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【信長の野望】弱小大名・安東家。女当主と影武者で生き残る東北戦国記  作者: 西住


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第十五話 逆転の計算と誠実の器

ついに15話。物語は一つの大きなピークを迎えます。


圧倒的な絶望の中、人は何を信じ、何に命を懸けるのか。

安東家の影武者が見せる「武士の器」が、一人の猛将の心を動かします。

長尾景虎、北条氏康、そして最上義守。

日ノ本を震撼させる巨頭たちが、安東領の目と鼻の先、旧佐竹領を制圧した。

だが、そこから奇妙な事態が起こる。


安東軍の本陣には、重苦しい静寂が満ちていた。

地図を広げた机の前に立つ玲夢は、報告書を握りしめたまま、その場から一歩も動けずにいた。


「……動かない。三日経っても、一兵たりとも国境を越えてこないなんて」


玲夢が絞り出すように呟いた言葉に、窓の外を見つめていた安東が振り返る。


「敵の先遣隊が国境の川を渡ったという報せから、もう七十二時間が過ぎたな。

玲夢、偵察の報告に間違いはないのか?」


「ええ。旧佐竹領の制圧は、昨日までに完全に完了したようです。

ですが、そこから先……我が領内へ踏み込んでくる気配が、

全くと言っていいほどありません。……一体、何を考えているの?」


玲夢は、焦燥感を隠せない様子で地図上の敵軍の駒を指でなぞった。

本来ならば、佐竹を飲み込んだ勢いのまま、安東の牙城へ雪崩れ込んでくるはずの軍勢だ。


「なんで? どうして……? 数の上では圧倒的に向こうが有利なのよ。

それなのに、まるで見えない壁に怯えているみたいに、あそこで止まっている。……不気味すぎるわ」


安東もまた、彼女の言葉に深く頷いた。


「まるで獲物を前にした捕食者が、どう料理するかを相談しているか、あるいは……。

とにかく、この沈黙は嵐の前の静けさというより、首を吊るされるのを待たされているような気分だ」


二人の間に流れるのは、単なる恐怖ではなく、「理解不能」という名の猛毒だった。

その沈黙を破ったのは、数日間、奥の間に引き籠もっていた用人だった。


「……出ました。解が、出ましたよ……ッ!」


襖を乱暴に開けて這い出してきた用人の姿に、二人は同時に息を呑んだ。

目は血走り、髪は乱れ、手には墨で真っ黒になった算盤と紙の山。

だが、その瞳には狂気にも似た知性の光が宿っていた。


「え!?……あなた、まさかずっと寝ずに計算を続けていたの?」


玲夢が駆け寄ろうとするのを手で制し、用人は震える指で地図の一点を指した。


「三方向同時は、どう足掻いても、どの計算式を用いても無理です。滅亡は免れません。

……ですが、すでに我らは蘆名を下している。

その物資、兵員、城の防衛力をすべて極限まで効率化し、適切に配置し直せば……」


「……配置し直せば、どうなる?」


安東が身を乗り出して問いかける。用人は力強く、しかし苦渋に満ちた声で答えた。


「三つのうち二つ……最上と、そして長尾か北条のどちらか一方。この『二方向』からであれば、

攻撃は叶わずとも、防衛に限り、生存の確率は……数パーセントから十数パーセントまで跳ね上がります!」


「十数パーセント……。それを、希望と呼ぶのか」


「今はその十数パーセントに賭けるしかないのね」


安東と玲夢の呟きに、用人は真っ直ぐに視線を返した。


「これこそが、絶望の淵で私が絞り出した、唯一の、そして最高の計算結果です!」


その時、本陣の外から悲鳴のような怒号が聞こえてきた。

傷だらけの甲冑を鳴らし、一人の武者が転がり込んでくる。常陸の猛将、佐竹義昭であった。


「安東殿……頼む! 我が領土は、我が城はもはや……! どうか、どうか御助勢を……ッ!」


地に伏し、誇りを捨てて縋り付く義昭。

安東は無言でその姿を見つめていたが、やがて、覚悟を決めたように用人と玲夢に視線を向けた。


「……用人。佐竹殿から城の構造を聞き出せ。旧佐竹領の奪還、これを我らの反撃の第一歩とする」


「はっ! しかし、攻めるのは構いませんが……まともにやっては陥落までに二、三年はかかりましょう!

それでは城を落とす前に、長尾や最上の本隊が本格的に動き出してしまいます!

二年以内に奪還せねば、奴らの挟撃を抑えきる術はございませんぞ!」


「攻めぬ。……沈めるのだ」


安東の冷徹な一言に、その場の空気が凍りついた。


数日後。かつて佐竹の誇りであった名城は、泥濁った水の下に沈んでいた。

安東が仕掛けた、非情なる水攻め。

包囲網の一角を担っていた敵軍の先遣隊は、予想だにしない「一瞬での勝負」に混乱し、撤退を余儀なくされたのだ。


泥水が引き、変わり果てた城の前に、安東と佐竹義昭は立っていた。

汚れ、石垣の崩れた城を見つめる義昭に、安東が静かに歩み寄り、深く、深く頭を下げた。


「……すまない、佐竹殿」


「な……!? 安東殿、何をなさる!」


安東は頭を上げたが、その瞳には自責の念が滲んでいた。


「……助けが間に合わなかった。その上、お主の家の大切な城を、

このような形で傷つけてしまった。武士として、

誠意を尽くすべき隣国として、本当に申し訳ないことをした」


その言葉に、玲夢は胸を突かれた。これは計算でも演技でもない。

影武者として、そして一人の人間として、彼が心の底から発した「謝罪」だった。


佐竹義昭の瞳に、熱いものが込み上げる。

「……いや。……いや、安東殿。城など、また築けば良い。

だが、我が家の誇りを救ってくれたのは、間違いなく貴公だ。

……この佐竹、これよりは真に、安東の盾となろう」


安東の「誠実さ」が、敗軍の将の心を、真の意味で繋ぎ止めた瞬間だった。


「……さて、残るは山形の『狐』だけか」


安東は顔を上げ、北の空を見据えた。


「ええ。次で、すべてを終わらせましょう」


玲夢が力強く頷く。最上との最終決着へ向けて、安東軍は再び動き出した。

最後まで読んでいただき感謝です!


さあ、包囲網を崩し、いよいよ残るは「最上義守」のみ。

玲夢と安東、そして用人の三位一体で、この奥州一の食わせ者にどう挑むのか。

知略だけで終わらないのが、この物語の安東軍です。

この逆転劇に熱くなった方は、ぜひ【ブックマーク】や

【評価】で安東軍に加勢をお願いします!

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