第9話「トノサマバッタ」
空はかすかな橙色で、、夕日が静かに沈んでいく時間帯だった。。
車がよく走る道路のすぐ横に草原が広がっている。
その草原で、、5歳の男の子「小松」は「吉子」とバッタ捕りに夢中になっていた。。
小松が元気よく走るたびに、、草原に生息しているトノサマバッタは小松に驚いてか、、大きく羽ばたく。
その羽ばたいたときの羽の音は何とも言えない、、生命の神秘さを小松に感じさせた。
「そろそろ家に帰る時間だね。。でも、、まだ帰りたくないよ」
小松は残念そうに顔を下に向けながら吉子にそう呟いた。
「でもお母さんが心配するから、、さあ、、帰ろう!!」
「トノサマバッタを捕まえて、、家で飼ってもいいかな??」
小松は以前から、、頭の中にいつも浮かんでいた考えを吉子に述べた。。
「トノサマバッタは、、外で生きていた方が幸せなんだよ。虫かごに入れられたら、、不幸になってしまう。。だから、本当にバッタのことを考えるなら、、飼わないほうがいいね」
「でも!! 僕はトノサマバッタを飼いたいんだ!! お願い!!」
「ダメですよ!!」
「嫌だ!! 嫌だ!! 僕はトノサマバッタが大好きなんだ!! いつも近くで見ていたいんだ!! それができないなら、、家には帰らない!! 僕は家出するから!!」
小松は吉子にそう言うと、、虫網で、、3匹のトノサマバッタを捕獲し、、2匹を逃がし、、1匹だけを持って、、家へとダッシュで向かった。
「困った子だねえ」
吉子は小松の後姿を見ながら、、大きくため息をついた。。
バッタのいる草原は小松の家から歩いて1分のところにあった。。
小松は、、母親に内緒で一匹のトノサマバッタを飼い始めた。。
虫かごに水に差した猫じゃらしを用意した。。
2~3か月の寿命で、、夏に生まれて、、秋に寿命を迎える。。
小松はバッタがいつでも自分の部屋で見られる、、近くに一緒にいられることを嬉しく思った。。
小松は、、寝床に着いた。。
気が付くと、、自分が草原にいるトノサマバッタになっているではないか。。
元気よく飛び回ることができて、、気分爽快だった。。
自分の羽で自由に飛び回れる、、外の、、広大な草原を、、自由自在に楽しめることが幸せだった。。
「わあああああ」
しかし、、いきなり、、バッタになった小松は誰かの網に捕まってしまった。。
「やめてくれ!! 僕は、、僕は、、もっと飛んでいたいんだ!!」
そして、、気づくと、、虫かごに入れられ、、エサだけ与えられ、、自由に飛ぶことができなくなった。。
その時の、、「残念さ」に小松はバッタの姿のまま泣いた。。
「もっと!! あの自由な緑あふれる草原にいたかった!! なのに!! 人間たちが!! 人間たちが、、僕の自由に草原を飛ぶという幸せを奪ったんだ!!」
絶望のあまり、、早く死にたいと心の中で泣いた。。
心の中で泣いていても、、人間たちは少しも気づかないだろう。。
小さな顔の表情が動かないバッタの悲しみや苦しみ、、涙なんて人間たちは気にも留めないだろう。。
あるのは、、自己満足。。
人間たちは自己満足や自分たちの幸せのためだけに、、他の生き物たちの自由を奪い、、不幸にしているんだ!!
「はっ!!!!」
小松は飛び起きた。。
「夢だったのか……よかった、、僕、、バッタじゃない」
そして、、小松は、、自分が人間であることに感謝した。。
自由がある。
僕には。。
小松は、、虫かごを持って、、草原に向かった。。
そして、、捕まえていたバッタを逃がしてあげた。。
「夢が教えてくれたんだ。。バッタだって限られた命を自由に草原で飛び回って生きたいんだって!! 狭い虫かごなんかに死ぬまで閉じ込められたくないんだって!! 幸せになってね!! バッタさん!!」
バッタは自由になった。。
そして、、嬉しそうに、、草原を羽ばたいていった。。
吉子は、、その様子を、、家の2階の窓から見ていた。。
「何があったのかしら……あんなにバッタを飼いたがっていたのに……」
「こんにちは。。吉子さん」
「えっ?? キャーー!!」
吉子は正体不明の緑色のスーツを着た男性が目の前に立っていて、、警戒して、、大声を上げた。。
「誰ですか?? あなたは?? 不法侵入ですよ!!!!」
「草原にいたバッタの化身ですよ」
「バッタの??」
「はい!! 昨日、、小松くんが最後に捕獲した3匹の内、、2匹を逃がしましたよね。その2匹のうちの1匹が人間の姿になり、、こうやってあなたに会いに来たのです!!」
「信じられません」
「小松くんが昨日、、2匹を逃がしたのを見ていたのは、、あなただけ。。他に見ていた人はいない。知っている人もいない。。逃がしてもらったバッタたちを除いては」
吉子は驚きのあまり、、床にへたり込んでしまった。
「人間の姿になれるバッタもいるのです。。そして、、この世界を支配している神様に会いに行き、、小松君には、、捕まえて飼おうとしていたバッタを逃がしたくなるようにしました。それは……」
そのバッタの化身から出た言葉を吉子はいつまでも信じられなかった。。
「では、、2匹逃がした、、あなた以外のもう1匹は何をしているんですか??」
「今頃、、小松君に会っているでしょう。。人間の姿になってね」
吉子は窓から、、小松を見た。。
そこには、、一緒に走り回っているもう一人の男の子が。。
「小松君のいいお友達になれそうですね。。バッタとしてじゃなく、、人間として、、小松君といつまでもそばにいたいのです!! 小松君はずっと友達がいなくて草原でバッタを追いかけることしかできなかったのだから。。これからは、、我々、、バッタたちが小松君の友達になりましょう」
「ありがとう。。ありがとうございます。孫も喜びます……」
吉子は孫の小松がやっと友達を持つことができて、、感謝した。。
「小さなバッタたち、、生き物たちも、、人間の姿に化けていることがあります。。だから、、許される限り、、大事にしてほしいのです。。生命は尊いのだから。どんな生き物でも……」




