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准帰宅部!  作者: 雪差素粒
4月編
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3/3

第3話:3つの条件

4月15日(水)

「今日の小テスト、どうだった?」

 多くの生徒が行き交う渡り廊下を歩きながら、宴は裕靴の肩を叩く。

「どの教科だ?」

 裕靴は鞄を右手に抱えながら、彼女の方を向いた。

「日本史」

「...まあ、そこそこだったけど」

「え、何点?」

「75」

「うわ〜、良いな」

「そう言うお前は、何点だったんだよ」

「30」

「...赤点じゃねえか」

「いや、これはまずいね〜。やっぱり裕靴くんに教えて貰おうかな」

 宴は両手を頭の後ろで重ねながら、裕靴の方に期待の込められた視線を注ぐ。彼は溜め息をついた。

「そんなに期待するなよ。だって最初の小テストで点が良かっただけだぞ」

「まあでも、私よりは良いじゃん」

「...30点はやばいと思うけどな」

「私だって、頑張ったんだよぉ」

 彼女は裕靴の背中をポコポコ叩いた。彼は「やめろ」と呟く。

「良いな〜、頭が良くて」

「別に俺も、全知全能って訳じゃねえよ」

「例えば?」

「英語とか全然できない」

「数学はできるの?」

「図形とかは無理だな。拒絶反応が出る」

 宴はそれを聞くと、何かを企んでいるようでにやにやし始めた。

「へえ〜、裕靴くんって図形は苦手なんだ〜」

「悪いか」

「まあ、私は数学できるんで」

 彼女は得意げに頷くと、自らの胸をポンと叩いた。

「数学なら任せといてよ。微分でもベクトルでも、何でも聞いて」

「...お前、本当に高1か?」

「数学は趣味でしょ」

「おいそれは聞き捨てならないな」

 裕靴は彼女の方を振り返る。どうやらこの女は、数学を極め過ぎて変な方向に飛んで行ってしまったようだ。と言うか、「数学は趣味」とか云うパワーワード出すなよ。

「だから裕靴くん、今度の中間テストで20点とか取っちゃっても、私が何とかしてあげるからね」

「...どうせなら、20点を取る前から何とかしてくれ」

「いや〜、それは欲張りってやつでしょ〜」

「等価交換とかできないのか?」

「じゃあ、交換レートは私が数学を教える=裕靴くんが日本史と世界史と地理と現代文を教える、でいっか」

「それは不平等条約だろ...」

「いやいや、全然不平等じゃないよ。だって数学教えるのって大変なんだよ〜」

 宴はやれやれ、と肩をすくめてみせる。確かに大変ではあるだろうが、4教科分も必要だろうか? 幾ら数学ⅠとAがあるとは言え、流石に多いような...

「さあさあ、とっとと印鑑を押しちゃってくださいよ〜」

「...どういう契約書だよ」

「私たちの間で、勉強を教え合う契約」

「...絶対に嫌だな、それ。せめて対等にしてくれ」

 彼は呆れ返った声で零しながら、廊下を歩く。正面に5号館の玄関が見えてきた。2人が今居る4号館(体育館とかがある棟)と5号館の間には渡り廊下こそあったが、そこには屋根が存在しなかった。きっと理科室や技術室とかしか無いので、優先度が低いと判断されたのだろう。

「ねえ」

「何だ」

「屋根、無いんだね」

「そうだな」

 2人は渡り廊下を進んでいく。この辺りは人影も少なく、どこか虚しさを孕んだ静寂が広がっていた。

「やっぱり、人が居ないなー...」

「そもそも人気が無いんだろうね」

 2人は古臭い雰囲気の漂う階段を上がった。あちらこちらから木の匂いが感じられる。

「思ったんだけど」

「ああ」

「この建物、博物館の匂いがしない?」

 博物館にあまり行かない裕靴にはよく分からなかったが、きっと標本や剥製の香りがすると云う意味だろう。昨日はあまり気付かなかったが、改めて考えるとかなり独特な場所である。

 2人は2階の奥地にある教室の前で立ち止まる。今日からここが、「准帰宅部」のサボり場所——もとい、活動場所となるのだ。

 宴はスカートのポケットから錆び付いた鍵を取り出すと、顔の前で掲げる。

「これ、な〜んだ?」

「...第三資料室の鍵」

「正解! これ、手に入れるの大変だったんだよ〜」

 宴は「むふ〜」と得意げに胸を張る。

「今朝、守衛さんに聞いたんだけどさ。めったに使わないらしくて、凄い不審な表情をされちゃったんだよね」

「...どうやって言い訳したんだ?」

「『資料室の掃除がしたくて!』って言ったら、即OKされた」

「...そうか」

 裕靴はかける言葉が見つからなかった。警備体制がザル過ぎるだろ。それで良いのか、私立収斂高校。

「別に、嘘はついてないよ? 部活で使うんだったら、掃除も必要じゃん」

「...まあ、確かにそうだが」

「だから、もし見つかっても大丈夫! 仮に先生に見られても、評定が上がるだけだよ☆」

 宴はそんなことを言いながら、扉の錠前に鍵を挿し込んだ。年季の入った錠前は動きが鈍かったが、彼女が試行錯誤しているうちにガチャリと回った。続いて彼女がドアノブを回すと、蝶番(ちょうつがい)が軋む音と同時に白い扉が開いた。

「おお〜」

「凄えな」

 2人は部屋の中へとずかずか入る。資料室は意外と広く、普通の教室の半分くらいの広さはあった。

「結構広いな」

「ね。でも、ちょっと埃っぽい」

 宴はブレザーの袖口で口元を覆う。確かに、長い間掃除されてなかったので埃が溜まり、かなり息苦しかった。裕靴は窓際へと向かうと、錆び錆びの窓の鍵を開ける。一気に春風が入り、部屋に籠もっていた閉塞感も少しはマシになった。

 裕靴は部屋の中を見渡す。窓際の机には所狭しとガラクタが置かれており、それらは満遍なく埃を被っていた。また壁には大きな本棚があり、そこには黒っぽい背表紙の本や古びた図鑑などが押し込んであった。

「...なるほどな」

「これは、掃除し甲斐があるね〜」

 宴はおもむろに鞄を床に置くと、その中から百均の箒(ほうき)セットを取り出した。さらに大きなゴミ袋と、スポンジや雑巾も持っている。

「はい、裕靴くんもこれで手伝って」

「...どんだけ持って来たんだよ」

「まあ、掃除は大事だし」

 彼女はそう言ってマスクを装着すると(顔から随分はみ出している)、机上の埃を集め始めた。裕靴も彼女に倣ってマスクを付けると、本棚を雑巾で掃除し始めた。

「うわっと」

 彼は本棚の古文書(?)の埃に咳き込む。かなりの年数放置されていたようだ。見ると、所々に「平成元年」とか「S62」とか書いてある。40年近く置いてあったのかよ。

「うわ〜、凄い量」

 彼女は埃の束をゴミ袋に放り込むと、その袋を掲げてみせる。既に40Lの袋の、半分くらいは溜まっていた。机上だけでもこの量だ。

「そりゃ、40年分だからな」

「こんなにあったら、むしろ有効利用できそう」

「埃の有効利用って何だよ」

「だからさ、埃発電?とか」

「...多分できねえだろ」

 裕靴は本を机に積み上げていく。宴は箒を動かしながら拗ねた表情を浮かべた。

「えー。夢が無いじゃん」

「夢とかじゃない気が」

「いやでも、この『できたら良いな』が発明に繋がるんだよ」

「必要は発明の母、か」

「そうそう。だから埃発電も、いつかは...」

「普通に燃やせば良いんじゃね?」

 裕靴は本のタワーを建設していく。あっと言う間に、彼の身長を遥かに超える高さのものが出来上がった。彼は両手を腰に当てながら、それをまじまじと眺める。

「...いや高えな」

 宴も彼の近くにやって来た。彼女もタワーの頂上を眺める。

「この高さ、展望台付ければ儲かるよ」

「...だな」

 彼は顎に手を当てて考え込む。これでも、まだ本棚にある古文書の一部に過ぎなかった。全てを片付けるのに、どれだけかかることやら。

「じゃあさ、私が空っぽの本棚を拭くから、裕靴くんは本を積み上げてくれない?」

 宴の提案に裕靴は頷く。確かにその方が、色々と効率が良いだろう。それにそのくらい工夫しないと、終わりそうに無いし。

「分かった。俺はあっちの棚で本を取るから、宴は雑巾がけを頼む」

「お任せあれ」

 彼女は早速、棚の清掃を始めた。裕靴も埃に苦労しながら、本を取り出していく。だんだんと慣れてきたので、作業も速くできるようになった。

 しかし、宴はいつも以上にテンションが高く、光の速さで本棚を拭いていた。このままだと、彼が居る本棚まですぐに追い付かれてしまう。

(...やべ。このままだとあいつを待たせてしまう。絶対催促とかしつこいだろ)

 裕靴は横目で宴の方を窺うと、本を取り出す作業をさらに速めに行う。だが彼の努力も虚しく、宴は彼の居る本棚まで追い付いてしまった。

「裕靴くん」

「何だ」

「もうちょい、速くやってくれない?」

「...これでも全速力なんだが」

「いや、裕靴くんなら行けるって」

「お前が速いんだ」

 裕靴は渋い声で反論しながら、続々と本を積み上げていく。最早手付きも適当になってきた。宴からのプレッシャーをひしひしと感じる。

「速くしないと、私寝ちゃうよ〜」

 宴は楽しげに微笑むと、裕靴の両肩を背後から掴んだ。不意打ちを喰らった彼は、身動きが取れなくなる。

「...おい、宴」

「ん? どうしたの?」

 彼女は不思議そうに首を傾げる。その時、裕靴は不覚にも口角が上がりそうになった。

(...やべ、こいつ意外と可愛いかも)

 彼は慌てて首を振ると、その考えを脳内から追い出した。いかんいかん、同級生に対してそういう感情を抱くのは良くない。

「裕靴くん?」

「...何でもねえよ。一旦その手、離してくれ。本が運べない」

「はいはい、分かりましたよ〜」

 宴は不貞腐れた声で呟くと、渋々手を離す。やっと裕靴も動けるようになった。彼はほっと溜め息をつくと、本の束を机に押し付ける。

「よし、これで全部の筈だ」

 裕靴は額の汗を拭う。それにしても凄い量だ。こういう状況を表す為に、汗牛充棟(かんぎゅうじゅうとう)と云う言葉があるのだろう。

「多かったね」

 棚の雑巾がけを終えた宴も、裕靴と共に本の山を眺めた。資料室の名は伊達ではなく、相当な量の資料があるようだった。きっと100冊はゆうに超えるだろう。そしてこれから2人は、これらの本を全て綺麗にしなければならない。

「こっからだよなー...」

 裕靴は手頃な本を1冊手に取ると、中身をパラパラを見てみる。いつ書かれたものかは分からないが、どうやら古い化学の教科書のようだ。よく見るとスカスカの周期表も描いてあるし、多分そうなのだろう。

「何読んでるの?」と宴。

「昔の教科書」

「ふーん。やっぱり内容って今と違う?」

「そんなには変わってないな。まあ、指導要領は変わったと思うが」

「他にもあるかな?」

 宴はマスクの位置を整えながら、本の山を漁っていく。すると数学や地理、国語などの教科書が見つかった。彼女はそれらの読解に取り掛かるが、すぐ飽きたらしくパタンと閉じた。

「駄目だ。私には分からない」

「お前、確か数学は得意だっただろ。それだったら読めるんじゃね?」

「いや、内容がほぼ同じだから面白くない」

 彼女は暇そうに机に頬杖をつくと、顔の輪郭に沿わせている指をトントンさせた。相当つまらないらしい。彼女は面白くないことについては、全然やる気が出ないようだ。

(...よく分からない奴だな)

 裕靴はそう思いながら古い辞典の頁(ページ)をめくる。ところどころインクが滲んでいて、あまり読みやすくはなかった。

「裕靴くん、この本はどうする?」

「そうだなー。取りあえず、表面を磨いて...」

 彼がそこまで言った時、廊下の方から足音が聞こえてきた。最初は気の所為かと思っていたが、それはだんだんとこちらに近づいて来る。2人は耳をそばだてた。

「...おい、誰なんだよ」

 裕靴は宴の耳元に囁く。彼女も小声で返した。

「...私だって知らないよ。それに、もしかしたら別の部屋に用がある人かも」

「...そうだと良いんだがな」

「...とにかく、静かにしてれば大丈夫でしょ」

「...そういう問題かよ」

「...バレなきゃ犯罪じゃないし」

「...それ、ヤバい理論だろ」

 2人が小声でそんなことを言い合っているうちに、足音は第三資料室の前で止まった。扉の窓越しに、人影が見える。

「...おい、この部屋の前で止まったぞ」

「...まさか、怒られたりしないよね?」

「...そのまさかだろ」

 裕靴は唾を飲み込む。ここまで来たら、もう腹を括るしかない。せめて少しでも説教がマシになるように、正々堂々と謝って...

 彼が脳内で謝る練習をしていると、蝶番が軋む音と同時に扉が開いた。外には、丸眼鏡をかけた若い男性が立っている。

「うわっ!?」

 彼は2人の存在に驚く余り、片手に持っていたバインダーを床に落とした。


*


「...で、どういうことなんだい」

 第三資料室の窓際にある机の周囲に、3人は座っていた。だがどこか雰囲気がおかしい。怒られるものだとばかり思っていたんだが...

「...えっと、亘理(わたり)先生」

 裕靴は向かい側に座っている、若い教師に声をかけた。亘理、と呼ばれた彼は軽く頷く。

「...怒らないんですか? 俺たちがここに居たことについて」

 おずおずと尋ねる裕靴に、亘理先生は頭をひねる。

「いや、怒るも何も、情報が少な過ぎるよ。僕は資料室にやって来ただけなのに、そこに君たちが先回りしていたんだから」

「...確かに、そうですね」

 裕靴は思い直す。まだ先生は、何も知らないのだ。だとすればここは、正直に話すのが筋であろう。

「...裕靴くん」

 宴が肩を叩いてきた。珍しく、表情が曇っている。

「...そろそろ潮時みたいだし、話そっか」

「...そうだな」

 2人は半ば諦めた状態で、ここまで起きたことを洗いざらい打ち明けた。宴が裕靴を「准帰宅部」に誘ったこと。2人で創部することにしたこと。これを口実にサボろうとしていたこと。そして、この第三資料室を部室にしようとしていたこと。

 先生は気難しい表情を浮かべながら、2人の話を聞いていた。ただ、丸眼鏡の奥の目が何を考えているかは、裕靴には分からなかった。

「...以上です」

 2人は固唾を呑んで彼の表情を窺う。彼は眼鏡の位置を整えると、両手の指を机上で重ねた。

「浜通くん、朱鞠内さん。君達がしたことは、あまり良いこととは言えないし、担任の先生に言ったらほぼ確実に怒られると思う」

 彼はそこまで淡々と告げると、右手の人差し指を立てた。

「でも」

 先生は軽く口角を上げた。

「面白いじゃないか、と思ったのも事実。そこまでしてサボるんだったら、こっちまで張り合いになる」

「...どういう意味ですか?」

 宴は首を傾げる。裕靴も彼が言わんとすることの意味がよく分からなかった。

「つまり」

 先生は丸眼鏡の奥の目をしばたいた。

「君達を支援しても良い、と言っているんだ」

 裕靴と宴は顔を見合わせる。じわじわと喜びに似た感情が湧いてきた。

「本当ですか!?」

「勿論。それに僕も、単調な教師生活に嫌気が差しているしね」

「...先生も苦労されているんですね」

「まあね。ただ、支援するにあたって幾つか条件がある」

「どんな条件ですか?」

 宴の目に怪しい光が灯る。一切の妥協を許さないつもりだ。

「いや、そんなに大層なものじゃないから、安心して欲しい」

 先生はそう言うと、椅子に座り直した。

「1つ目。どうせサボるなら、とことんやって欲しい。例えば、途中で飽きたからやめたー、みたいなのは禁止」

 宴は真剣な表情で頷く。裕靴もそれに倣った。

「2つ目。金銭面のやり取りは禁止。活動に必要なものは自腹を切ること」

「...厳しいって」

 宴はそう文句を零したが、先生はスルーした。

「そして3つ目。サボる余り、勉強までおろそかになるのは駄目。そこは履き違えないこと」

「...はい」

 裕靴は小さな声で返す。流石は私立高校の先生だ、その辺りは抜かりない。やはり勉強からは逃れられないようだ。

「で、ここからは僕の個人的事情なんだけど」

 先生は少し声のトーンを下げた。あまり知られたくないことがあるらしい。

「ちょっとだけ僕に協力して欲しいんだ」

「...協力、ですか?」と宴。

「ああ。実を言うと、僕がここに来たのはとある資料を探す為なんだ」

「どういう資料なんですか?」

 裕靴の問いに、先生はやっと聞こえるくらいの声で返した。

「...昔の卒業アルバムだ」

「まさか、先生の代のやつなんですか?」

「ああ。少し黒歴史が残っているから、末梢しておきたいんだ」

 裕靴は溜め息をつく。亘理先生がこの高校出身と云うことにも驚いていたが、それよりも資料室に入る理由が不純過ぎると思った。これでは、こっそりサボろうとしていた裕靴たちと大差ない。

「...はあ」

「で、先日ここに忍び込んでいた時に守衛さんに見つかりそうになってさ。それでこの部屋に潜伏していたら、学校に閉じ込められたんだ」

 先生はこめかみを掻きながら、そんなことを語る。しかしこれでは武勇伝ではなく、ただの汚点である。なかなかこの先生も、ぶっ飛んだところがあるな。裕靴は少しドン引きしていた。

「先生は、どこかの部活の顧問なんですか?」

 宴は膝の上に両手を乗っける。

「いや、そんなことは無いよ。前は科学部の顧問だったんだけど、一度教室を吹き飛ばしそうになっちゃって」

「...スゴイデスネー」

 宴はさらっと爆破未遂を語る先生を前にして、恐れをなしたらしい。彼女の身体が小刻みに揺れたように裕靴には見えた。

「まあ、とにかく顧問を探しているのであれば、僕が担当するよ。どうせ担任も持ってないし、することも無さそうだからね」

「良いんですか?」と裕靴。

「うん。2人とも、特に異論は無い?」

「特に無いです」

 裕靴は淡々と答える。一方、宴は何事も無かったかのようにテンションの高い声で返した。

「先生が担当してくださるなんて、感無量です!」

「じゃあ、これからよろしく」

 亘理先生は微笑んで右手を軽く挙げると、資料室から出ていった。部屋の中には、2人のみが残される。

「...顧問の先生、意外とあっさり決まったな」

「ね。でも亘理先生、サボり癖ありそうだし。適任だと思うよ」

「だな」

 裕靴は部屋を見渡す。まだ埃っぽくはあったが、既に部室は確保できた。さらに顧問の先生まで決まってしまった。この数日で、だんだん「准帰宅部」が形になってきた気がする。

(...なんか、楽しくなってきたな)

 彼はブレザーの埃を払うと、掃除を再開することにした。

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