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第二十話「四聖再び」

「爆薬がいるだと? 一体どんな恐ろしい悪事を企んでいるんだゲル!」

「違うんだよ、魔王ベルフェゴールを倒すのに必要なんだ! 俺の透明化の異能なら気付かれずに奴に近づける、そこで爆薬を奴の体に放り込んでドカンだ! 完璧な作戦だろ、これで皆助かるんだ!」

「何が完璧な作戦だ? 透明化だぁ? なんだそりゃ? お前が無敵のゲルって恐れられてたのは知ってるがあくまで人間同士の喧嘩(けんか)で強かったってだけだろ。魔王に敵いっこねぇ。大体爆薬なんて持ってるわけないだろ、こんな地方の町の駐在の兵士に過ぎなかった俺が」

「クソ、駄目なのか……」


 ゲルは悔し気に拳を握りしめる。元兵士の男は取り付く島を与えない。


「帰った帰った。お前仕事ほっぽり出して、そんなんだから駄目なんだぞ」


 項垂(うなだ)れ、ゲルは靴屋への帰途につく。この町で魔王を倒せそうな兵器は見つからなかった。


「後はチビボスに貰ったカタナか……あれで魔王の首を斬るには俺の身長が足りねぇぞ……」


 考え込みながらゲルが靴屋に戻ってくるといの一番に店主の罵声が飛んだ。


「こらゲル! どこ行ってた!」

「す、すみません、緊急事態でして……」

「お客さんを待たせるな! お前に聞きたいことがあるそうだぞ」

「何ですって?」


 ゲルがふと店内を見回すと髪の色がバラバラの三人組と目が合った。彼らしか客がいなかったので近づく。すると三人のうちの茶髪の眼鏡の男が言った。


「君がゲル・レオンか。魔王ベルフェゴールを見たという話は本当か?」




 旧フェニクシア王家の離宮では今宵も狂気の宴が繰り広げられていた。


「いやぁ、助け、助けてぇ! ぐぎゃぁぁぁ」


 一人、また一人ベルフェゴールに食べられていく。食事の際、ラブミーによる洗脳を解き、女達の反応をいちいち確かめた。恐怖に(すく)み動けないか、逃げようとしても捕まるか、どっちにしろ地獄だった。その様子を無感情でヒカルとカンナギは見つめていた。

 とうとう残されたのはヒカルとカンナギだけになった。しかしベルフェゴールに服を脱がせて食べる気配はなく、何やら物思いに(ふけ)っていた。

 しばらくそうしていると、ベルフェゴールの目の前に一枚の羽が落ちた。それから頭上より声がした。


「何をしてるんだベルフェゴール、ヒカル・シルバーソードを捕まえたのにずっと放置して、さっさと殺せ」

「これはこれは主」


 ベルフェゴールの真上からルシファーがダスクを抱えて飛来した。怠惰(たいだ)の魔王は面倒なことになったなと思いつつ言い訳する。


「この女達は仮にもアスモデウスを倒した異能者、殺すのはもったいない、利用価値があると思って取っておいたのです」

「何寝ぼけたこと言ってやがる、そんなだからアスモデウスは()られたんだぞ。お前らは俺の言うことを聞いてればいいんだよ!」

「面倒くさい……が仕方なし」


 魔物を操る異能を持つダスクには逆らえず、ベルフェゴールはヒカル達を殺そうと決めたその時だ。馬の(ひづめ)の音が三つ近づいてきた。


「ダートさん、こっちです、いた!」


 姿は見えないがゲルの声が聞こえた。彼はかつてのフェニクシアの四聖の一人ダートの馬に一緒に乗っていた。


「嘘だろ……二体いるぞ……」


 ゲルにはルシファーがいることは想定外で狼狽(ろうばい)する。だがダートは冷静だった。傍について来ている二人に命じる。


「フレイはベルフェゴールを、アクアはルシファーを」

「よっしゃ!」

「はい」


 四聖の一人、銀髪のアクアは水の(かたまり)をルシファーとダスクにぶつけ(おぼ)れさせようとする。だが六枚羽の魔王は自由自在に空を飛んでかわす。

 一方四聖の一人、赤髪のフレイが吹き付ける猛火に包まれ、ベルフェゴールは苦しみ叫んだ。


「アツイアツイアツイーッ!」


 するとラブミーによる洗脳が解け、ヒカルとカンナギは我に返る。


「アタシは一体……またやられたのか?」

「クソ、私の心をよくも犯したなベルフェゴール! カンナギ、物干し竿!」

「あいよ!」


 ヒカルは自分の身長より長いカタナを手にし、燃えるベルフェゴールに向かって駆ける。


「その首貰う!」

「小生を舐めるなメスブタ共!」


 ベルフェゴールはアイスの異能で氷塊(ひょうかい)を降らせるが、ヒカルはもうベルフェゴールの首元に飛び込んでいた。斬り落とされた魔王の首が落ちた氷塊の上に載ったかと思えば、どす黒い血を垂らして滑り落ちていった。

 ヒカルは空の上のルシファーとダスクに気が付き吠える。


「ダスク・ルシウスゥー!」

「調子に乗るなよヒカル、お前は地を這う虫けらなんだよ」

「お前達、その場を動くな!」


 ダートが叫ぶとその場にいる全員それぞれを盛り上がった土がドーム状に覆い被さった。その後鋭い羽根音がして、ズサッと地面に鋼鉄のように硬いルシファーの羽根が刺さる音がした。

 音が鳴り止んでヒカルは土の防御壁から外に出て空を見たが、もうルシファーの姿は見えなかった。

 サタンの力を手に入れ、アスモデウスとベルフェゴールの二体を倒した。けれどまだダスクには届かないのか。ヒカルには目的を一つ達成した嬉しさより悔しさが(まさ)った。

 必ずダスクを倒してみせる。そのためには怒り爆発の異能をさらに使いこなす必要があるとヒカルは思った。

 そして目的達成のためには時には仲間の助けが必要だとも考えた。


「今回は危なかった。こいつらを呼んだのはお前だろ。助かったよゲル」

「それほどでもねぇですよボス……」


 敵がいなくなって姿を現したゲルが照れくさそうに言った。


「それにこの人達、魔王を探してたみたいで、それで俺に話を聞きに来て」

「まさかよりにもよってお前らが加勢に来るとは思わなかったが」


 ヒカルは四聖の三人を(にら)む。並々ならぬ因縁を感じてカンナギは尋ねる。


「ヒカル、こいつらも知り合いか?」

「前に話をしたかもしれないが、こいつらがフェニクシアの四聖っていう異能者共だ。私とセイラを襲ってきた」

「ああ」

「あの時とは違う。今回は魔王を倒すという利害が一致した。何も助けたわけじゃない。それだけのことだ」


 ダートは眼鏡を弄りながら冷たく言い放つ。


「何言ってんだ、困ってる時はお互い様だぜ!」

「フレイ、ダートがキメているんですから余計なこと言わない」


 フレイの横やりをアクアは(たしな)める。それから彼はヒカルに質問する。


「ベルフェゴールを倒した時のあなたの動きは以前とは別人でした。一体どうやってあそこまで強くなったんです?」

「俺からも疑問があるぜ! セイラ姫は一緒じゃないのか?」

「そうだ、セイラの遺体だ……!」


 ヒカルはベルフェゴールの死体が崩れて残った便器の中に向かって走り、飛び込んで中を探った。


「うわぁ、大変だぜ……」


 カンナギは便器の中でも躊躇(ちゅうちょ)なく突っ込んでいったヒカルに同情する。

 やがてヒカルは奪われたセイラの頭部と風呂敷、そして新たに右脚を発見した。便器の外へ這い出し、戻ってくる。


「良かった……またセイラの遺体が見つかった」

「お疲れ様だぜ」

「セイラ王女は死んだのか」

「お前達のせいでもあるんだぞ」


 ヒカルはダートらを強く睨みつける。だが気圧(けお)されず彼も言い返す。


「どういう言いがかりだ。説明してくれ」

「いいだろう」


 四聖との戦いでセイラがドラゴンになり火炎を吐ける異能者であることを知ったダスクはルシフェン山に彼女を誘い込み、家族の死体を見せて怒らせ氷漬けの魔王に火炎を当てさせ魔王の封印を解き、彼女をバラバラに裂いて殺したことをヒカルは(まく)し立てた。するとフレイが怒りだした。


「魔王を復活させたのはお前らのせいじゃねぇか! どうしてくれるんだ!」

「フレイ、よせ。どう見ても悪いのはダスクという者だ」


 ダートが冷静に窘める。それを聞いてヒカルもダスクが悪いのであって四聖を責めても何にもならないと我に返る。


「すまなかった。その通りだ、お前達に責任はない。ここで言い争っても仕方なかった」

「わかればいいんですよ。それであなたはダスクと魔王に復讐を果たすために旅をしているのですか?」


 アクアが尋ねるとヒカルはそうだと頷いた。


「イリュセウでアスモデウスを倒した。ザクスにベルゼブブがいると聞いてザクスに向かっている途中ベルフェゴールの話を聞いて倒しに行ったのだが……」

「捕まってしまったと?」

「まぁ、そんなところだ」


 ヒカルは恥ずかしそうに下を向く。アスモデウスのチャームに耐えたから大丈夫だろうというのは油断だった。自分を戒める。


「アスモデウスを倒したというのは驚きだ。それにベルフェゴールも倒したし、お前は異能者ではなかったはずだ。その力はなんだ?」


 アクアが前に()いたのと似たようなことを改めてダートが質問した。ヒカルは今度は答える。


「第七の魔王サタンと契約し、身体能力を引き上げる怒り爆発と魔王をも斬れる一閃(いっせん)という異能を手に入れた。これで魔王共を倒している」

「第七の魔王……だと!?」

「ルシファー達と仲間割れして封印されたらしい。メサイア教の教典には載ってない。でもジャポニカには憤怒の魔王として存在が伝わっていたようだ」

「ほう……」

「なんだそりゃだぜ」


 四聖の三人は未知の魔王の存在に驚いているようだった。

 ヒカルは四聖が来てからずっと気になっていたことをそろそろ訊いてもいいだろうと思って尋ねる。


「なぁ、金髪の小僧はどうした? お前ら三人だけで来たのか?」


 すると感情がすぐ顔に出るフレイが沈痛の表情になる。アクアも目を伏せ、ダートの眼鏡の奥底がギラリと光った。


「話は(さかのぼ)るがいいか? あれはザクスに魔王が襲撃しに来た時のことだった……」


 ダートは語り始める。今となっては遠い日のこと、ザクス崩壊の時のことを。


「始めベルゼブブとマモンが襲来した。その時私達は四人ともザクスにいた。奴らが町を破壊し人々を殺戮(さつりく)し始めたので、私達は総理の命でフェニクシア軍と共に魔王共に立ち向かった。しかし奴らは恐るべき異能の使い手だった。まず奴らは空を飛んでいて剣は届かないし鉄砲や大砲は易々とかわされる」

「それなんだよ。アタシの剣を生やす異能もベルゼブブには効かなくてさ」


 カンナギが頷く。彼女に話を割り込まれても気にせずダートは話を続ける。


「それからベルゼブブは大量の魔物を従えていた。その大軍を使って民間人を虐殺していた。さらにフレイの能力と似ているが口から火炎を吐く。そして特筆すべきは大量の(はえ)を射出し、その蠅に()りつかれた者は即座に灰になるという恐怖の異能を持っていた」

「あーアレはヤバかった。馬が殺されて、アタシはなんとか逃れて走って逃げて、川に飛び込んで九死に一生を得た。ヒカルも奴と戦うなら気を付けた方がいいぜ」

「ああ、参考になる」

「一方でマモンには多種多様な異能があった。奴が言うには殺した異能者の異能が使えるらしい。私達は懸命に戦ったが頭の中では敵わないと悟っていた。その上レヴィアタンが魔王側に加勢として現れた。その時ウィンドは覚悟を決めたのだろう……ここは自分に任せて私達は生き延びてチャンスを待てと言った。そして竜巻で私達を吹き飛ばした。ザクスから何キロも離れた地点にふわりと着地したその時まで、ウィンドは持ちこたえていたのだろう。しかしザクスは壊滅し、魔王に占領された」

「そうか。お前らはそれでどう思った?」

「ウィンドは小憎たらしかったけど大事な仲間だった! 悲しいぜ、仇を取ってやりてぇ!」

「珍しくですがフレイに同感です」

「ウィンドは四聖として誇れる最期だった。そしてあいつに報いるために私達は魔王の手からザクスを取り戻さなければならない」


 四聖もまた、大事な人を魔王によって失った者達だった。ヒカルは彼らとの共闘を考える。


「私達はザクスにいる魔王ベルゼブブを倒す気でいる。お前達もそのつもりなんだろ?」

「実はザクスを取り戻すべくフェニクシア軍の残存戦力をザクス近郊に結集させつつある。私達だけでは心もとないと思っていたが、ヒカル・シルバーソード、お前が加わるならザクス突入を決行できる。ベルゼブブは幾千もの魔物を従えている。お前一人で相手するのは骨が折れるだろう。雑魚は私達に任せてベルゼブブを斬りに行け」

「じゃあそうさせてもらおう。ダートとか言ったな……」

「ダート・アトスだ。土を操る異能を持っている。四聖の中では最年長でまとめ役をしている」


 ダートは眼鏡をずらして金色の瞳を覗かせて自己紹介した。


「俺はフレイ・ポルトスだ! 炎を操る異能を持っているぜ!」

「私はアクア・アラミスです。水を操る異能を持っています」


 フレイとアクアもリーダーに(なら)って自己紹介した。


「俺はゲル・レオンだ。透明化の異能を持ってる。ボスが行くなら俺も連れていってくださいよ」

「ゲル、いいのか?」

「ああ。決めたぜ。俺だってフェニクシアの国民だ、ザクスを取り戻したい気持ちはある」

「ゲル、君の異能は役に立つ。私からも頼む」


 ダートはゲルを高く評価していた。今度のザクス奪還作戦でも彼を使うつもりでいた。


「じゃあアタシも名乗っておくか。カンナギだ。ただのカンナギだぜ。無限に剣を生やす異能を持ってるぜ。ヒカルの相棒としてついていくからな」

「ヒカル・シルバーソードだ。異能についてはさっき言った。よろしく頼む」


 かつては敵同士だったヒカルとダートは握手を交わす。今は魔王を倒すという同じ目的のために立ち上がった同志だった。




 ヒカル一行は四聖の馬でザクス近郊の拠点セブイ平原に向かった。フェニクシア最西部からセブイまでは二週間ほどかかった。道中人のいる町もあったが、ベルフェゴールの女狩りの被害に遭ったりしていて魔王の爪痕は大きかった。

 セブイ平原に到着するとフェニクシア軍の陣地に迎え入れられた。四聖はそこで将軍達にヒカル達を紹介した。彼女が魔王を二体討ち取ったことを知ると士気は大いに高まった。


「ダート殿、ついにいけますね……!」

「夢にまで見たザクス奪還、もう夢じゃないですよね!」


 年若い将兵達が口々に四聖に声を掛ける。しかしダートは葉巻を吹かして一服すると、冷静に言った。


「油断はできない。今度の魔王は格が違う。大量の手下を使役し本体も強力な異能を持ってる。私達で連携して、一人一人が懸命に戦わなければ勝てない」

「そうですね……肝に銘じます」

「ここの連中、若い奴が本当に多いな。実戦慣れしているのか?」


 陣地を一周してきたヒカルがダートに尋ねる。


「熟練兵は皆戦って戦死した。それで新たに志願してきた者も少なくない。だが国を思う気持ちは皆強い」

「気持ちだけでは勝てない」

「ああ。だが気持ちがなければ勝てない。そうだろう、ヒカル・シルバーソード」

「そうだな。葉巻を一本くれ」

「いいだろう」


 ヒカルはダートから葉巻を受け取ると手持ちの火打石を使って火を()け、吹かした。


「こんなのパカパカ吸ってると頭馬鹿になるぞ」

「逆だ。冴えわたる」

「そういうものか」


 葉巻を吸っていると、ええっというゲルの驚愕(きょうがく)の声をヒカルは聞いた。


「ですから、あなたにしか頼めないことなんです」

「でもよ……俺が透明になって、一人ザクスに潜り込んで敵の様子を観察してくるなんて無茶ですぜ!」

「音も消せるって言ってたじゃないですか。見つかりませんよ。大丈夫ですって」


 アクアが説得するがゲルは恐怖に顔を引きつらせている。


「ベルゼブブの様子も見てくるんだろ……寿命が縮みそうだ」

「奴の位置が始めからわかっていれば突入の際最短距離で目指すことができます。あなたが頑張れば奪還作戦の成功率は跳ねあがるんです。頼みます!」

「ゲル、お前が汚名挽回するチャンスだぞ。今やらないでどうするんだ」


 ヒカルもこれに加わる。するとゲルは観念した。


「わ、わかった……ボスが言うなら……やるぜ、やってやる! ゲル・レオン、男を見せる時が来た!」

「よし、その意気だ。頑張れよ」

「ボス~」


 こうしてゲルが偵察として単身ザクスに乗り込むことになり、ザクス奪還作戦は彼が戻ってから決行されることとなった。




 本当にうじゃうじゃいやがるとゲルはザクス内の魔物の多さに辟易(へきえき)した。

 翼を生やした槍を持つ悪魔や、鋭い角を持つ一角獣、二足歩行だが頭が牛や馬の化物など、数多の化物が(うごめ)いていた。ゲルは慎重に通り過ぎるが透明になった彼に気付く者は誰もいない。

 事前によく頭に叩き込んだ地図を元にゲルはザクス内を練り歩く。どれくらいの戦力がいるのか調べるのが彼の仕事だった。しかし何体いるのか一人じゃ数え切れないぞと心の中で悪態をつく。

 町の奥へと進み、中央部にある革命広場に辿り着く。フェニクシア革命の中心となった場所で断頭台が設置され、フェニクシア王と王妃が処刑されたのもここだった。そこに巨大な蠅が停まっていた。

 あれが魔王ベルゼブブに違いない、そうゲルは確信した。恐ろしいが近づいて様子を(うかが)う。

 ベルゼブブの前に大蛇に乗った天使のような翼の生えた魔人が近づき、一礼して報告した。


「セブイ平原のフェニクシア残存勢力に動きがあったようです。近々こちらに攻め入るつもりかと」

「そうか。アスタロト。下がってよい」

「はっ」


 アスタロトと呼ばれた配下は去っていく。こちらの動きは筒抜けなのか? ゲルは不安になった。しかしこの悪魔にもベルゼブブにも彼の存在はまだ気付かれてはいなかった。


「ふむ……」

「おいベルゼブブ」


 天より声がしてベルゼブブとゲルは空を見上げる。するとダスクを伴ったルシファーが革命広場に飛来してきた。

 まさか魔王達の首領であるダスクまで現れるなんて……緊張のあまりゲルは息を止める。


「これはこれは主殿。ますますご清祥(せいしょう)のこととお喜び申し上げます」

挨拶(あいさつ)はいい。それより何もたもたやってるんだ? さっさと人間共を殺しに向かえばいいだろ」


 ダスクは(とが)める。だがベルゼブブは動じず答える。


「飛んで火にいる夏の虫というでしょう。奴らがここに攻め込むのを待ち構えた方が地の利のあるこちらの優位な状況で戦えるのです」

「ああ? お前の蠅騎士団の戦力とお前がいればそんな戦略なんていらずに取るに足らない人間なんぞ蹴散らせるだろ」

(わし)は人間を甘く見ない。奴らはしぶとい。それに今回は異能者が混じっているという報告もある。万全を期したい」

「ああヒカル・シルバーソードだろ。お前がとろいから合流してしまったんだよ。いいか、奴は必ず殺せ。いいな!」


 言いたいことを言うと、ダスクはルシファーに命じてその場から飛び去った。

 ヒカルの動向はダスクに知られている! ゲルはこのことは必ず伝えないとと思った。忍び足でその場を立ち去ろうとする。その時だった。ベルゼブブがゲルのいる方向に向かって声を掛けた。


「今、何かの気配が……」


 ゲルは以前ヒカルに透明化を見破られたことを思い出し、自分の能力は完全ではないのだ、気を付けないとと動きを止め息をひそめる。どうかベルゼブブが気付かないようにと祈りながらやり過ごそうとする。


「ベルゼブブ様!」


 その時翼の生えた手下の魔物が飛んできた。ベルゼブブは命令する。


(ねずみ)が潜り込んだかもしれぬ。周囲を警戒させろ」

「了解です!」


 魔物が飛び立つ時には逆に忍ぶことをやめて全力疾走するゲルだった。敵に見つかる前にひたすら逃げる。


「イテッ」

「どうした?」

「何かぶつかってきたんだが」

「何にもないぜ」

「変だな……」


 魔物は首を(かし)げる。脇目も振らずに逃げていてぶつかってきたゲルに気付かないでいた。

次回「暴食の魔王ベルゼブブ」

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