。

 十二の軌跡を描き、大地を穿った蒼穹の槍。そのまま上下逆の円錐を形作るように、奴の反応がある深さまで地中へと斜めに撃ち込み、侵入させた。

 大地に生じた槍痕はその口を赤熱化させ、しかしその赤を塗り潰すように、奥からは十二の蒼光が揺れている。


 奴は円錐の内部、中央に閉じ込められた形だ。地中を逃走されたら敵わないからな、囲ませてもらった。

 今回、対象指定は無しだ。よって、大地も熱される。

 つまりは、鬼の蒸し焼きだ。


 ……ほう、これでも出てこないか。


 ならば……[炎熱爆破]。


 十二の穴から蒼炎が噴き出したかと思った次の瞬間――大地が噴火した。

 眼下の地から、溶けて赤熱した土を押し退け、撒き散らし、焼き尽くし、蒼炎が噴出。文字通り天まで届く轟音を纏い、陸から空へと蒼き柱が顕現する。

 視覚を焼失させんばかりに荒れる、蒼光の奔流。

 盛大に巻き上げられた大量の土煙をさらに吹き飛ばす、灼熱の轟風。

 

 さて……これで出てくる気になったかね。と言うか引き籠もる家が無くなったんだ、出てこざるを得ないだろうがな。


 と、そこで変な物を発見した。

 俺が滞空している高度まで吐き上げられた噴出物の中に……ビシャス・オーガの頭?


 ……成程、出てこないと思っていたらまだ手下を造ろうとしてたのか。それは済まない事をした、せっかくの内職を駄目にしてしまったようだ。

 ……いや、それでは内職をしている皆様に失礼だな。あまり目立たないが、あの人達のおかげで回っている現場もある程の素晴らしい職なんだ。こんなクソ鬼を生み出すクソ野郎と一緒にされては堪らないだろう。


 などと考えているうちに、舞い上げられていた土やら鬼の成り損ないやらが勢いを失い、重力に負け、地面へと落下していった。

 と、次の瞬間――


「――ガァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!」


 憤怒の大音と共に、引き籠もりが現れた。





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