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第14羽   鳥、はノーパソっぽいものを踏む

 

「で……対象は”そいつ”かい?」

「ああ、そうだ。――アーリィ」

「はい、お父様」


 外套から解放されて俺登場。


「ピヨ、ピヨピヨ」(ども、初めまして)

「…………………………説明しな、ザジム」


 挨拶した俺を無表情で数秒間見つめていた婆さんが、俺への視線を外すことなくザジムさんへと説明を要求した。




 カルナスに着いてから次の日。

 俺は今、解放者ギルドとかいう施設のギルドマスターとやらの部屋に居る。

 《瞳》とやらで俺のステータスを確認する為だ。


 皆が朝食を食べ終えたら、直ぐにギルドへと向かうことになったのだ、外套に包まれて。

 因みに、俺の朝食はテラスでコッソリとセルフサービスだ。


 解放者ギルドってのは昔は冒険者ギルドって名前だったものを改名したものらしい。

 多分、ファンタジー小説やゲームなんかで出てくる施設と同じようなものだと思うが、詳しくは分からない。訊く前にここに着いちゃったからな。


 この部屋に居るのは、俺、アーリィ、ザジムお父様、クソ兄貴、エリスさん。

 んで最後に、この部屋の主であるこの怖い婆さんだ。

 黒木の机に両肘を付き、金の瞳を半分に伏せて怠そうに、しかし一言一句聞き逃すまいとザジムさんの説明へと耳を傾けている。

 

 婆さんの名前はルルエノール。

 解放者ギルド、カルナス支部のギルドマスターだ。元解放者でそのときのランクはⅦだってさ。ここに来るまでにアーリィが説明してくれた。

 

 俺はこの黒木の机の上でザジムさんの話が終わるのを待っている。

 この机って木製だから多分高級品なんだと思われる。

 まあ、ギルドマスターの机なんだし当然か。


「――――という訳でな、ノインのスキルを確認したいと思い《瞳》の使用を打診したのだよ」


 ザジムお父様がこれまでの説明を終えたようだ。


「…………右脚を上げてみな」

「ピィ」(ほい)


 俺に視線を合わせ、唐突に命令してきた婆さん。

 しかし鳥さんに隙はない、一瞬も遅れることなくこの可愛い猛禽爪を掲げてみせた。


「……どうやら本当のようだね。……いいだろう、確かにこれは《真なる瞳》を使うべき案件だと判断する。今準備するから少し待ってな」


 愛くるしさ満点だろう片足を上げた俺の姿をしばらく眺め、婆さんは机の引き出しをゴソゴソと漁り出した。

 

 ほう、《瞳》ってのは《真なる瞳》っていうのが正式名称なのか。

 ……なんか名前も効果も【真眼】に似てるな。何か関係あったりしてな?


「準備できたよ。その鳥の手……足をここに乗せな」


 お、準備完了か。机の上に用意されたそれを観察してみる。

 

 これが《真なる瞳》……なんか見たことのあるフォルムだ。

 30cm四方の板を上、50cm四方の板を下としてL字に繋がっている。

 んで上の板の上端中央部に直径5cm程の目玉型球体が一つコチラを向いている。


 ……ウェブカメラ積んだノートパソコンみたいだ。

 この目玉型の球体が《瞳》と呼ばれる由縁なのだろうか?


 婆さんは下の板を指して足を乗せろと言っている。

 ということは下の板が入力、上の板が出力だろうな。


 ……ん? ならこのウェブカメラはなんの役割があるんだ? 顔写真でも撮影するのか?

 いや、カメラと決まった訳じゃないな、取り敢えず言われた通りに足を乗せてみようか。


 では、よいせっと。


「そのままじっとしてな…………よし、もういいよ」


 お、やっぱり上の板が出力だったようだ、文字が浮き出てきた。

 どれどれ……


/***************************/


 名前:ノイン

 性別:俺

 種族:朱輝鳥(亜種)

 年齢:0

 状態:健康


 生命力:   18/18

 魔力量: 2000/2000


<固有スキル>

【全言語理解】


<スキル>

【炎熱耐性・Ⅴ】【炎熱魔法・Ⅴ】【風魔法・Ⅰ】

【生命感知】【魔力感知】【魔喰】【魔力制御】

【身体強化・Ⅰ】


/***************************/


 よし、完璧だな。《真なる瞳》でも【神の悪戯】は見破れないようだ。

 スキルは所持していた方が色々と言い訳できるんじゃないかと思ったモノを表示させておいた。


「…………何だい、これは?」

「固有スキル【全言語理解】。……これか」

「【炎熱魔法・Ⅴ】。上位属性魔法が0歳でレベルⅤか……ランク・Ⅵのモンスター並み。そして二つの感知スキルに……【魔喰】」

「ノイン……凄い」


 《瞳》に表示された内容を見た皆が、それぞれ呟く様にして感想を漏らした。

 順に、ルルエノール婆さん、ザジムお父様、クソ兄貴、アーリィだ。


「性別:俺 だって? ふざけてんのかい、この鳥は?」


 ……すいません。その通り、ふざけた結果です。…………そんなに睨み付けないで下さい。


「ルルエ、スキルの詳細を表示してくれ、固有スキルの【全言語理解】だ」

「ちっ、分かったよ……ほら」


 ザジムさんに言われた通り、しかし面倒臭そうに白の混じった茶髪を掻きながら《瞳》の下の板へと指を滑らせた婆さん。


 お、やはりスキルの詳細も見られるようだな、表示が変化した。



【全言語理解】:

言語と認識された言葉を全て理解でき、一度理解した言語を習得する。

発声器官の違う言語を習得した場合、発声器官の有無に拘わらず魔力を消費して一時的にその言語を口にすることが可能となる。



 【真眼】で見られる内容と変わらないな。

 ……そういえば【神の悪戯】で偽装して作ったスキルはちゃんと表示されるのかね?

 一応、【真眼】で確認して大丈夫だったから《瞳》でも問題ないとは思うが。

 因みに、【神の悪戯】でスキル欄を偽装する時は自分の持っていないスキルを表示させることはできなかった。【水魔法・Ⅰ】とか無理だったんだよな。

 【炎熱魔法・Ⅴ】と【炎熱耐性・Ⅴ】はそれぞれ【紅炎】と【炎熱系統完全耐性】に含まれているから表示できたんだと思う。

 

「凄まじい性能だな、このスキルは。……確かにこのスキル効果なら0歳でここまで言葉が理解できているのも納得できる」


 ザジムさんが【全言語理解】の詳細を読んで唸るように呟いた。

 どうやら俺の知能については納得してくれたようだ。


「……ノイン、この説明通りならもしかして喋れるの?」


 そして予想していた通りアーリィがそこに気付き、俺に確認してきた。

 対策は考えてある。


「アーリィ、その通り」


 俺はヒト言語でアーリィに返答した。


「っ! ノイン、私の名前……!」


 両手で口元を覆い、目を見開いたアーリィ。


 この世界で初めて口にする人の言葉は「アーリィ」にしようと決めていた。

 ……蹴られた時に「ごふぉ」とか言ったのはノーカウントでお願いします。

 それと、幾らスキルで言語を習得したとしても、いきなり滑らかに言葉を口にすると怪しまれると思ったので片言で喋ることにしました。徐々に上達した様に見せていく予定だ。

 

 というかアーリィ、泣かないでくれ。

 ……そこまで喜ばれるとは思わなかったよ。


「ノイン、喋れるなら何故今まで鳥の鳴き声でやり取りしていたんだい?」


 ジークがそう訊いてくる。

 まぁ当然そうくるよな。


「魔力消費、大きい」

「魔力が……? ルルエノール様、表示の変更をお願いします」

「あいよ。鳥、足乗っけな」


 ここで【神の悪戯】発動……よし。

 もう一度ノーパソに足を乗っけると表示が更新された。



 魔力量: 1400/2000



「魔力が600も減っている……今ノインは二度喋った……成程」

「一度の発言で魔力消費が300ってことかい、ノイン?」


 ジークの呟きを引き継ぐようにして、婆さんが俺に確認してきた。


「そう」


 俺は再びヒト言語で答えて、もう一度足を乗せる。

 勿論、【神の悪戯】は忘れてない。



 魔力量: 1100/2000


 

「成程、この燃費では六回しか発言できないのか。そしてこの消費量だと少しの発言で魔力が残り少なくなる。ノインのステータスはどう見ても遠距離魔法型。魔力の温存は当然か」


 顎に手を当て、考察内容を呟きながら納得した様子を見せたジーク。


 実際には5ぐらいしか消費しないから幾らでも話せるんだけどね。すぐ回復するし。


「そんな……。ノイン、ずっとお喋りできないの?」

「ピィ」(うぃ)


 目を潤ませていたアーリィだが、俺の発現回数に限度があると分かり、その表情を曇らせてしまった。


「うぅ……でも仕方ない、よね。……ノイン、私の名前を呼んでくれてありがとう」

「ピヨヨ」(どういたしまして)


 落ち込んだ様に見えたが直ぐに笑顔を作り、俺に感謝の言葉を伝えてきた。

 アーリィはスキルなしでもやり取りできるのでは? とは言わないでおこう。


 まぁ何にせよ、これでもし俺が咄嗟に喋ってしまっても言い訳ができるようになったな。

 因みに、先程【神の悪戯】で魔力量を書き換えたときは、実際の魔力を10000程消費して書き換えている。

 《瞳》は神聖属性での読み取りをしているかも知れないからな、念の為だ。


「はぁ……とんでもないもの拾ってきたね、アカトラムのお嬢様は」


 俺を見ながら指先を自分の額へと添え、呆れた様子で溜息を吐いた婆さん。


 俺は拾われた訳じゃない……とは言い切れないな。

 途中からは実際に「よいしょ」って拾われて抱っこ状態でここまで来たからな。


「えへへ……ノイン、褒められたよ」

「褒めてんじゃないよ」


 照れた様子で片手を後頭部に当てて、俺に笑い掛けてきたアーリィさん。

 しかし即座に婆さんから否定の言葉を贈られた。


 アーリィ、君の脳はどうなっているんだ? このやり取りを実際に目にする事になるとは思わなかったよ。

 というか、もう素を隠す気ないよね?


「はぁ……これはベルライトに知られたら大騒ぎになるだろうね」


 再びの溜息と共に、眉間を揉みながら婆さんがそう口にした。

 さっきから溜息ばかりですね? 老けますよ?


 というか……ベルライト?


「聖王国の第三王女の件か、確かに厄介なことになるな」

「流石に知ってるようだねザジム、つい先日にベルライトから入ってきた情報なんだけどね」

「聖王国から来た商人が居てな、話を聴かせてもらった」


 ふむ、今の会話内容から推測するにベルライト聖王国、でいいのかね?

 んでそこの第三王女が関係していると。


「……っ……」


 ん、アーリィの様子がおかしいな、目を泳がせてソワソワし始めた。


 ……少し焦っている?


「そういえばアーリィ、何故急に単独で森に行こうと思ったのかな?」


 ジーク兄貴が微笑を湛え、急に話を変えてきた。


 ……どういうことだ?


「……うっ、あ、え……その……」


 体の前で両手を揉みながらめっちゃ狼狽えだした。目は完全に斜め下を向いている。

 それじゃ何か隠してますって言ってるのと同じだぞ……。


「アーリィ、もしや……」

「……すみません、お父様。商人さんとの話を盗み聞きしました……」


 ザジムお父様に気付かれたと観念したのだろう、正直に盗み聞きしたことを話し、頭を下げたアーリィ。


 盗聴とはね、中々にアグレッシブなお嬢様だな。

 それで? 一体何の話を聞いたんだ?


「そうか、それで一人で森へ……」


 なんだか沈痛な面持ちで納得してしまったザジムさん。

 内容教えてくれないかな?


「聖王国の第三王女様が朱輝鳥のテイムに成功した。という話ですね」


 って思ってたらジークが説明してくれたよ。……明らかに俺に向かってな。


「ああ、それさ。朱輝鳥は伝説にある不死鳥の眷属と云われている、そんな存在をテイムすることに成功した自分達は間違いなく巫女の末裔だ、って騒いでるようだね」


 婆さんが「はんっ」といった感じで吐き捨てる様にそう言った。


 ……え? 俺って伝説なの? というか巫女の末裔? 

 また新しい単語が出てきたな……。


「そんな時に、朱輝鳥の亜種で名前はノイン。しかも呪雲の下でケロリとしていて人間に対して友好的、おまけに言語を理解して話すこともできるなんて存在のことを知れば…………」


 俺を見ながら俺の事を説明した婆さん。


 あー、よく分かってない俺でも厄介なことになるって分かるわ。……何言ってんだ俺?

 というか、それとアーリィが単独で森に向かったことはどう関係してるんだ?


「第三王女は朱輝鳥を従属させる際、たった一人で朱輝鳥の住処へと赴き、王女自身の実力でもって屈服させ、テイムに成功した。らしいですね」


 あー、はいはい有難うございますジークのクソ兄貴。

 俺が聞き逃さないようにゆっくり説明してくれて感謝しています。


 ……成程な。

 一人で、実力で屈服、テイム成功。

 アーリィが取った、取ろうとした行動そのままだな。

 俺が蹴り飛ばされた理由がやっと分かったよ。


 どうやら聖王国の第三王女はアーリィと同じようなスキルをもっているんだろう。

 そして第三王女はテイムに成功した。ならその方法を真似れば自分も成功するんじゃないかと考えたんだな。そしてその結果、死にかけた。いや、殺されかけた。

 アーリィは頭が悪い訳じゃない、危険だと分かっていたはずだ。だがそれでも従魔を求め、森へと向かった。

 何がアーリィをそこまで動かしたのか?


 ……アーリィの夢とやらに関係してるのだろうな。


「……」


 分かってるよジーク……そんなに見つめなくてもいい。

 約束は守るさ。


「アカトラムのお嬢様が王女様と同じ行動を取って、その先で同じように朱輝鳥を見つけるとはね」


 婆さんが苦笑しながらそう口にした。

 自分達は特別だと騒いでいる聖王国側からすれば、大した皮肉となるんだろう。


「ルルエノール、できればこのことはギルド本部には」

「それは無理だねザジム、わたしゃ支部のギルドマスター、ベルライトにある本部には逆らえない。報告の義務がある」

「そんな、ルルエノール様!」


 アーリィが婆さんに詰め寄った。

 ギルドの本部はよりにもよってベルライトにあるのかよ。

 報告の義務があるってことは俺のことを報告しなければならないってことか……。

 ギルド本部と聖王国がどういう関係なのかは分からないが、俺にとって良いことにはならないだろう。

 面倒な事になりそうだ。


「落ち着きなお嬢様、まだ終わってないよ。……報告の義務はあるが、報告のタイミングまで決められている訳じゃないからね。今は例の件で忙しいんだ、報告してる暇なんてありゃしない。時間ができた時にでもゆっくり報告するさ。でもこのままうっかり忘れちまうかもしれないね、私ももう歳だ」

「ルルエノール様……」

「例の件で忙しいのはあんたも同じだろう、ザジム」

「……そうだな。恩に着る」


 なんかよく分からんが、報告はしないことになったようだな。

 といってもずっと報告しないって訳じゃないだろう、いずれバレるときは来る。

 その時が来るまでに対策を考える時間をくれたのかも知れないな。

 例の件ってのが謎だが。


「さて、今日はもう帰りな、わたしゃ忙しいんだよ」


 婆さんがそう言いつつシッシッっと手を払い、退室を促してきた。


「有難うございました、ルルエノール様。失礼します」

「では、失礼する」

「ああそれと。――その鳥、あんまり見せびらかすんじゃないよ」


 その婆さんの言葉を背に、俺達は解放者ギルドを後にした。







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