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【9】 side:ラグナ




シェリスのもとから転移した僕はデュークハルトの部屋を訪れていた。

少し時間がかかり過ぎてしまったが、こればかりは仕方ないと諦めてもらおう。

ソファーへ座り「待たせたね」と声をかけたが、向かいに座った彼はあまり気にしていないようだった。

それどころか礼を尽くされた。



「ラグナフォーゼ様、話の前に私から一つ。妹のこと、私の“証”、この国に守護結界、お力添えを頂きましたことにお礼申し上げます」



さらにはお礼(これ)だ。

さすが兄妹だねぇ、結界は国のことであって自分達は直接かかわってないっていうのにね。

あぁ、デュークハルトは爵位を継いだら結界の関係者になるのか。

人間の前に姿を現すのは久しぶりだったから、お礼なんていつ以来だろう?

あはは、不謹慎かもしれないけど楽しくなっちゃった。


ティーカップ片手に、お互いが落ち着いたところで僕から本題を切り出す。



「いくつか質問があると言っていたね。さて、何から話そうか?」


「私の解釈が正しければラグナフォーゼ様は“精霊姫の証”を与えてまで妹の未来を変えようとされた。その来るはずだった未来をお教え頂きたく」


「本当は僕が力を使って介入するのは良くないんだけどね。“証”を与えるというギリギリ強引な方法で今回、未来の可能性を潰した。…いいよ、君には知る権利がある。君に“証”を発現させたのもシェリスを護るためだ」



そう、今回シェリスには直接“証”を与えたが、デュークハルトの場合はシェリスが産まれる少し前に突然発現した――皆、そう思っていたはずだ。

僕がシェリスを護るために彼の右目に発現させたとは誰も思っていないだろう。



「つまり私の“裁定者の証”も妹の未来を護るためのものなのですね?」


「うん、そうだよ。介入しなかった未来ではシェリスは火の下位精霊に害された。良くて顔が焼け爛れる大火傷、運が悪ければ…。火傷を負った時も貴族は彼女に厳しかった。人間社会っていうのは複雑だね。何もなくとも使える権力は大きく多いに越したことはないだろう?」



だからだよ、そう言えば彼は頷いた。

デュークハルトは確かに権力を欲していた。

妹を実の父親から護るための権力を。

前回は僕が介入しなかったから父親の脅威にシェリスは五年間も曝され続けた。

今回はデュークハルトが“証”を上手く使い、国王と話を付けて早々に父親を隔離した。



「火の下位精霊の件は心配いらないけど、彼女の未来はもう僕には見えない。そしてこれ以上、強引に僕が介入することももう出来ない。“証”というとっておきを使ってしまったからね。だから君が護ってほしい」


「かしこまりました」



本当はまだ聞きたいこともあるだろうに、これ以上は話さないように流れを持っていけば、理解しデュークハルトは呑み込んだ。

ふふふ、さすがだね。



「他に聞きたいことは?」


「“精霊姫の証”に関して何処まで報告をしてもよろしいのでしょうか?」


「僕が気に入った証であり僕の目と耳になるのが彼女の役目だ。報告に関しては国王に判断を仰げばいいよ。それについて僕から何かを言うつもりはないからね。あぁ、君には言うまでもないだろうけど彼女の意思を無視することのないよう、国王やその他に釘を刺しておいてもらえるかな?」



素直に了承していたデュークハルトだが「彼女の意思を無視」というところで瞳が怪しく光った。

僕に言われるまでもなく、そんな者を許す気は微塵もないのだろう。



ふふふ、彼女は良いお兄さんを持ったね。

だからだろう、彼女が必死になってデュークハルトを護ろうとしているのは。

実際には年齢や権力的な意味合いでも彼女にデュークハルトを護るのは難しく、本人は頭を悩ませていたみたいだけど。

あぁ、余計な心配もしていたね。

自分が生きていては彼を不幸にするんじゃないかって。

そんなわけないよね。

誰がどう見ても妹が大好きなお兄さんだよ。

妹の結婚式とかで泣きそうな感じの溺愛ぶりだよ?

まぁ、前回を覚えているならその不安もわかるけどね。



「あぁ、それと―――」



彼女が前に進み僕の課す役目を負った以上、僕ももう少しだけ手伝ってあげよう。

この先の未来がどうなるのか僕にもわからないけど、今度こそこの兄妹が幸せであるように。


この世界の神、僕はあなたに祈らないよ。

だってこの世界にとって重要でもない娘を寵愛し、その娘を愛し子として愛で、さらにはわがまままで聞いてしまった。

神が依怙贔屓もいいところだよね。

まぁ、唯我独尊なのが神なのかもしれないけど…。

他の大勢を巻き込み世界を狂わせ、呪いとも言えるものを作り出し、この世界から自由を奪った。

僕に権限と能力を与えたのは神、あなただ。

何者であろうと世界を狂わすなんて大罪、管理者として僕は許せない。


だから神には祈らない。

人間は弱い生き物だとよく言うけど、僕はね、そうは思わないよ。

絆や心の在り方で強くも弱くもなれる、人間とは不思議な生き物だね。



「――うん、その方向でよろしくね」



さて話も終わったし、そろそろ帰ろうかな。

つい、人間のようにソファーから立ち上がってしまった。

どうせ転移で戻るのだから座ったままでもいいのにね。

人間をずっと見てきたせいかな?


デュークハルトも見送る姿勢でいるのを目にし、笑いが零れた。



「じゃあ、僕は帰るよ」



転移を発動しようとして、ふと思い出した。

あぁ、そういえば言い忘れてた。



「僕が認めた者しか許さなからね」


「何を、でしょうか?」



前置きも主語もない宣言にデュークハルトが怪訝な顔をしている。

精霊王の僕が言うのだから何か重大なことかもしれないと思ったのかも。

まぁ、君にとってはかなり重大なことだと思うけど。




「シェリスの婚約者」



あ、固まった。

うんうん、素直な反応だねぇ。




「彼女の婚約者は僕が認めた者しか許すつもりはないよ。じゃあ、またね」




固まったままのデュークハルトを放置して僕は転移を発動した。

さて、出来ることはやったし、後は君達兄妹の頑張りに期待しよう。

期待してるよ、僕を動かすほどの強い想いを持つ君達に。



シェリス、頑張って。

繰り返しは今回で最後にしよう。


ねぇ、シェリス。

知ってるかい?

気づいているかい?

彼を救えるのは君だけなんだよ。

彼のあの悲痛な叫びを止められるのは君だけなんだ。


僕はもう、デュークハルトのあんな慟哭…

もう、もう…もう…

聞きたくないよ…。






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