第十話 川を越えた先にあるもの
ついに10話。なんと「あの曲」が戦場に鳴り響きます。
安東家……反撃の狼煙がいま上がります。
春先の冷たい風が、川面を撫でていた。
伊達軍はすでに安東領内へ深く踏み込んでいる。
だが川を越える前、すでに小競り合いは始まっていた。
丘の麓での斥候同士の衝突。
夜半の矢戦。
兵糧隊を狙った小規模な襲撃。
いずれも決定打にはならない。
しかし、互いに様子を探るには十分だった。
安東方は引き、伊達は押す。
そして、伊達は渡河を決断した。
濁流を踏みしめる兵の列。
冷水が足を奪う。
それでも止まらない。
渡りきったその瞬間、伊達軍は安東の本領へと踏み込んだ。
もはや後戻りはできない。
そのときだった。
遠くで、声が上がる。
「コンギョ」
最初は一つ。
やがて二つ、三つ。
それは戦の鬨の声ではなかった。
歌だった。
祝いのような、祭りのような声。
四方から重なり、響く。
伊達軍の足がわずかに止まる。
「進め!」
伊達の号令は鋭い。
だが、兵の間にざわめきが広がる。
何が起きているのか、見えない。
そのとき、対岸の高みで一人の影が目を細めた。
玲夢である。
状況を見届け、ただ一言だけ落とす。
「……今よ」
それだけだった。
遠くで煙が立ちのぼる。
歌は止まらない。
「コンギョ・コンギョ」
祝祭のように広がっていく。
やがて急使が伊達のもとへ駆け込んだ。
「ご報告! 居城が――」
空気が凍る。
「居城が、襲撃を受けております!」
本軍はここにある。
では、城を攻めているのは誰だ。
伏兵は伊達本軍と接触していない。
矢も交えていない。
ただ、空になった城へ向かっている。
伊達は歯を食いしばる。
戦術で負けたわけではない。
兵は崩れていない。
陣も乱れてはいない。
それでも――
空気が、違う。
祭りのような声が、戦場を覆っている。
自軍が攻め込んでいるはずの地で、
なぜ祝われているのか。
やがて第二報が届く。
「城門、破られました!」
怒号が走る。
だが、怒りは外に噴き出さない。
伊達は静かに拳を握る。
これは敗北ではない。
しかし、勝ちでもない。
戦術で負けたのではない。
空気で、負けた。
その事実が胸を焦がす。
川を越え、深く踏み込んだはずの侵攻は、
いつの間にか己の背を脅かす刃となっていた。
伊達は川の向こうを見つめる。
対岸は、静かだ。
歌だけが、遠くに残る。
――自分が越えたはずの川が、
いつの間にか、帰る道を断っていた。
祝祭のような「コンギョ」の響き、脳内で再生されましたでしょうか(笑)。
小説では心理描写を厚くしていますが、
動画版では少し変更しております(主に編集技術がありませんので(泣))
しかし完結までこのペースで駆け抜けます。
1話でも「面白い」と感じたら、ブクマや感想で背中を押していただけると、
ADHDの作者は過集中でさらに筆が乗ります!




