「強者」
敵の戦力に大方の見立てがついた以上、これ以上無理に警戒する必要はない。もちろん、奥の手や予想外の事態に対する警戒は怠らないけど、そればかり気にしていても仕方がない。
正面に敵がいることは間違いない。こちらから銃を撃ち込むのも手だけど、弾薬には限りがある。無駄遣いするのは得策じゃないね。
煙が晴れるまで待つのも面倒。
なら……手っ取り早く突っ込もう。
「来るぞ!」「三階だ!」
向こうもこちらの動きに気づいたらしい。複数の足音が一斉に動き始める。怒号が飛び交い、慌ただしく何かを構える音が聞こえた。
この手段を取る以上、敵の数や位置を細かく気にしている暇はない。
私は腰を落として銃を手に取り、床を蹴った。全速力で走り出す。姿勢は限界まで低く、顎が床に触れそうなほどに身を沈めた。
「撃て! 撃ちまくれ!」
直後、銃声が廊下を埋め尽くした。砂煙の向こうから放たれた弾丸が、耳元をかすめるように頭上を通り過ぎていく。ほんの少しでも姿勢が高ければ、無事では済まなかっただろう。
それでも速度は緩めない。
煙の向こうに人影が揺れた。距離が縮まる。もう迷っている時間はない。
まずは一人。
私は走る勢いを殺さぬまま、身体を仰向けに反転させた。地面すれすれだった視界が一瞬にして天井へと切り替わる。
私の視線が捉えたのは、男の顎。迷わず引き金を引く。銃声とほぼ同時に男の影が崩れ落ちていく。それを横目に、私は身体をひねり、再び元の低い姿勢へと戻った。
着地の感触を確かめる間もない。すぐさま前を向き、廊下の奥へと走り続ける。
次。
煙が薄れ、ようやく敵の姿がはっきりと見え始めた。思っていたよりも近い。残りは四人。全員がこちらを向いている。
一瞬、銃口がこちらを捉えた。
私は手にしていた銃を前方へ放り投げる。硬い音が廊下に響き、敵の視線がそちらへ逸れた。
そのわずかな隙を逃さない。
私はナイフを抜き、床を蹴って跳躍した。視界の中で四人の姿が交錯する。次の瞬間には、全員がその場に崩れ落ちていた。
静寂が戻る。
耳に残った銃声だけが、まだ廊下の中で鳴り続けているようだった。




