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【信長の野望】弱小大名・安東家。女当主と影武者で生き残る東北戦国記  作者: 西住


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20/20

後日談其の三― 安東義季の選択

いよいよ後日談(三部作)の最後になります


今回は安東家のその後と言うことで

奥州探題に就任した安東家の

その後を書いてみました

はたして安東は変わったのか?

それではご覧ください

第一節:影を脱ぎ、名を記す

安東領が静かな夜に包まれる頃、居城の一室では、一人の男が黙々と筆を走らせていた。

かつて安東の影武者として死地を潜り抜けてきた男――義季よしすえである。


机の上には、彼が書き溜めてきた「安東家興亡録」とも呼べる分厚い束があった。


「……ふむ。ここは、もう少し劇的に書くべきか」


義季よしすえが独り言をこぼしながら書き進めていると、背後から音もなく現れた玲夢が、その手元を覗き込んだ。


「何してるのよ、こんな夜更けに。……って、それ、当家の記録?」


「お、玲夢か。ああ、これまでの戦いや、当主(本物)の動向をまとめておこうと思ってな。後世に伝えるのも、生き残った者の役目だろう」


玲夢は義季よしすえから数枚の紙をひったくるように受け取ると、熱心に読み始めた。だが、読み進めるうちに、彼女の眉が不自然にピクリと動く。


「……ねえ。これ、所々おかしくない? 実際より私の怒鳴り声が三割増しになってる気がするし、

 当主のバカさ加減が5割増し、小栗が仙人のような書き方の部分もあるわよ」


それは事実とは少し異なる、どこか幻想的で、それでいて彼から見た「安東家の奇跡」を象徴するような、いびつで温かい記録だった。


玲夢は呆れたように溜息をついたが、その瞳は優しく細められていた。


「あんた……結構、思う所があったのね」


義季よしすえは筆を置き、少し照れくさそうに頭を掻いた。


「まあな。……影武者として死ぬことばかり考えていた頃は、こんな風に文字を残す日が来るとは思わなかった。

 だが、あの本物の我儘に振り回され、お前や小栗に詰め寄られる日々を過ごすうちに……

 この『安東家』の一員として、何かを残したいと思ったんだ」


彼は玲夢を真っ直ぐに見据え、言葉を継いだ。


「これからは、主君の身代わり(影武者)としてではなく、一人の『義季よしすえ』という安東家の家臣として、

この物語を最後まで見届け、支えようと思う」


「……ふん。勝手にしなさいよ。その代わり、

私のセリフの書き直しを命じるわ。もっと優美な表現にしなさい」


「ははは、努力しよう」


月明かりの下、影を脱いだ男の決意と、それを呆れながらも受け入れる女の絆。

安東家の新しい形が、義季よしすえつたない記録と共に、ここから始まろうとしていた。



第二節:誤算の対価

義季の部屋を辞した玲夢が次に向かったのは、深夜まで灯りが消えない執務室だった。扉を開けると、そこには書類の山に埋もれ、鬼気迫る勢いで算盤を弾く小栗の姿があった。


「……小栗!?まだやってたの」


「ああ、玲夢殿ですか。ちょうどいい、ここの関東方面の兵站報告書に目を通しておいてください。……ふふ、ふふふ……」


乾いた笑いを漏らす小栗の目の下には、もはや墨を塗ったかのような隈が出来ている。

玲夢は同情を禁じ得ず、彼が差し出した書類を受け取りながら、ずっと気になっていた問いを投げかけた。


「ねえ、小栗。改めて聞くけど……どうして貴方は、幕府に当家の『秘密』を明かしてまで、あの方を奥州探題に据えるなんて暴挙に出たの?」


安東家には本物の女当主と、影武者の男がいる。その禁忌とも言える事実を幕府に伝えたのは、他でもないここにいる小栗だった。小栗は算盤を置くと、深く、重い溜息をついた。


「……賭けだったのですよ。あのバカ殿……失礼、本物の当主様があまりにも仕事をしない。このままでは我々が先に過労で死ぬ。

 ならば、幕府公認の『奥州探題』という逃げ場のない極位に無理矢理押し込めば、

 流石のあの人も、少しは責任感を持って机に向かうのではないかと思ったのです」


小栗の瞳に、絶望の色が混じる。


「公的な権威という鎖で、あの自由奔放な怠け者を縛り付けようとしたのですが……」


「……その試みは、大失敗に終わったわけね」


「ええ。地位を得てからというもの、あの人は『探題は偉いんだから、実務は部下がやるべきだよね』と、前より堂々と二度寝を決め込むようになりました。

 ……私の計算は、あの人の『怠惰の才能』を完全に見くびっていたようです」


玲夢は呆れて天を仰いだ。幕府を巻き込んだ天下の策略も、

本物の安東にとっては「もっと楽にサボるための隠れ蓑」に過ぎなかったのだ。


「しかしそうは言っても、いきなり”奥州探題”とは恐れ入ったわ。

 ……私は、凄いことだと思っているわよ。もし私が幕府の要職にいるなら、

 貴方のその働きに、上野こうずけの国でも下賜しているでしょうね」


不意に投げかけられた玲夢の賞賛に、小栗の手が止まった。


「上野、ですか……。それは夢のある話ですな。国持ちになればある程度の人手も雇える。そうなれば、この書類地獄から抜け出せそうだ」


少しだけ、遠い目をして未来を夢想する小栗。彼はふっと口角を上げると、ありもしない明日を冗談で彩った。


「では、私はいつか下賜される国の名を取って、『小栗上野介おぐりこうずけのすけ』とでも名乗りますかね?」


そんな軽口を叩いた、その時だった。


「小栗殿! 追加の仕事です!!」


勢いよく襖が開く。運び込まれたのは、先ほどまでの山を倍にするほどの新たな書類の束だった。


「…………」


小栗は算盤を握ったまま、石像のように固まってしまった。

そのあまりにも惨めな姿に、玲夢は静かに書類を手に取った。


「……小栗。私も協力するから。……ね?」


深夜の執務室に、報われない二人の、重く、長い溜息が重なった。


第三節:安東流・天下調停術

執務室には、絶望の啜り泣きが響いていた。

過労で倒れ、ついに医者に担ぎ込まれた小栗。その穴を埋めるべく、

本物の当主と玲夢の二人が慣れない書類仕事に挑んでいたのだが――。


「ほら!さっさとやる」


玲夢の鋭い声が執務室に響き渡る。彼女は山のような書類を涼しい顔で捌きつつ、

隣で今にも溶けそうな主君を睨みつけた。


「ねえ玲夢?これ、全部燃やしちゃダメ?」


「ダメに決まってるでしょ! 泣き言言ってないで手動かしなさいよ!」


半泣きで筆を走らせる新当主。しかし、その作業効率は小栗一人の時の百分の一にも満たない。

その時、廊下から「……カ……カチャ……」と、不気味な算盤の音が近づいてきた。


襖が力なく開き、そこには真っ白な顔で、もはや現世の者とは思えないほどフラフラになった小栗が立っていた。


「お、小栗!? 寝てなきゃダメじゃない!」


玲夢が叫ぶが、小栗の瞳には焦点が合っていない。


「……いえ……横になると……耳元で算盤の音がして……。

書類の山が私を呼んでいるのです……」


「重症だわ! 仕事中毒もここまで来ると病気よ!」


小栗は机に這い寄ると、震える声で本題を切り出した。


「……殿。緊急の……報告です。上杉(長尾)と……北条が、

停戦の仲裁を求めて……参っております……」


その言葉を聞いた瞬間。

今まで死にかけていた本物の当主の瞳が、これ以上ないほど輝いた。


「――っ! それよ! それだわ小栗!」


彼女は勢いよく立ち上がり、積み上がった書類を豪快に払い除けた。


「これは国家の一大事だわ! 目の前の小賢しい書類仕事なんてやってる場合じゃない!

奥州探題として、天下の二大名による調停に全力を注がねば!」


「えっ、ちょっと待ちなさいよ!」


玲夢の制止も聞かず、本物は外に向かって声を張り上げた。


「上杉も北条も、まとめてこの部屋に呼びなさい! 今日は無礼講よ!

難しい話は抜きにして、酒を酌み交わして解決しましょう!」


「……殿……流石です……」


小栗は満足げに微笑むと、そのまま机に突っ伏して眠りに落ちた。


「ちょっと! お前はただ、この地獄の書類仕事から逃げて酒が飲みたいだけでしょうが!!」


玲夢の絶叫が響き渡る中、廊下からは早くも酒樽を運ぶ家臣たちの足音が聞こえ始めていた。


後に歴史家は、この「安東家による上杉・北条の劇的な和睦」を、

奥州探題の圧倒的なカリスマによるものだと記すことになる。


だがその真実は、一人の怠け者が二度寝を勝ち取るために、

天下の怪物を酒の席に引きずり込んだという、あまりにも安東家らしい「サボりの奇跡」であった。


――そして北の大地には、今日もまた、騒がしくも穏やかな日々が続いていく。


(完)

……まあそうなりますね(笑)

あの先代ある所にこの新当主ですから


しかし「小栗」のチート能力をもってしても新当主は動かない

ある意味最強の戦国武将なのかもしれません


さて、これで本当に安東家のお話は終わりです

もしよろしかったら登場人物の中で一番好きな人とかを

コメントで残して下さい


もしかしたら続編を作る際にその人物が

主役級の活躍をするかもしれませんよ

(実は次の話のネタはあったりします

 ただ書くかどうかは不明です)


※お知らせ

新作を投稿しました。

今回も歴史×ドラマ系の内容になっています。

よければこちらも読んでいただけると嬉しいです。


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