↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/26

【番外1】お母様は規格外

何故こうなったのか…。


番外編、主役はシェリスのお母様です。

本編では既に亡きセレンティーナの公爵令嬢時代の一幕。




この話はカルラフォード大公兄妹の母、セレンティーナの話である。




シェリスとデュークの母は規格外であった。


強く美しく、信念を持って行動できる、間違いなく有能な女性だが…

時に、お淑やかという言葉を平気でどこかへ投げ捨てる、見る者によっては少々残念な美女であった。

もちろん支持者もかなりの数に上った。

特に騎士や魔術師、国民から厚い支持を得て。





この世界の魔術師とは、媒介や魔術陣を用いて魔力を行使する者の事である。

遥か昔には、そんなものを用いず、己の魔力を行使できる者が多く存在した。

彼らは魔導士と呼ばれ、現在では誰一人としてその存在を確認されていない。

ちなみに現在最高峰の上級魔術師は、全世界でも片手で数えられる程だ。


そんな魔術が衰退したこの世界の中、セブンフォード王国でセレンティーナは唯一の上級魔術師だった。




美しく優秀だったセレンティーナ。

魔術の名門・リーンフォード公爵家の前当主を父に、武の名門と名高いラングフォード公爵家の次女を母に持つ、能力も血筋も最上級の女性だった。

しかもセレンティーナ本人は、嫋やかな見た目にそぐわぬ女傑ときた。

女だてらに駄目駄目な夫のルーカスを抑え、大公家を背負って来た大公夫人。


彼女を呼び表す名はいくつもある。

美の女神、最強令嬢、セブンフォードの戦女神、などなど…。

中でもセレンティーナの代名詞と言えば、何と言っても“覇王”だろう。


これは彼女の存在を色々な意味で国内外に知らしめた出来事であった。

二十歳の公爵令嬢の苛烈で衝撃的な行動と、輝かしい戦果と共に。



時は、彼女が偉業と成し遂げた二十歳まで遡る。


セレンティーナが二十歳の時のこと。

突如、近隣のヴェルツ国とガルニダ国が国境を越え、攻め入ってきた。

当時のセブンフォード王国は今ほど大きな国ではなく、小国とは言え二国を同時に相手できるほど戦力に余裕はなかった。

二国同時に、しかも複数の戦端が開かれ、戦況は瞬く間に傾いていった。


戦況が不利と見るや、当時リーンフォード公爵令嬢だったセレンティーナは、共も付けず王宮へ登城した。

その足で国王や上層部、軍関係者が詰めていた会議室へと乗り込んでいく。

周りの静止など一切、聞きもせずに。



会議室の扉を乱暴に開くとズカズカと踏み入り、自分を戦場に出せと要望を突きつけた。

それに対し、賛成意見は少なく、当然のように大多数が反対した。

まぁ、軍属でもなく魔術師団に所属しているわけでもない、そんな令嬢が戦場に行かせろと言っているのだ、反対は当たり前なのだ。

それでも、どうしても戦場へ向かうため、無理を通すつもりで彼女はこの場に乗り込んだ。

中には「女が戦場に?」「令嬢に何が出来る」と言うような彼女を見下す発言もちらほら。


それに対し彼女はあくまで笑顔だった。



「現状、遠距離から範囲攻撃が可能な魔術師の方が有利ですわ」


「私はこの国で唯一の上級魔術師。これ以上の戦力がありまして?」


「戦力に余裕のない今、国の最高戦力を出さないのが如何に愚かか、わかっておいでで?」


「女だから戦場に出るなと?嫌ですわ。戦場を駆けた初代王妃様を侮辱なさりたいんですの?」


「公爵令嬢は護られていろと?ご冗談を。私を護れるほど強くなってから仰って」



何か言われれば片っ端から切って捨てた。

それでも覆らない意見に、彼女は最高責任者を叱咤した。

当時二十歳の令嬢が倍以上の年齢の国王に対して。



「被害を減らせる方法が目の前にあるのに、自から赴くと申しておりますのに、それを使わないなど愚か!死ぬつもりは毛頭ありませんが、私一人の命くらい背負えずに何が護れますの!」



それでも頭の固い年寄りや男尊女卑の観念を持った者達は頷かず、セレンティーナは説得を諦めた。

時間の無駄、埒が明かないと。

くるっと方向転換し、会議室に背を向けるとここに用はないと出て行く。

扉を潜り、言い忘れたと一言。



「処罰でしたら終戦後に甘んじてお受けいたしますわ」



パタンっと閉まる扉を背に、彼女は颯爽と立ち去った。


取り残された会議室の面々はただただ唖然するばかり。

言いたいことだけ言い、去った姿はまるで嵐のようだった。

彼女の勢いと余裕のない戦線に上層部はおろか、当時の国王ファビスすら黙した。


後にこれを切っ掛けとして、国王は愚息のルーカスを制御するためセレンティーナを宛がおうと画策するようになるのだが、この時はまだ誰も予想もしていなかった。

もちろんセレンティーナ本人も、自分の行動の結果、まさかの結婚相手を宛がわれるとは思ってもいなかっただろう。




一方、会議室を出たセレンティーナの行動は早かった。

自ら馬を駆り数名の共と戦場へ向けて出発すると、そのまま合流。

勝手に戦場に加わり、自らの信念のまま行動を開始した。

もともと騎士団や魔術師団に出入りし軍部の支持が強かった彼女は、混乱する場に有無を言わせず瞬く間に纏め上げた。



セレンティーナが合流した翌日、戦場は激変した。

それは最早、戦争ですらなかった。

まず、王国軍の騎士や魔術師が戦闘に参加する必要がなくなった。

理由は単純明快、ほぼ全てを彼女一人で無力化してしまうからだ。

敵兵へ向けセレンティーナが魔術を放ち、これに抵抗できた者に魔術師は遠距離から魔法を放つだけ。

騎士達にいたっては無力化された敵兵を拘束していくだけ。

既に戦いですらない。

昨日までの命がけの戦争と比べたら、遥かに簡単なお仕事である。


そして最初に魔術を放つセレンティーナとて、特別な魔術を使用したわけではない。

ましてや派手な破壊魔術や難しい魔術すら使用していない。

ただ、広範囲に高威力の睡眠系魔術を加減なしに放っただけだ。

もっとも、普通の魔術師ではこうはいかないし、中には睡眠抵抗の魔術も存在する。

それでもセレンティーナの魔術が成功するのは、ひとえに彼女が上級魔術師だからと言える。

同じ魔術でも中級魔術師とは、威力、範囲、精度が大きく異なるのだ。


彼女の参戦以降、セブンフォード王国軍は戦うことなく短時間で戦場を次々と制していった。

一応護衛という名目で母方の従姉弟、ラングフォード次期公爵のウォルフガングを連れ回して。

そうして自ら先頭に立ち、広がっていた戦線をセレンティーナは潰して回った。

彼女の参戦から数日、各戦場での勝敗は呆気ないほど簡単についた。

セレンティーナの作戦が実行されて以降、敵味方共に被害はほぼゼロと言える素晴らしい戦果で。

敵方の中にはこのような方法で無力化・拘束されたことで自身の矜持を酷く傷つけられた者もいたが、もちろんそれは被害に数えられていない。

被害者の中で最も重症だったのがセレンティーナに付き合わされたウォルフガングの精神的被害だと言うのだから、実質被害などあってないようなものだ。



その後、ヴェルツ国とガルニダ国の城へ乗り込んで主要人物を捕縛。

敗北と属国宣言を勝ち取った。

いや、セレンティーナが()ぎ取ったのだ。





後に、交渉の場に居合わせた大隊長は語った。

その時を思い出し「笑顔を初めて怖いと思った」と。

セレンティーナの言葉に「副音声(違う言葉)が聞こえた気がした」とも。

敵国の王を含めた上層部が捕縛された状態の玉座の間。



「ふふふ。皆様(敵対者)は、もう攻めて来たりしないで(おとなしくしていて)くださいまし」


「今回、兵士達は眠らせて(無事に)お返しいたしましたけれど」


「私、二度も皆様(敵対者)にこうしてお話しして(選ばせて)さしあげる程、優しく(甘く)ありませんの」


「一度で理解できないお方(愚か者)は必要ありませんわ。ねぇ、そう思いませんこと?」


「この際ですわ、私が魔術で綺麗に(強制的にお掃除)して差し上げましてよ」


「あと、出来ればここで攻撃(殲滅)したくありませんの」


「だって、やるなら綺麗に更地にしないと(消滅させないと)再利用(事後処理)が大変なんですもの」


「それに私、今寝不足であまり機嫌がよろしくありませんの」


「うっかりで手元が狂わない(攻撃範囲が拡大しない)という保証はできませんわ」



 で す か ら … 


 お と な し く …



「 頷 い て(従 っ て) く だ さ ら な い ? 」





こうして二十歳でセレンティーナは二国の属国化を成し遂げた。


これまでもセブンフォード国は度々、豊かな国土を求めた他国から侵略を受けてきた。

例え侵略を受けようと、自国を護るのみで他国に攻め入ることはなかった。

それは報復として攻め入るだけの戦力に余裕がなかったからなのだが、ここにきて他国は認識を変えた。

ヴェルツ国とガルニダ国が城まで乗り込まれ、敗北し、属国になったからだ。


「セブンフォード王国は他国の侵略を許さない」

「侵略には上級魔術師の苛烈な報復が待っている」

「一人で戦場を片付けたらしい」

「令嬢が二国の戦端を平定そうだ」



開戦から終戦までのあまりの速さに他国は注目する。

しかし属国となった二国は、自国の玉座の間での出来事など恥でしかないため、当然のように口をつぐんだ。

結果、漏れ出た少しの事実と噂が噂を呼び、二国同時に平定を成したことから皆“覇王”と彼女を呼んだ。

国民は親しみや敬愛を込めて。

他国の上層部は畏怖を込めて。


後に、セブンフォード王国内でセレンティーナの実話を元に、()()()()()()()修正された話が“二国平定物語”として出回るようになる。

それを知った国民は彼女を慕い、こう呼んだ。


“覇王様”

“最強令嬢”

“セブンフォードの戦女神”と。





彼女の行動の結果が、その後の彼女自身の運命を大きく変えることとなる。

それが良かったのか悪かったのかは、本人のみが知るところだろう。


そしてこの後、彼女の結婚話が持ち上がることになるのだが、それはまた別の話。


彼女の愛しい子供達と大切な国民は、今日もセブンフォードで生きている。

セレンティーナが護ったこの国で。







【蛇足】


当時戦場には彼女の父・リーンフォード公爵も宮廷魔術師筆頭としていたのだが、公爵は戦場に現れたセレンティーナを見て諦めたのだとか。

「あぁなったら止めるだけ無駄だ。被害が増える」と。


結果、散々連れまわされた、いや振り回されたと言った方が正しいのか…

従姉弟のウォルフガングを除けば敵味方共に被害と言う被害は見当たらなかった。

彼の場合はセレンティーナの行動による精神的なものであり、治癒術師にも治すことはかなわなかったとか。

精神的被害を訴えて少しおとなしくしろと説得しようとしたウォルフガングは


「いくら剣が強くても心が弱ければ突き崩すのは簡単でしてよ?」

「これしきで精神的被害?武の名門ラングフォードの名が泣きましてよ?」

「今回の事、いい訓練になったのではなくて?」


そうセレンティーナに言われて口を噤んだとか。





何故、こうなった…。

お母様が勝手に走り出して、勝手に暴走した結果です。

当初の予定よりだいぶと性格が…。

もっと穏やかな人だったはずなのに…。

何故こうなった…本当に!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。