遂に
【前回のあらすじ】
〈レイ〉
ついにアイリスが待ってやがる場所に着いた。
ようやくあのムカつく面をグチャグチャにできるぜ。
ハルの分まで、あのド畜生を泣かせてやらぁ。
しかし、時間までは書かれてはいなかった為、レン達と討伐隊はひたすら待つことになった。
もちろん、レンは待っている間も警戒を解くつもりはない。理由は言わずもがなである。レイは……、腹が減っていた。なので狩ってきた熊の肉を焼くため火を焚いている。アレクシアは、奇襲に備えて守りを固めていた。
すると突然、周りを警戒しながら歩いていたローザがレンに向かって、
「レ…レンさん……!跳んで……!!」
と叫んだ。レンは余りにも唐突な事で驚いたが、その後一歩を踏んだ瞬間、レンは罠に気づいて空高く跳び上がった。そして息づく間もなく地面から無数の氷の剣がレンに向かって飛び出した。跳んだのがレン以外なら間違いなく死んでいる。
「あ、危なかった〜!まさか、氷塊棘が仕掛けられてたなんて……」
レンはホッとしながら着地した。そして、すぐにローザの方を見た。
(罠系の魔法は設置されたら魔法陣が見えなくなる。それを見抜くのは僕だって無理だ……。なのに彼女はそれを見抜いて、しかも『そこから離れて』じゃなくて『跳んで』なんて言うなんて……)
そう思いながらレンはローザに近づいて肩を叩いた。
「ねぇ、ローザって言ったっけ?さっきの氷塊棘、どうやって見抜いたの?」
そう聞くと、ローザは中々言い出せなかったが、口を開くと、
「そ、その……。た、大したことはして…なくて……。氷塊棘を張られた地面は、じゃ…若干冷気が舞ってるんです……。そ、それを……見ただけなので……。それに……レンさんなら、と…跳んでも避けられると思って……」
と言った。それに対してレンは少し驚きを見せたが、すぐにこう言った。
「そんな違いがあるなんて……。それにしても、よく僕に跳んでなんて言ったよね」
「ふ…普段は注視しないと駄目なんです……。それに、見た感じこの辺りにはな…七つは氷塊棘があってしかも、そ…それぞれが隣接してるので跳んで避けたほうが良くて……」
それを焼いた熊肉を食べていたレイも聞いていたのか、2人に近づいてきた。
「盗み聞きしてたけどスゲェな……。全然分かんねぇ」
レイは魔法もからっきしなので当然である。
「アンタ、天才って言われない?スゲェよ……」
「うん、確かに凄いよ。まだ着いて数分経ってないかなのに罠がある事に、しかも複数ある事気付くなんて……」
レンとレイはローザを褒めたが、ローザの表情はさらに暗くなって、後ろを向いた。
「……褒めたって何も出ませんよ……!!」
そう言いながら、ローザはその場から消えるように離れた。
(褒められたって何も……。何も……!!)
アレクシアがすれ違いざまに見たローザの表情は何処か悲しそうだった。
しばらくして、レンとレイは地面をじっと見つめて、氷塊棘か張られていそうな場所を片っ端から踏みつけ、わざと発動させて罠を一個一個潰していった。しかし、全ての氷塊棘を発動させても、アイリスは姿を現さなかった。
「……。出てこないな……」
「まだ時間じゃないんでしょうか?ボク達、何だかんだで1,2時間くらいこの場にいるような気がします」
「そのくらい待ってもまだ出てこないのか……」
「ったく……。まどろっこしいな……」
すると、レイが立ち上がって近くの森に向かってこう叫んだ。
「おい、アイリス!!テメェいい加減に面ぁ見せろよ、このへっぴり腰の弱虫野郎がァ!!」
……返事がない。ただの無駄足のようだ。レイの行動を不思議に思い、レンはレイに聞いた。
「それで出てくるかな……?」
「あぁ言った奴は、こう言われっといきり立って出てくるもんなんだよ。もしこれであのクソったれが出てこなかったら……」
『そのクソったれが出てこなかったら?』
「んなもん決まってんだろうが。放っといてさっさと帰って……」
そう言いながらレイは声がした後ろを見ると、アイリスがゼロ距離でレイの後ろに立っていた。
レイとその近くにいたレンは素早くアイリスから離れて再び武器を構えた。
「いつの間にこんなに近くに!?ローザ!アイリスが来た!!」
レンの呼びかけを聞き、ローザは第4討伐隊全員に伝わるように敵襲を表す赤い信号を空高く撃ち上げた。そして1分も経たないうちに討伐隊の兵士は全員臨戦態勢に入った。
アイリスは辺りを見回した。ようやく自分が囲まれてしまった事に気付いたようだ。
「まったく……、どうして1人で来なかったんだい?卑怯じゃないか……」
「ハッ!どの口が抜かしてんだか!!」
「……まあいいや。どうせ君ら全員死ぬんだし」
そう言いながら、アイリスは右手を上に伸ばした。レンはそれと同時に思った。
(こいつ……!僕とレイとアレクシア以外を殺す気か!!)
それを食い止めるためにレンはアイリスの右手に目がけて電撃を放ったが、アイリスに難なく避けられてしまった。
「おっと……。惜しかったねぇ…今のはかなり。無詠唱ってところまでは良かったけど、目線でどこに撃つかバレバレ……」
とアイリスが喋っていると、急にアイリスは右手が後ろに引っ張られたような感覚に襲われた。後ろを見ると、ローザが炎の鞭のようなものを持ってアイリスの右手を縛っていた。
「……火鞭…!驚いた……。まさか人間如きがそんな魔法を扱えるとは……」
「堪忍……しなさい…!!」
ローザは息が上がりながらアイリスに警告した。
「フフフ……。震えているようじゃ、まだまだだね」
そう言いながら、アイリスはニヤリと笑みを浮かべた。
【ちょっぴり用語解説】
〈信号〉
その名の通り、遠く離れた仲間への伝達として使われる情報共有魔法の一種。
色ごとに意味が違い、赤は敵襲、青は制圧もしくは防衛完了、黄色は援軍要請、紫は死傷者発生を表す。
〈火鞭〉
大火炎の火力をそのままに、鞭状に変化させて敵を打つ魔法。
しかし、このような『魔法を武器の形状に変える』というものはかなりの高等テクニックであり、魔術師どころか熟練の賢者でも精度の調節が難しい。
最後まで読んでくれてありがとうございます。




