第44話 帝国の首都へ
時は、第一次エレミタの戦いから二日前に遡る。
トオル達は、ズーニッツ帝国の北東に位置する東内海と呼ばれる海域まで移動していた。この東内海は、東大陸と東大陸一の大きさの半島であるナヴィア半島に囲まれている内海だ。そして、ナヴィア半島は、大きな鷲鼻の形をしており半島をナヴィア山脈で二分されている。地球でいう所のバルト海が地理的に近く、惑星エレミタが地球のコピーだという事の証左といえる。地球の地理に当てはめるとドイツやフランスがある場所が東大陸で、スペインやポルトガルがある場所が西大陸と呼ばれているようだ。
東大陸の更に北東に進むと中央大陸というのだから、当時の彼らは何を考えていたのやら。
「トオル、鉄の船が沢山泊まってる港が見えてきたよ」
甲板にいるラナリが、楽しそうな声で目の前の軍港を指さす。彼女にとっては、この船旅も初めての体験であった。トオルは、ラナリの隣に立ち軍港を見る。この軍港は、大小様々な艦艇が停泊していた。停泊している艦艇の中で、ひと際大きい全通飛行甲板の空母と大きな二連装砲を四基備えた戦艦が存在感を放っていた。
「中々面白い景色だな。今なら、一九三四年辺りの欧州にタイムスリップしたって言われても信じてしまいそうだ」
軍港に入港するトオル達が乗っている輸送艦の汽笛が鳴る。ラナリが、その音に驚いたのか後ろを振り返った。
「ラナリ、そろそろ入港するみたいだから部屋に戻ろうか」
ラナリがトオルの言葉に頷き、甲板の階段を降りて行った。トオルは、それを見守りながら、もう一度軍港に停泊している艦艇を眺める。そして、この壮観な光景を脳裏に焼き付けた後、自身もまた部屋に戻り上陸の準備を始めた。
上陸したトオル達四人を待っていたのは、国旗が描かれた赤い腕章付きの黒い軍服を着た下士官達である。その六人の下士官達が、右腕を斜め前にぴんと伸ばす独特な敬礼をする。スレクトが答礼した後、下士官の一人がトオル達を黒い来賓用のレトロな自動車に案内した。そして、トオル達を乗せたレトロな自動車は、帝国の首都へ向けて走り出した。
「スレクト様、これからどこに行くのですか?」
後部座席の右端に座ったキューが、助手席にいるスレクトに聞く。トオルは、座席の真ん中に鎮座しており、居心地が悪そうにしていた。なぜ、このような席配置になったかというと、ラナリの外の景色が見える位置が良いとの要望に答えたからであった。
「そうだな、まずは昼食を済ませてしまおう。その後は、第一帝国技術研究所に向かう。ラナリが力を制御を出来るようにするためにな」
「ラナリの力ってのは、そんな簡単に制御できるようになるのか?」
「ああ、あの博士にとっては簡単な案件だ。なんせ、聖遺物の力によって古代文明の文字を完全に学習した帝国の至宝とも呼ばれる方だ」
古代文明の文字は、キューの電脳を持ってしても解読できなかった。それを読めるのなら、古代文明の技術や理論をそのまま理解出来る事に等しい。
「是非とも博士という人に、古代文明の言語をご教示願いたいですね」
「博士は気さくな方だ。特に人類について興味を持っているから大歓迎だろうさ」
レトロな自動車は、日が真っ直ぐ昇る頃に帝国の首都ベルリナへ入った。コンクリート製の建築物が立ち並ぶ、近代的な街並みであった。人類的に言えば、ホプリス族の街が中世の欧州といった趣きで、ヴァイツ族の街は近代欧州の趣きがあるといえる。
そんな自分の生まれ育った街との違いを感じ取ったラナリが、不思議そうにコンクリート製の建物を眺めていた。トオルは、そんなラナリの背中から楽しそうな雰囲気も含まれている事を感じ取った。
「すごく楽しそうだな」
「うん。この装飾された白い箱みたいなの初めてみたよ。だからすごく新鮮なんだ」
ロネの街で育った彼女にとって、目に映る物全てが初めて目にするものだった。生後三年ぐらいの幼い子供が、新たな知識を連続して得るかのような体験を彼女は今まさにしているのだろう。それは、端的に言えば、世界が広がるという感覚である。
「運転手。そろそろ昼食を取りたい。どこか食堂にでも行ってくれ」
スレクトが運転手に命令する。レトロな自動車は、裏道にある食堂へ進路を変えた。そして、目的地に付くと路肩に止まった。




