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12 感謝の気持ちですわ

 年明けを迎え、数日後にはアドレニア城での舞踏会が控えるが、その前にまずはイーストル邸でのパーティーだ。しかし今日は年明け2日目。パーティーの日程がズレた理由は今日イーストル邸が迎えたお客様にあった。


「お父様、お母様、メアリー、本日はお忙しい中我が家にお越しいただき感謝致します。精一杯おもてなししますのでどうぞ楽しんでくださいませ」


 熟れたりんごのような真っ赤なドレスに身を包みそういったエリーがドレスの裾を持って大きく膝を落とすと、それに合わせ後ろに並ぶ使用人たちが一斉に礼をとる。


 しかし大仰とも見えるワンシーンが終わり、顔を上げたエリーは


「父様、母様、メアリー、いらっしゃい!」


 と弾むように言って3人の方へ駆け出した。勢いを殺さずに胸に飛び込んできた娘を抱擁したトンプソンは少し厳しい顔を作り娘に向き直る。


「せっかく良家の奥様らしくなったかと思ったのに、その振る舞いはどうした? 私に挨拶を返す時間をおくれ」


 礼を取った後、トンプソンの言葉を待たずに飛び込んできた娘を諭す彼だが、その眉波大きく下がっていて今ひとつ迫力がない。さらにエリーの後ろからはライネルもニコニコしながらエリーの援護をした。


「まあ、義父上、せっかくの日なのでお説教はそのくらいで。普段のエリー様はしっかりやってくださってますので」

「そうか、なら良いが、ライネル様もあまり娘を甘やかさないで下さいね」


 その言葉に彼女に甘い自覚はある、ライネルは苦笑いしつつ頷く。そんなライネルにトンプソンは改めて向き直る。


「さて、少々ドタバタしてしまったが、イーストル魔法伯爵ご夫妻のご招待、誠に感激しております。マーシェル家一同心より感謝致します」


 そう言ってピシリと美しい角度の礼をとるトンプソンに合わせアリスやエリーの妹、メアリーも膝を折る。


 父母が共に上級使用人として働いていることから年明けとはいえ、なかなか家族で集まれることのなかったエリーだったが、今年は結婚して最初の年越しだから、とライネルが使用人達が交代で休暇を取り出す年明け2日目にエリーの家族をイーストル邸に招待したのだ。


 さる伯爵家ではたらき始めたばかりの弟は流石に来れなかったようだが、両親はなんとか休暇の都合が付き、学校が休暇中の妹と共に来てくれた。エリーの興奮も無理がないわけである。






 料理長が腕によりをかけた夕食をいただき、場所をエリーお気に入りのライブラリに移しての一時。


 ライネルとトンプソンの手にはグラスが、女性陣の手にはカップがあった。いつも多少なりともお酒が入ってライブラリに来ると寝てしまいがちなエリーだが、流石に今日は家族に囲まれた興奮からか目が冴えている。


 彼らの話題は数日後の舞踏会に移っていた。


「あらまあエリー。新年の舞踏会にお招きされたの。あれは王族関係者や高位貴族ばかりが出席すると噂の舞踏会じゃない。変なことしないように気をつけてね」

「もうっ、大丈夫よお母様。そのためにしっかり練習しているんだから」

「の割には、今日は思い切り礼儀を無視していたが」


 玄関での出来事を持ち出すトンプソンに


「あれは……みんなが来てくれたのが嬉しくてつい、舞踏会ではちゃんとするわ。ライネル様に迷惑もかけたくないもの」


 と、いいつつライネルの方を見ると、グラスを見つめつつややボーッとしている。こんなライネル様珍しい、と思いつつエリーは彼にも話をふる。


「そうですわよね、ライネル様?」

「え、えぇ、失礼少しウトウトしていました」

「あら、年末はお忙しそうにされてましたし、きっとお疲れなんですわ。先に寝室にもどられます?」

「いや、大丈夫だ。明日も休みだしね。流石にゲストを置いて退出はしないよ」

「でも無理はなさらないで下さいね」


 そう気遣わしげに言ってソファを立ち、ライネルの方へ歩み寄るエリー。そっと肩に手を置くエリーと、それにほほえみを返すライネルに、エリーの両親は嬉しそうで、少し寂しそうな表情を浮かべ、メアリーは目をキラキラとさせていた。


 一方、やや覚醒してきたようではあるもののまだまだまぶたが重そうなライネルを見たエリーは


「そうですわ! 本当は後でお部屋に戻ってからお渡しするつもりだったのですが、今のライネル様にちょうど良いものがあるのです」


 と言うと、ベルを慣らして侍女を呼び、何やら耳打ちする。頷いて退出した侍女は少ししてなにかの包みを持ってエリーの元へやって来る。エリーはその包みを受取り、侍女に礼を言うと、もう一度ライネルの側へ近寄った。


「今年1年の感謝の気持ちですわ、ライネル様。受け取ってくださります?」

「年越しのプレゼントですか。勿論ですエリー様、今開けてみても?」

「えぇぜひ、むしろ今使っていただきたいくらいですわ」


 その言葉に、ライオネルが丁寧にリボンをほどき包みを解くとそこから出てきたのは深みのある緑色の毛糸で編まれたひざ掛けだった。


「手編み?それも魔法編みですか!」

「さすがライネル様。すぐ気づかれましたね。下町の友人に教えてもらいましたの」


 一方二人の様子を微笑ましく見守っていたトンプソンはライネルの言葉に一泊置いて目を見開いた。


「エリー、魔法編みなんて出来たのかい?」


 編み物をする際に自身の魔力を込める魔法編みは、魔道具作りの初歩とされるが、それでも魔道具を使ったり、直接魔法を行使するよりずっと魔力の制御が難しい。信じられない、とでも言いたげなトンプソンと同じような顔をする家族にエリーは苦笑した。


「城にいる時に魔力制御を一から教えてもらったのよ。ライネル様?かけてみてくださりますか」

「はい、……なんだかじんわりあたたまるような不思議な心地ですね」

「いっつもお仕事を頑張っていらっしゃるので疲れが取れるような魔力を込めてみました。まあ私はプロでもないのでお気持ち程度ですが」

「いえ、なんだかすぅーっと疲れが取れていくようでとても心地良いです。きっととても良い魔力が染み込んでいるのでしょうね」


 勿論強い魔力を持つライネルだから実際の効果がどのくらいか、というのはすぐに分かったが、なんだかそれ以上の力を感じるような気がする。何より楽しげなエリーを見て眠気と共にライネルを襲っていた少しの寂しさが水に溶けるように薄まるのを感じてライネルは隣の彼女に笑いかけた。


 そんな微笑みに、不覚にもエリーはドキリとしてしまう。そんな気持ちをごまかそう、とエリーは少しおどけたような声を出す。


「喜んでいただけて嬉しいですわ。そうだわ! 勿論お父様にお母様、メアリーにもプレゼントは用意して有りますの少しお待ちになって」

「じゃあ、私達からも気持ちばかりだが二人にプレゼントがあるから今渡すことにしようか」


 エリーの一言を皮切りにゆったりとした空気が流れていたライブラリーにはいくつもの包みが運ばれ、賑やかな雰囲気に包まれた。

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