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ストレンジフィールド  作者: 大犬座
2章 実戦と濡れた人形
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2-10 異変の正体

イサオとミエリが合流する少し前


泥の中に胸上まで浸かりながら、シャラムとアフタレアは互いを支え合いながら自分たちを狙い迫る巨大な影を睨んでいた。


「クソ、この状況じゃ喰ってくださいって言ってるようなもんだぞ」


「まんまとこの化け物の罠に嵌ったね、身動き取ってる暇もないし、どうにかして撃退しなきゃ」


巨大な影はだんだんと姿をはっきりとさせていく、その姿は規格外の大きさを誇る大蛇だった。


全身は光沢のある黒を基調に焦茶色や紫の規則性のない模様がついた外皮で覆われており、頭部の大きさに比例しない小さな双眼はまるで真珠のような白く輝く珠のようで、蛇の眼球とは思えないデザインだった。


そんな視線のわからない眼で大蛇が二人を睨む、そして間髪入れずに大きく口を開けて二人を飲み込もうとした。


が、危機的状況で勘が働いたのか二人は互いを背にして、足で大蛇の口をつっかえさせてギリギリで踏み留まる。


「くうぅぅ……別に死ぬのは構わねえけどドラゴン女と一緒に心中は御免被るぜ」


「うぅ……珍しく意見が一致したね、私もあんたと一緒にくたばるのは絶対に避けたいっ……ねぇ!」


万力のような力で閉じようとする蛇の口を押し返しながらも無駄口を叩き合う中でシャラムが言葉の最後を口にしながら蛇の内部に向かって灼熱の炎を吐いた。


「キシイィィィィィ!!」


くぐもった絶叫をあげながら大蛇がもんどり打って暴れる。その拍子に底なし沼に隣接する様に聳え立った、山を思わせるほどの大岩に体を打ち付けて地面を揺らした。


「とりあえず時間は稼げた、でもこのままじゃ喰われるのが遅いか早いかの違いしかない……アフタレア!」


「なんだよ!」


「私を持ち上げて!翼さえ動かせればそのままあんたを引っ張って抜け出せるかもしれない!」


「わかった!そのかわり今の体制を崩す事になる!チャンスは一回だ!」


「了解!早く上げて!」


シャラムの合図を聞いたアフタレアは沈めた斧に捕まりつつ、シャラムの脚を掴んで下から押し上げる。普通の人間なら泥の抵抗で動かないような状況だがルナルドネスの筋力はそれを可能にしており、シャラムは腰下まで勢いよく飛び出した。


「よし!これで行ける!」


シャラムが広げた翼に力を入れて羽ばたかせる。力強く舞う翼は泥を跳ね飛ばしながらシャラムの体を浮かび上がらせ少しずつ上昇する。


「やった……!やれたよアフタレア!」


「…………」


「これで助かる!早く逃げてみんなを……」


「すまないシャラム、失敗したみたいだ」


「は?あんた何言って……」


意味が分からずアフタレアの方を見たシャラムは瞬時に言葉の意味を理解した。


引き上げたアフタレアは既に全身が薄いピンク色の液体に塗れていた、このダンジョンで警戒すべきスライムの一つ、リビドースライムだ。


「ブラッディスライムだったら犠牲になるのはアタシだけだったのにな、とことんツイてねぇな……」


スライムは既にシャラムの腿のあたりまで登ってきており、そのまま一気に腰、背中、そして翼まで登ってきた。


「ひうっ……!」


下半身と翼に痺れる感覚が走り、思わず力が抜ける。それでもシャラムは使える力を全て使って懸命に翼を動かす。


しかし、非情にもスライムは全身に回り、快楽による刺激がシャラムの許容値を超えてしまった。


「あうっ……!こんなのって……」


翼から力が抜け、沼の中へと落ちていく……


落下の景色がスローに感じたシャラムが最後の景色を目に焼きつけるために周りを見ると、先程の大蛇がまた、大口を開けて迫って来ていた。


(もう終わりかな……空回りばっかりでなんの意味もなかった)


自分はこのままスライムと一緒に呑まれて死ぬ、そう覚悟し目を瞑った。


しかし、シャラムの予想とは裏腹に次に響いたのは二人を飲み込む音ではなく、何か鞭のようなものが大蛇の頭を全力で強打する音だった。


「え……?」


「ふぇ……?」


二人が困惑しながら沼に落ちる、既に思考が回っていないアフタレアを抱えてシャラムが翼で泥を掻き、なんとか浮上する。


「大丈夫ー!!?」


霧の奥から誰かの大声が聞こえる。


すると、触手が霧を払い視界が大きく開けて奥の人物が見えてきた。


「ミエリ!?無事だったんだね!」


「シャラム!アフタレアもそこにいるの!?」


「いるよ!でも二人揃ってヤバイ状態だし、それにここには化け物がいる!早く逃げて!」


その言葉に合わせるかのように大蛇が首をもたげる、その強打した部分には何やらヒビのようなものが走っていた。


「大丈夫!私たちがなんとかする!」


そういうとミエリは横にいるビルセティの方を向いた。


「ビルセティ、アイツを倒せる?」


「未知の相手への勝率に関しては何も言えません。ですが、絶対に負けません」


「わかった、じゃあ命令するよ……アイツをぶっ倒して!」


「かしこまりました」


そういうとビルセティは駆け出し、両腕と背中から触手を出して突撃させる。


大蛇は触手を避けようと首をしならせるが、その動きはぎこちなく、半端なところで止まった。


「そんな動きじゃ、避けられません!」


大蛇の動きとは打って変わってビルセティは自在に触手を操って首に巻き付けると凄まじい力で締め上げる。


大蛇はそれに抵抗するために尾を振りかぶってビルセティに叩きつけようとするが、それより早く触手が拘束した。


「はぁっ!」


そして、残った触手を絡ませて一本の巨大な鞭を作り出し、それを大蛇の頭に振り下ろした。


先程の鞭打とは違う、丸太のような質量の打撃を受けて怪物の頭は砕けながら地面にめり込んだ。


「やった……!すごい!すごいよビルセティ!」


地を鳴らしながら倒れる巨体を見たミエリが飛び跳ねながら喜ぶ。


「おい!お前ら早すぎるぞ、視界からいなくなるなと言ってるだろ」


イサオが重量のある装備がぶつかる音を鳴らしながら遅れてやってきた。


「……ん?なっ!こ、これはどういう事だ!?」


「イサオさん!ビルセティがやっつけてくれたんだよ!もう安全だから早く二人を助けないと!」


そう言ってミエリは沼の中心を指差す、そこには溺れそうになっているシャラムとアフタレアがいた。


「くっ、なんであんなところに……しかしこの沼の状況ではなにか舟でもない限りあそこまで行くのは不可能だぞ……」


途方に暮れるイサオと沼の中心を交互に見ながらミエリが何かを閃く。


「イサオさん!ちょっと思いついたことがあるからビルセティ呼んでくる!」


そういってミエリは荷物を下ろすと、ビルセティがいる沼の対岸まで全力で走り出した。


「おい!……勝手な行動ばかりだな」


そう言ってイサオも後を追いかけた。


…………


動かなくなった大蛇の前ではビルセティがその亡骸を見つめていた。


「おかしいですね、こんなに呆気ないなんて……」


大蛇は確かに倒した、しかしその倒した感触があまりにも軽すぎたことにビルセティは違和感を感じていた。


「ビルセティ!すごいよ!一人で倒せるなんて!」


「ミエリ……いえ、これくらい大した事ではありません。私は信用してもらえるならどんな命令にも従います」


無邪気に喜ぶミエリに対して、ビルセティは真摯にそして淡々と返す。


「そ、そうなんだぁ……だったらさぁあのさぁ、お疲れのところ申し訳ないんだけどぉ、もう一つ命令聞いてくれる?」


ミエリがもじもじと言いづらそうにビルセティにお願いをする。


「もちろん、なんなりとお申し付けください」


「おい!ミエリ!お前いい加減勝手に……」


遅れてやってきたイサオがミエリを叱責しようとするが、何故か言葉に途切れ無言になる。


「あ、イサオさん!すみませんでも急がないと!」


ミエリが謝るがイサオはそれに反応せず、二人の奥を見上げている。


「イサオさん?」


「ミエリ、逃げろ……」


「え?」


「早く逃げろ!そいつはまだ死んじゃいない!」


大蛇の頭は確かに砕けた、しかし再び霧を口から噴き出しながら頭をもたげている。


「そんな、確かに大蛇は……」


「え?」


二人が理解できないまま振り返ると、大蛇は体格から想像つかないほど素早くミエリを飲み込もうと動いた。


「危ない!」


ビルセティが触手を伸ばしてミエリを吹き飛ばす、そして入れ替わりでその位置に伸びた触手を食いちぎって大蛇がビルセティと向き合った。


「くっ!」


(おかしい……生きていたなら気づいたはずなのに、いえ……それどころかこの大蛇は先ほどから生気がない……!)


千切れて本数の少なくなった触手を束ねながらビルセティが戦闘態勢をとる。


(次に口を開けたら……今度は首の骨を折ります!)


そうして大蛇を睨むが、彼女に降りかかった攻撃は……皮肉にも彼女と同じ触手による鞭打だった。


「え……?」


両足を砕かれ、地面に倒れ込む陶器の少女は自身に何が起きたのか理解出来なかった。


「ビルセティ!」


ミエリが遠くで叫ぶ声が聞こえる。


「くっ……一体何が……」


謎の攻撃を繰り出した大蛇は大きく口を開け、身動き出来ずにいる彼女に迫る。ビルセティの目には大蛇の口とその奥にあるものまで見えていた。


(え?これは……)


もうすぐで喰われそうになるその瞬間、そんな彼女をミエリが掴んでそのまま前転する。


「ミエリ!なんで!」


「なんでも何も仲間なんだから同然でしょ、それに……たまにはわたしにも守らせてよ」


その言葉を聞いたビルセティは自分の奥がほのかに暖かくなるのを感じた。

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