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第30羽   鳥、は空へ

 


 【魔力感知】に強大な反応。

 南西方向より、とてつもない速度でこちらへと向かってきている。……つまり、討伐隊が向かった『鬼泣きの口』が存在する方向。

 とても嫌な、呪雲に感じるものと同様の嫌悪感を有する魔力反応。これは……明らかに守護者のそれ。


 ……討伐隊に何かあったらしいな。

 ジークとダギルさんは…………いや、それを考えるのは後だ。今は、こいつにどう対応するか。


 ……くそ、不味いな、凄まじい速度だ。このままならあと数秒で防壁に到達――ん? 止まった?

 俺達の位置から南西方向に……大体500m離れた場所。そこで反応が急停止した。


 この反応位置……――地下か?!

 どういうことだ、オーガ型じゃないのか? ……別の守護者による襲撃? そもそも守護者は邪結晶を護っているんじゃないのかよ? 何で移動してやがる!?


 ――駄目だ、落ち着け。何にせよ守護者だとすれば洒落にならない。

 ここには例外を除き、討伐隊に参加しなかった、できなかった戦力しか残っていないんだ。守護者と対峙できる程の力量を持った者は殆ど居ない。何より一般人が住む町だ。暴れられたらどれ程の被害が出るか予想できない。


 ……俺が出るべきだろう。被害が出る前に潰すしかない。

 そうなると姿を見せて戦闘することになるが……一応、対策はある。


 アーリィはエリスさんに任せるしかないな。今の二人ならば防衛に徹してくれれば大丈夫だと思う。

 そうと決まればすぐにでも出撃したいのだが……奴に動きが無いのが不気味だ。あの場所で停止してから全く動きがない。地下で何をしていやがる……?

 今のうちにアーリィとエリスさんに知らせておくべきか? しかし、地下から守護者の襲撃が、などと言っても信じて貰えるか……? だが、いきなり飛び出せばアーリィが後を追ってくるだろうから説明し――っ、奴の魔力が膨れ上がった!?


 何をするつもりだとそう思った瞬間、奴の周辺、その頭上で大量の魔力反応が一斉に出現した。


 何だと!? ……くっ、この量は不味い! 三百、四百、五百、六百……まだ増えてやがる!


「……おい、あそこ……何かおかしくないか?」


 その頃になって、漸く周囲の人達が異変に気付き始めた。


 背嚢に開けた穴からじゃ良く見えない、一体何がどうなっている?


「おいっ、照明班! あそこを照らしてくれ!」


 そう声が聞こえた後に、照明担当の人だろう返事が響き、言われた通りの場所を大型の照明魔道具で照らしたようだ。

 そして、皆がそれに気付き始めた。


「あれは……――魔物!?」

「何!? ……な、何だあの数は……何処から湧いて出た!?」

「――敵襲! 鐘を鳴らせっ! 敵襲だッ!!」

「あれは……ビシャス・オーガの、大群……!」


 ビシャス・オーガだと? ……地下の守護者が造り出したとでもいうのか? だとするならば、地下の奴はやはりオーガ型の守護者?

 ……くそっ、状況がうまく掴めない! こうしてる間にもまだ数は増え続けている。もう二千を軽く超えている!


 カーンッ、カーンッ、カーンッ!


 敵襲の合図である鐘が鳴らされ、その甲高い音を押しつぶす様に周囲の喧騒が一気に増した。


「エリス……あの数は……!」

「アーリィ様、大丈夫です。……私から離れないでください」


 恐らく、敵はもう三千を超えている、【魔力感知】だけでは数え切れない。

 地下の奴があそこから動かないのは、どういう理屈かは分からないが、地中で安全にビシャス・オーガを造り出す為なのだろう。現に今も動きを見せていない。なぜ町の下まで移動せずにあそこで止まったのかは分からないが、そんなことを考察している時間は無い。

 くそっ、面倒な……。単騎で戦闘を行うタイプじゃないのか……!


 この町に残っている戦力は特例を除いて、解放者ランクで言えばⅤ前後が最高だ。

 ビシャス・オーガのランクはⅣ~Ⅴ。質だけで見れば同等だが、その質の数で圧倒的に負けている。戦力の総数ではこちらが勝っているが、それはランクにしてⅠ~Ⅲの戦力が多いからだ。想定していたビシャス・オーガの総数は約三百体。既に十倍以上の差になっている。

 防壁があるとはいえ、あの数で壁に取り付かれたら、すぐに押し込まれて侵入を許すことになるだろう。

 斃すなら、敵が防壁へと到達するその前だ。


 そうと決まればグズグズしている時間は無い。

 周囲の喧騒が増している、俺が声を張ったところで問題は無いだろう。


「アーリィ! エリスさん!」

「っ! ノイン、そんなに大声を出したら――……どうしたの……?」


 周囲の誰も、俺の声に反応していないことに気付いたようだな。


 さて……カタコトで話すのはここまでだ。


「本気を出す。殲滅してくるからエリスさんはアーリィを頼む」

「……ノ、ノイン……何を、言ってるの……?」

「ノインさん……その様子は……何が……?」


 二人共、俺の言葉が理解できていないようだ。……無理もないか。

 だからと言ってこのままは駄目だ。勝手に飛び出したらアーリィは間違いなく追いかけてくる。

 時間が惜しいが仕方ない、何とかして説得を…………エリスさんなら分かってくれるかも知れないな。


「取り付かれる前に殲滅する。大丈夫、俺は結構強い。……ご主人様を頼むエリスさん。追いかけて来るような事が無いように、くれぐれも頼んだぞ――同志よ」

「ノイン……さっきから、何を……」

「……分かりました、アーリィ様はお任せください。何があっても必ず守り抜いて見せます、同志よ」

「エ、エリス……?」


 流石エリスさんだ。いきなり流暢に言葉を話し始めた俺に対して、いろいろと思うところはあるのだろうが、今は俺を信じることにしてくれたようだ。


「アーリィ、君の従魔を信じてくれ。……行ってくる」


 済まないアーリィ、君が納得するまで話をしていたら手遅れになりそうなんだ。

 どうか、俺のことを信じてくれ。




 周りから見えないように背嚢の口を開け、頭を出さずに上空への視線を確保。開けた宙へと焦点を合わせ、【蒼炎】を発動。頭上5m程の位置に《筒》で発生させる光球と同じ大きさの蒼炎球を出現させた。


 周囲が蒼炎の発する炎光に照らされ、途端、今までの喧騒が嘘のように治まり、静寂が訪れた。遠くではまだ微かに騒がしい音が聞こえるが、ここら一帯は時間が止まったかのよう。

 

 少しだけ頭を出して、皆の目が蒼炎球に集中していることを確認する。

 何が起きたのか理解できていないのだろう、アーリィとエリスさんも周囲の人達と同様に、口を開けて蒼の炎球に呆然と視線を奪われていた。

 よし、次だ。


 そのまま蒼炎球を遥か上空へと射ち出し、一定高度に到達した所で停止させる。

 当然、それを追従して、皆の視線もそのまま空へと向かった。

 

 上空に浮かんでいる蒼炎球へと、イメージを送る。その瞬間、爆発したかの様な蒼い閃光が、カルナスを染め上げた。


「なっ――――」


 突然の出来事に、そこらで悲鳴や驚愕の声が上がる。

 蒼炎球を凝視していた者達は、その太陽を目視したかの如き閃光により、視覚を強奪された。


 ……少し手荒だが許してくれ。数秒の間、視力を奪うだけだ。


 皆が瞼を閉じている今が好機。

 俺は背嚢から飛び出し、蒼炎球を滞空させている上空へと素早く上昇。俺が飛び出したことに気付いたアーリィが「ノイン!」と叫んだが、その声に応える訳にはいかない。

 アーリィの声を振り切る様にして目標に到達。すぐに自分を10m程の蒼炎球で包み込み、閃光を停止させる。

 光が治まり、視界が戻ってきたのだろう。人々が騒めきと共に再度、此方を見上げた。


「……蒼い……炎」

「……さっきよりも、大きくなっている……?」


 この距離では声は聞こえない。耳に届くのは、俺の周囲に展開された蒼炎の燃焼音のみ。だが、皆のその呆気にとられた表情と口の動きで、恐らくはそんなことを呟いているのだろうと分かった。


 よし、ここまでは予定通り。

 アーリィとエリスさん以外は、俺がアーリィの背中から飛び出したとは誰も認識できていないだろう。

 突如として宙に現れた蒼球が上昇していき、閃光を発したかと思えば巨大化した、という認識のはず。


 【真眼】の効果により、蒼炎に包まれていても俺の視界は妨げられない。

 ここは南門の上空。この高度まで来ると、カルナスの町が一望できる。

 昼にも拘わらず、眼下には光の群れが踊っており、まるで夜景を見ているかのような感覚だ。遠方に視線を向けると、微かに見える他の門。そして、それぞれの門を繋ぐようにして光を発する、三重の光輪。

 ……綺麗だ。

 これが、カルナスの町か。……こんな形で見ることになるとはな。

 俺の目に映る人々、その全てが此方へと視線を向けている。カルナスの町中から視線を集めている。

 

 ……少々、派手にやり過ぎたか。

 まあいい、仕上げだ。


 蒼炎はイメージが重要。よって、脳内で想像を練り上げていき、共に魔力を送る。

 そして、蒼き炎球は俺の想像通りに、その姿を徐々に変化させていく――。


 天地を握し蹂躙するは……蒼の爪脚。


 清流が軌跡を描きしは……蒼の尾羽。


 荘厳たるも躍動せしは……蒼の両翼。


 王威を放ち睥睨するは……蒼の相貌。


 魔導の域に至りし魔炎。空の炎により構成されし、その身体。



 顕現するは……天を纏いし蒼の鳥。



 攻防一体の蒼炎魔法――[魔装・蒼天]。




 さあ、……鬼退治だ。







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