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ストレンジフィールド  作者: 大犬座
2章 実戦と濡れた人形
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2-11 立ち向かうべき時

「こ、これは……師匠が言っていたグロブスタの特徴まんまじゃないか……!」


霧の原因はイサオの予想を裏切り、その昔イサオが師匠と慕う男が語ったグロブスタと同じ特徴を持つ大蛇だった。


そんな圧倒的な存在を見て、イサオの脳裏に忘れていた記憶が蘇る。


…………


「そういえば師匠、さっき言ってたグロブスタって結局倒したんスよね?」


「ん?どうした急に」


「いえ、そんな大物倒したなら素材や食材、調査材料と色々使えるじゃないスか、それでどうなったのか気になって」


「ああ、それがだなぁ……マランが怪我をしたのはさっき言っただろ?それであの当時はスライムを固めるための薬液もなかったからな、アルドヴィダも怪我をしていて無理はさせられなかったのもあって結局俺たちは討伐の証に眼と牙だけ回収して拠点に戻ったんだ」


「そうっスか、なんか勿体ないっスね」


「一応、その後に組合が回収依頼を出したらしいが、数組のパーティが回収に行って持って帰ってきたのはごく少量だったらしい、だから奴の死骸はまだあのダンジョンに残ってるだろうな」


「といってももう骨だけになってるっスよ」


「だが組合の連中はその骨だけでも良い額で買い取ってくれる、お前が金に困った時はこの話を思い出して行ってみるといい、それに……」


「……?」


「昔アーマインが言ってたんだ、蛇は、とある伝承で不死の薬を呑んだことで不死の力を手に入れていると語られているらしい、だから脱皮を繰り返して蘇るんだそうだ」


「はぁ……それ、真面目に捉えてないっスよね」


「まあ間に受けちゃいないが、この世界じゃ何があってもおかしくない、お前も気をつけろよ」


…………


「そうか思い出したぞ……奴は師匠たちが倒したグロブスタなんだ、師匠の言ってた通り奴は蘇ったんだ……!」


イサオが一人狼狽している中、ミエリはビルセティに掴まり、触手の移動能力で大蛇の攻撃を躱しながらイサオの下まで帰還した。


「イサオさん大丈夫!?」


「それはこっちのセリフだ……それよりミエリ、早くここを離れるぞ」


「え!?でもまだ二人が……」


「確かに二人を置いていくことになる、だがアレは俺たちじゃ手に負えない、お前を連れて帰るためには多少の犠牲は仕方ない」


「そんな……なんでそんなことが言えるの!あの二人も仲間なんだよ!」


「ここはそういう場所なんだ!それにあれは規格外なんだ……実は昔、マスターだけで組まれたパーティが奴と戦った話を聞いたことがあったんだ」


「え?マスターって、確かすごい人たちだよね……?」


予測外の話にミエリの勢いが消える。


「だが彼らですらこの霧の中じゃ苦戦を強いられていた……しかも今の奴は聞いた話にはない能力を新たに獲得している、とてもじゃないが今の状態じゃ相手に出来ないんだ!」


「イサオさん、おそらくアレは違うかもしれません」


突然、両足がなくなって、ちょこんと人形のように座っているビルセティが口を開いた。


「なんだ?」


イサオが怖い顔でビルセティを睨む。


「私はあの大蛇が口を開けた時、その奥に何か眼のようなものが見えました。おそらく、あの大蛇は擬態です」


「な!?」


「擬態……?どういうこと?」


「あの大蛇は外皮もまるで何かの殻のように固く軽いですし、何より頭があれほど砕けているにも関わらずそれを強引に修復して襲ってきました、私を喰らおうとした時も機能しなくなった頭部を強引に動かして口を開けていましたし、そして何より……」


そう言ってビルセティが大蛇の方を向く、大蛇がゆっくりとこちらに向かっているがその這う動きは非常にぎこちない。


「襲う動きこそ素早いですが長距離の移動はどこか不安定です、言い換えるなら「練習不足」のような……」


「つまり、お前はアイツが昔暴れてた大蛇ではなく、それに擬態した『倒せる相手』だと言いたいんだな」


イサオが皮肉混じりにまとめる。


「そうは言いません、ですがお二人を救出して逃げることくらいはできるはずです」


「…………残念だが、その提案には「わかった、じゃあわたしが囮をやるね」


イサオの言葉に重ねるようにミエリが話を進める。


「え?」


「な!?ミエリお前!」


「大丈夫、さっきアイツの動きを見てて分かったことがあるからさ、二人もわたしの思いつきに付き合ってもらうよ」


「馬鹿な事を言うな!自分が何言ってるのか分かってるのか!?それにコイツの言っていたことが本当なのか確証もないんだ!」


「ミエリ、失礼ながら貴方の戦闘能力は皆無です。そんな人間があのようなものと対峙するのは自殺行為だと言わせてもらいます」


ミエリの無茶な提案にイサオが激昂しながら叫ぶ、ビルセティもミエリの提案には難色を示している。


「話を聞いて、あの二人はこのままじゃ届かない場所にいる、だからビルセティの触手で引っ張らないといけないの」


「お前……」


「でもそうなるとビルセティが守る人が必要になる、わたしは悔しいけど戦えない、だからイサオさんが彼女を守って!それに、二人ともその足じゃ逃げることなんて出来ないでしょ?」


二人が各々自分の足を見る、不意打ちによる怪我でイサオはあまり走れず、ビルセティに至っては触手による移動しか出来ない。


「それに、わたしが解明者になるって言ったからみんな付いてきてくれたんだよね……これはわたしが言い出したこと、だからその責任を取りたいの!お願い、わたしを信じて……!」


「…………ひとつだけ約束しろ」


押し黙っていたイサオが口を開く。


「え?」


「絶対に、絶対に死ぬなよ」


「…………はい!」


「よし、じゃあすぐに行動するぞ。ミエリ、奴はもう近くにいる、俺たちからなるべく遠くに誘導してくれ」


「わかった、じゃあビルセティお願いね!」


「かしこまりました、ところでひとつだけよろしいでしょうか」


「え、なに……?」


「あの霧には幻惑効果があると言ってましたよね?もしかしたら陽動中に幻惑にかかるかもしれませんよ?」


「あ……」


「は!……その通りだ、ミエリやっぱりこの作戦は……」


「だから、私の力をお使いください」


そういうとビルセティはミエリを触手で抱き寄せて唇を重ねた。


「んー!?」


「んな!?」


ミエリの閉じた唇をこじ開けて何かが侵入する、粘液が混ざり合う音が微かに響く。


「ぷはっ、これで大丈夫です」


しばらくミエリの口内を蹂躙したあと、ビルセティが口を離す、その顔はどこか満足気だ。


「ふあぁ……ちょっといきなり何すんの!ん?なんか喉の奥に違和感が……」


ミエリが異物感を感じて口を開けると舌の上に触手が乗っており、それは喉の奥へと伸びている。


「お前!何をした!?」


「霧を吸い込んでも大丈夫なようにフィルターとして私の身体の一部を取り付けました、既に取り込んだ霧も吸収しているはずなのでもう幻聴が聞こえることはないでしょう」


「うぅ……そうなの……?でも気持ち悪いなぁ」


「ですが悪いものではないです、私はミエリを信じます、だから私の事も信じてください」


「おいミエリ、すぐに吐き出せ」


「……イサオさん大丈夫だよ、ビルセティの触手は本当にすごい能力を持ってるから、それに……私は彼女を信じているよ」


「ミエリお前……無鉄砲すぎるぞ」


「ミエリ、私が必ず皆を救います」


「それじゃ、二人とも任せたよ!」


ミエリはそれだけ言うとこちらに緩やかな動きで迫る大蛇へ走り出した。


「……くそっ!」


「ミエリ、お気をつけて」


そう言ってミエリの背中を見送るビルセティの口元が微かに緩んでいるのをイサオは見逃さなかった。


(……コイツ、本当に信じていいのか?ミエリ……俺はもうどうするべきかわからない……)


心の中で葛藤しながらもイサオはビルセティを担いで沼の端までまで走り出した。

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