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ストレンジフィールド  作者: 大犬座
4章 『本能の洞窟』へ
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4-2 思わぬ犠牲者と知らない異常事態

一ヶ月以上投稿が遅れて申し訳ありません

流石にもうちょっと早く投稿しないといけませんね…

イサオの掲げる松明に照らされた洞窟内部にあるのは、特に変わった所のない岩壁と天井からぶら下がる氷柱石だけだった。


「ほっ……どんなヤバイ洞窟なんだろうって警戒したけど、案外普通だね〜」


そんな普通の洞窟の、物静かな闇に出迎えられたミエリはどんな奇異な景色があるのかと気を張っていたのもあってか、油断だらけの台詞を吐く。


「おいおい、何度も言ってるだろ、ここはまだ本能の洞窟の入り口に通じている横穴だって、まだ本番じゃねえよ」


「それに、ここにもギラッツがいるからねー、油断してると大事な物が食べられちゃうよ」


そんなミエリに最後尾からアフタレアの注意の声が掛けられ、続け様にシャラムの声が聞こえてくる。


「え、あ!ほんとだ!でもなんでこんなところに?」


「こいつらがここまで来るのは、洞窟内で見つかる金属製の流されモノを狙ってるからだと考えられている、まあそんな訳でギラッツに食われる前に回収しようとここには解明者が常に出入りしているんだ」


「なるほど〜蘇生院に来る人たちも多くはここで亡くなられた人を連れて来られるのですが、ここがこの区域で一番調査されている場所だったからなのですね」


慌てて周囲を見渡し、岩陰にギラッツを見つけたミエリが口にした疑問にイサオが答え、それにユーエインが反応する。


「だからここは基本常に人がいるんだ、見てみろ同業者だ」


イサオが前を指すと、向こうの方から仄かな光が近づいてくるのが分かった。


「ん?ミエリのパーティじゃねえか、なんだ?今日はここを攻略するのか?」


「昨日はありがとねー、三人がスライムの相手してくれたから私の負担が減って助かったよー」


遭遇したのはジェインズのパーティだった。松明を掲げるジェインズが質問をし、その後ろから顔を出すフラブランがシャラム、アフタレア、ビルセティに感謝を述べた。


「ここが一番実入りがいいからな、それよりお前たちは今から帰りなのか?」


「馬鹿言うなよ、昨日シャラムたちと沼地の調査行ったばかりたぞ?俺たちも朝から来たさ、だが……」


そう言ってジェインズたちが後ろを向く、するとそこにはパーティのヒーラーであるエルーが堂侍に抱えられて目を瞑ってぐったりしていた。


「あれ、エルーちゃん寝てるんですか?」


「寝てる、か……そうじゃない」


そう言って堂侍が前に出る、松明の灯りがよく当たって堂侍と腕の中のエルーがよく見えるようになると、"それ"に気がついたミエリがハッと息を呑んだ。


「油断した、事前に気配など全くしなかったにも関わらず、いつのまにか俺の背後を何かが素早く移動したんだ……」


「堂侍も俺も、全く対応出来なかった……んで、気がついたらこれだ」


腕の中のエルーは……首が180度曲がり、首の下は背中が見える状態で、堂侍の腕から手と足がだらんと下がっていた。


「ヒーラーがやられたらパーティの生存率は極端に下がるからねー、慌てて逃げてきたんだよ」


「ちょっと前にこの洞窟で数十人規模の被害が出た事が二度もあったと噂に聞いたことがあるが……甘く見ていた、どうやら本当に危険な奴がいるみたいだ」


「この区域じゃサイウも起きたって話だし、あんたたちも気をつけた方がいいよー」


「えっと、サイウって?」


自戒するジェインズたちの忠告の中に聞き慣れない言葉を見つけ、ミエリが質問する。


「え、そんなの自分のパーティに聞きなさいよ、説明なんて面倒くさいし」


そう言われてミエリが振り返るが、何故か一人として目を合わせようとしない。


「あー、俺たちはさっさと帰りたいからさ、帰ってコロニーガードにでも聞けよ、あいつらは実際に対処してたらしいし」


「というわけでお先に失礼するよー、あんたたちも気をつけてね」


それだけ言うと、ジェインズのパーティはさっさとミエリたちの前を通り過ぎて去って行った。ミエリたちとの会話の中では普段の態度を崩さなかった彼らだが、その足取りと堂侍のエルーを大事そうに抱える姿からは、仲間を守れなかったことにショックを受けていることが伺えた。


「あの方々は大丈夫でしょうか……」


「さあな、でも今はそっとしとく以外ねえだろ?それより自分も首を折られないか警戒しといた方がいいぜ、ユーエインちゃん?」


「そうだね、私たちが今から行くのはその得体の知れない化け物がいるダンジョンなんだから、心配するなら自分の首の骨を心配した方がいいよ」


蘇生院の者として思うところがあったのか、ユーエインが心配しながらジェインズたちの後ろ姿を見つめる、そんな彼女にアフタレアとシャラムが厳しくも正しい言葉を投げかけた。


「そうかもしれませんが……どうしても考えてしまうのです、私が蘇生魔法を使えれば彼らを救えたんじゃないかと」


「おい、そんな絵空事を考えるな」


蘇生魔法……その単語を口にしたユーエインにずっと黙っていたエンロニゼが反応する、その口調には少し怒気が籠っている。


「ですが……一部の世界では実際に使われていると聞きます、それならば……」


「おい、ちょっとうるせえぞ、ユーエインちゃん」


「……ッ!?」


「どこで使われていようが、結局どの魔法試してもこの世界じゃ失敗だっただろうが……無いものねだりするんじゃねえよ」


「あのさ、あんたのとこの怪しい司祭に頼まないと蘇生が出来ない以上は全部無駄口なんだよね、それに死者が生き返らない世界の方が多いんだから贅沢言わないでよ」


妙に食い下がるユーエインに突然アフタレアが怒鳴り出す、おまけにシャラムすらもそんなアフタレアに同調してユーエインを責め立てた。


「ちょ、ちょっと!そこまで言わなくていいじゃん!」


「おいお前たち、これからダンジョンに潜るんだぞ、少しは己を抑えて仲良くしろ」


「はい……」


「チッ、分かったよ」


「はいはい」


「…………」


熱くなるメンバーに動揺したミエリが仲裁に入り、イサオが注意を促す。そんな指導者二人の言葉に四人は大人しくなったが、居心地の悪い雰囲気はそのままだった。


「随分と躍起になりますねー、あっそうか!皆さん元の世界で大切な人と死に別れを経験してるんですね!でもこの世界じゃよっぽどがない限りそれはありませんから大丈夫ですよ!」


……その空気感の中で唯一、それぞれの言葉から何かを読み取ったゼノルが黙っていればいい事を大声で喋る。


そんなゼノルの姿を見ながらミエリを目と口を全開にして「アワアワ……」と声を漏らし、イサオは正面を向いたまま渋い顔を右手で覆った。


「おい、勘だけは鋭いお前に一つ忠告しといてやる、血反吐吐いて地面に寝転がりたくなかったらそれ以上しゃべるな」


「場の空気を理解出来ないのは仕方ないけどさ、あんたの後ろがドラゴンメイドとルナルドネスって事は理解しといた方がいいよ」


いつもより遥かに低い声でアフタレアとシャラムがゼノルに圧をかける。


「大丈夫です、僕はお二人だけじゃなくエルフとセラフィモの方にも言ったんですよ」


二人の言葉を分かってないのか更にゼノルが余計なことを言う。


(ああ〜!もう後ろ振り向きたくないよ……)


背中から伝わる最悪の雰囲気から逃れようと、ミエリは足早に歩を進める。横を見ればミエリに飛び火しても大丈夫なようビルセティが少し後ろを歩きながら触手を出して警戒している。


「よし!お前たち喧嘩はそこまでだ、スタート地点に着いたぞ」


そう声をかけて立ち止まるイサオ、ミエリが少し前に出て松明の照らす先を見る。


するとそこには、ミエリが初めてこの世界に来た時にいたホワイトボックスというストレンジダンジョンと同じような、空間が割れたように洞窟の入り口がゆらゆらと歪みながら顔を覗かせていた。


内部の様子はミエリの予想とは違い仄かに明るく、それは壁や床に埋まっている紫色に光る鉱石が洞窟内を照らしているからだと外からでも確認でき、自然な岩壁や地面からレンガで舗装された道や壁が顔を覗かせているその景色は『本能の洞窟』という意味深な名称に相応しい異様さだった。


「内部に入ったら数人に別れて行動することになるだろう、だから今一度所持品と得物の確認をしておけ」


「銃もナイフも端末もオッケー、わたしは良いよイサオさん」


「アタシとドラゴンガードナーは大丈夫だ、出発前に互いに確認したからな」


「私も大丈夫だ、金以外なら管理出来ているのが自慢だからな」


「……私も、大丈夫です」


「僕も大丈夫です!ユーエインさんもそろそろ切り替えた方がいいですよ!」


「私は端末以外何も持っていませんので心配いりません。それはそうと、そろそろフェアリーを起こした方がいいのでは?」


ビルセティの言葉にメンバーの視線がミエリの手に集まる、見ればあれほどの騒ぎがあったにも関わらず、レガナはミエリに抱えられながらスヤスヤと眠っていた。


「呑気なものだな、やはり連れて来るべきじゃなかったかもしれん、ミエリ起こしてくれ」


「レガナ!ダンジョンに着いたよ!」


「ふぇ〜?そうなの……?」


ミエリが声をかけながら指でつついてようやくレガナが目覚める。眠い目を擦りながら体を起こすレガナに呆れたからか、メンバーたちの空気が少しだけほぐれるのをミエリは感じた。


「よし、先ずは俺が入って入り口周辺の様子を確認する、そしたら次はミエリが入って来てくれ」


「よし分かった、ビルセティはわたしの次に入って来たらイサオさんと一緒に警戒をお願いね」


「かしこまりました」


ビルセティの返事を聞いたイサオは、腰の剣を抜き、大型の盾をドンと地面に突き立てて持ち直すと歪んだ入り口へと入っていく。


「よし、いいぞミエリ」


イサオの合図を聞いたミエリは銃を構えつつも、


(綺麗な洞窟だなぁ、沼地とは違って汚れずにすみそう)


などと悠長な事を考えながら無警戒な足取りでダンジョンへと入って行った。

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