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第29羽   鳥、は感知する

 


 あれから二日後の朝。

 それはつまり、討伐作戦の決行日。

 向こうでは、討伐隊の皆が作戦を開始した頃だろうか。

 ……成功することを祈っている。





 突然だが、今日は『不死鳥の日』なんだとさ。

 前世で言う祝日と同じ様なものらしい。なんでも不死鳥が生まれた日だとか。

 作戦の開始日を今日にしたのは、「不死鳥様のご加護を」と、げんを担ぐ意味もあった様だ。


 うむ、実に胡散臭い。誰が不死鳥の生誕を目撃したんだよ?


 ……って突っ込みたい俺だったが、そういう訳にもいかなくなった。


/***************************/


 名前:ノイン

 性別:俺

 種族:朱輝鳥(亜種)

 年齢:1

 状態:健康

 契約:主:アーリィ・アカトラム


 生命力:   95/95(19+76)

 魔力量: 2063/2063(2000+63)


/***************************/



 年齢:1 だってよ……。


 この世界に生まれてから、一年経過したということ。

 昨日、ステータスを確認した時は確かに0歳だった。

 つまり、『不死鳥の日』が俺の誕生日だったという訳だ。


 ……これは、偶然なのかね……。


 今日を『不死鳥の日』と名付けた存在は、何者だったのか?

 ……まあ、考えても分からんわな。


 話は変わるが、アーリィの従魔となってから毎朝の日課になっていることがあるんだ。

 それは、俺のステータスを《板》に表示させてアーリィに見せること。

 ご主人様の「従魔の健康チェックは、主の義務なのです」との言葉で始まったんだ。

 お風呂の前に毎回体重計に乗るようなものだと思ってくれ。


 で、この習慣により、本日もいつもの通りに《板》を踏みつけて誕生日だと判明した訳だ。

 当然、アーリィに《板》を見られた訳で。


「……あれ? ――えっ!? ノイン1歳になってるよ!? 今日が誕生日だったのっ?!」


 まあこうなった。

 眼球が血走ってますよご主人様。


「なんと……『不死鳥の日』が誕生日とは。……ノインさんって本当は不死鳥なのではないですか?」


 エリスさん、その目を細めた可愛らしい微笑みから冗談での発言だと分かるんだが、主に罪悪感的な意味で心臓に悪いので止めてください。


 俺がエリスさんの精神攻撃によりダメージを負っていると、突然パンッと両手を合わせたアーリィ。


「うぅ……ごめんノイン! 誕生日プレゼント用意できてないの……!」


 そりゃそうだろう、今知ったんだからな。逆に用意できてたら吃驚だよ。そこまでいってたらもう【ノイン・Ⅹ】だよ。ノインそのものだよ。逆にこの髪飾りをプレゼントするよ。

 というかこの世界でも誕生日プレゼントって概念はあるんだな。


「ピヨヨ」(気にしてない)

「うぅ、ごめんね……。今回の事が落ち着いたら、絶対にプレゼントするからね」

「その時は私も一緒に品物を選ばせてもらえませんか? 他ならぬノインさんの誕生日プレゼントですので」

「もちろんだよエリス。一緒に良いものを選んで、ノインを感動させちゃおう! そして「ピギィピギィ」泣かせちゃおう!」


 それだと苦しんでいますよ? 別の意味で泣いていますよ?


 ……などと、二人が俺へのプレゼントの話で盛り上がっている……ように見せている。

 討伐隊のことが頭にあるのだろう、二人共、笑顔が硬く、何処かぎこちない。

 わざと明るく振る舞って、自分に言い聞かせている感じを受ける。

 大丈夫だと。不安なんてない、討伐隊は万全の状態で挑んでいる、何の心配も要らない。だから大丈夫。


 そんな心の声が聞こえてきそうだった。



 ~~



 今は昼を少し過ぎた頃。俺達は第三の防壁上で町の外を監視している。

 三重の防壁は内側から第一、第二、第三と呼ばれているので、俺達が居るのは一番外側だ。


 俺達は新人だが、ビシャス・オーガを六体斃した実績がある。よって、襲撃があるとすればその可能性が最も高いとされる西門、もしくは南門へと配置されると聞かされていた。その予定通り、俺達は南門の防壁上で監視任務に就いているという訳だ。

 俺は相変わらずアーリィの背嚢に入っているのだが、以前に開けた覗き穴から、微かに周囲の様子が窺える。

 周りには他の解放者や兵士、残った騎士団員の姿があり、皆それぞれの任務の為に動き回っている。

 大型の照明魔道具で防壁外の草原を照らす者。定期報告で伝令として駆けている者。などなど。


 ここで、重大な発見があった。……何やら不思議な人達が居るのだ。

 兵士や騎士団員と思われる人達は兜と鎧を着けている。だが、それ以外の人達、恐らくは解放者だと思われる人達の中に……その、ほんの僅かなんだが……時折……獣の様な耳や尻尾が、チラチラと、フリフリと……。

 耳と尻尾以外は普通の人間なんだが……失礼ながら犬っぽい人の種族を覗かせてもらったところ、『種族:ウルード』と表示されました。……狼っぽいね。

 ……ま、まあ、不死鳥が実在する世界なんだ。彼等のような存在がいても不思議じゃないよな、うん。

 俺が今まで出会った人達は皆がヒューノだったので、この世界の人間はヒューノだけだと思い込んでいたようだ。

 人数の比率で言えば……数百人に一人って割合だ、パッと見た感じだけどな。たまたまカルナスでは少ないだけかも知れないし、今回の作戦で他所から応援に駆けつけてくれた可能性もある。それと、兜や鎧の内側までは確認できないので、兵士や騎士団員の中にも居るかもな。

  

 ……ただ、彼等も含めて、表情は皆が共通して硬い。襲撃を警戒してではなく、作戦の成否に不安を感じているのだろう。

 アガタ王国では初めてとなる、神聖具を用いての守護者討伐作戦。……憂いを抱くのは当然か。



 今回の討伐隊……正直、付いて行こうかどうか迷った。

 討伐対象であるオーガ型の守護者は、アーリィの姉であるディーナを殺せる程の強さを持っていて、その時のディーナは今のジークと同じぐらいの強さだったらしい。ならば今回、ジークが無事で戻って来るという保証はない。

 幾ら今回は精鋭を揃え、対守護者の討伐隊を組んでいようとも、何があるか分からない。

 守護者が四年前と同じ強さだとも限らないからな。撃退されてから四年もの間、只々じっとしていたとは思えない。傷の治癒に四年も掛かるということはないだろう。

 そして、一度撃退されたにも拘わらず、また動き出した。それは、行動を起こしても大丈夫だとの考えに至れる何かがあるが故、なのだと思われる。


 俺は今まで三体の守護者を斃している。今回の守護者も俺が付いて行けば斃せるという自信はある。

 俺の目的は邪結晶を潰し呪雲を晴らすことだ。ならば討伐隊に付いて行ってしまえばよかったのだが、それではアーリィから離れることになる。

 俺はアーリィの従魔だ、彼女から離れる気はない。だからと言って、アーリィを守護者討伐に連れて行く気も、今はない。彼女はまだそこまで強くはないからな。

 契約したことでステータスは上昇したが、まだその新しい力を使いこなせておらず、守護者と対峙すれば即座に殺されてしまうかも知れない。即死してしまえば【聖炎】での治療も間に合わない可能性がある。


 俺はアーリィと共に呪雲を晴らすと決めたから従魔となった。

 アーリィとはいつか一緒に邪結晶の浄化に向かう気ではいるが、しかしそれは今じゃない。今のアーリィはまだそこまで成長していない。

 アーリィから離れる気はない。しかしやはり、ジークやダギルさんも心配だ。


 今日になるまで、そうやって悩んでいた。


 そしてその結果、俺は今、此処に居る。


 ジーク達は、今の自分達ならば守護者を討伐できると判断したからこそ、今回の作戦を実行したんだ。俺よりも長くこの世界で生きてきた彼等がそう判断したんだ。なら、そんな彼等を信じてみようと思った。

 何も俺だけしか守護者を討伐できないという訳じゃないだろう。鬼型の守護者は一度撃退された。それはつまり、逃げなければ危なかったということだ。

 それに今回、彼等は神聖具という切り札も用意している。

 本当に神聖属性が使えるのならば、俺の聖炎と似た威力だと推測できる。そして、俺はその聖炎で守護者を斃しているんだ。討伐が成功する可能性は十分にあると思う。


 ……などと理屈を並べたが、俺はアーリィを優先させただけ、というのが本音だろう。

 大事なものを全て守るなんてのは無理だ。なら、優先順位を付けるしかない。そして、俺が一番大事なものは、大切な存在は、アーリィだ。

 カルナスを襲撃される可能性がある以上、この町に残るご主人様から離れたくはない。

 だから、俺は此処に居るのだろう。


「もう作戦は開始されてるかな……?」


 アーリィが誰とも無しに呟いた。

 もう昼を越えている。向こうでは特にトラブルが起きていなければもう作戦は開始されているだろうし、ひょっとしたらもう終わっている可能性だってある。


「そうですね、もう始まっているかと……」


 エリスさんも声に不安を滲ませている。


「何て言うか……不気味、だね……。ビシャス・オーガが襲撃してくるかもって身構えてたけど、そんな気配は全然ないし……」

「襲撃がないに越した事はありませんが……確かに、気味が悪いですね」


 向こうでは激戦を、死闘を繰り広げているであろうことは想像に難くない。

 しかし、ここは静かなものである。

 現在進行形で決死の作戦が、守護者の討伐が行われているという実感が湧かないのだ。

 それが不気味さとなって感じられているのだろう。


 カルナスへの襲撃があるかも知れないと判断したのは、ビシャス・オーガの特性とその数からだ。

 四年前にビシャス・オーガが現れたときは、合計で三百体以上は出現したという。

 そして奴等の出現は、守護者が現れる前兆。恐らくはオーガ型の守護者の尖兵。

 周辺を偵察し、守護者に情報を届ける役割があるのではないかと推測したようだ。そしてカルナス付近で俺達は奴等に遭遇した。ということは、カルナスの情報が守護者へと、そして、守護者から他のビシャス・オーガへと渡っている可能性があるのだ。

 この予測が当たっているとしたら、この町への襲撃が無いと高を括るには少し不安が残る。しかし、必ず襲撃されるとは推測論に過ぎて、断言できない。

 つまり、俺達防衛組は“万が一”に備えているのだ。


 エリスさんの言う通り、できればこのまま襲撃がないに――っと、これ以上は嫌な予感がするから控えておこう。


「元々、万が一って言ってたし、このまま襲撃なんてないんじゃないかな?」

「そうですね。仮に守護者の尖兵だとして、その守護者が襲われている時にそこを離れてまでカルナスを襲撃するとは考え辛いですし……」


 おい止めろ。

 俺の嫌な予感は結構当たるんだ、そんなこと言ったら――――…………あぁ、もう……。




 南西から超高速で接近する魔力反応。

 とても大きく、そして……嫌悪感しか抱けないこの反応。


 ……どうやら御出でなさったようだ。


 しかも…………親玉がな。





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