ドライブ中に何なんだよお前は
下ネタを言いながら少しクール。そして殺し屋。僕はそんな「ギャップ」が好きです。
現在①(僕目線)
道端で急にバニーガールに話かけられたらもちろん困るが、ドライブ中に全身血だらけの大男に話かけられたらもっと困る。バニーガール以上に。
「乗せてくれないか」えっいや、ちょっと、その。
「いいから乗せてくれ時間がないんだ」なんの時間ですか。
「旅行の時間だ」
僕はこの人と関わったらダメだ、と瞬間的に思う。なんなんだこの人は、と。
「乗せないとどうなるんですか」僕自身関わってはいけないとわかっているのにも関わらず、口が勝手に言葉を発する。興味があったのだろう。この大男に。
「乗せないとどうなるか。そうだな。この服に血として着く。それだけだ」ゾワっと全身の毛が逆立つ。周りにいる通行人たちは洒落た服なのか、あるいは肌の色が極端に赤いのか、あるいはただただ怪我をしているだけなのかとそれほどでしか思っていないと思うが、僕にはしっかりと見えている。この人の服についているのは血だ。冗談なんかじゃない。この人は人を殺しているんだ。
「いいから、乗せてくれ。俺のことなら乗せてから話そう」
「え、はぁ」ため息というよりは疲れのせいで出た声を出しながら、僕は渋々大男を車に乗せた。
「横浜に向かってくれないか」大男は言う。僕もちょうど横浜に向かっていたので「わかりました」とだけ返事をする。
「あなたはいったい何なんですか」聞きたいことは山盛りだったが、これだけは聞いておかなければと思ったので、とりあえず聞いてみた。通常の答えなど返ってくるはずもないと思いながら。
「人間だ」案の定、通常の答えなど返ってこなかった。ため息の代わりに「それは知っているんですが」と声をかけるのに精一杯だ。
「もう少し具体的に言うと、日本人だ」その言葉を聞いてもうこの人とは口を聞きまい、と誓った。
「そんなことを言ったらキリがなくないですか」僕は痺れを効かして言う。
「渋滞だ」何だコイツは、と喉まででかかった。しかし、やっと言葉の意味を理解して窓を見る。進行方向は気持ちいいほどに車が進んでいるが、反対側はまるで進んでいなかった。
「なぜ渋滞したのか、そう思っているだろう?」大男はあたかも僕がそう思っているように言うものだから、愛想笑いを浮かべて「そうですね」と言うぐらいしかできない。本当はそんなことどうでもいいのだが。
「正解は俺が人を殺したからだ」もういいよ、と言いたかった。人を殺してなんで人の車に乗り、なぜか横浜を目指している。何なんだ。まさか僕が知らないだけで世界はすでにこうなっているのかもしれない。
「俺は人を殺すのが仕事なんだ。殺し屋だ」僕の頭がパンクしたのかと思うぐらい、脳みそから空気が抜けたと思う。殺し屋などドラマやアニメの中でしか見たこともない。聞いたこともない。この世界はいつからこんな変になったのだろう。そう考えるのが精一杯だった。
「セックスしたことある?」
何だ。急に天から声が降ってきたのか。と思えば、大男が「聞いてんだよ」と睨んでくるので、僕は大男がそれを発したのだろうと、ようやく察する。
「俺は察って名前なんだけどさ。察って名前だけでセックスできないんだ」いやいや、それは殺し屋のあなたが言うことじゃないですよ。僕は大男が察という名前なことよりも、下ネタを言った事に驚いた。
その後しばらく沈黙が続いた。別に話すことが無くなったからなのだろう。大男も途端に静かになり、目を瞑っている。
「お前結婚しているのか」大男らしくないことを言った。ついさっき人を殺してきた殺し屋が僕に「結婚しているのか」と聞くのはおかしいじゃないか。
「まさか、プロポーズして振られたんだな」僕が黙っていると、急にそんなことも言ってくる。
「図星か」
今日覚えたことといえば、殺し屋の大男は何故か人の心が読めるらしい。ということだけだ。
僕は黙々とハンドルを動かし、右折する。




