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ストレンジフィールド  作者: 大犬座
1章 おぞましき世界
14/80

1-13 はじまり

「これで晴れてお前もイカれた世界で暴れる仲間の一人になったわけだ、歓迎するぜミエリ」


「なに先輩風吹かせてんのよ、あんたはついさっき私たちに拾われただけなんだから」


「お前ら、後輩の前でみっともないぞ」


三人の先輩たちが後ろで盛り上がってる間もミエリは自分の身分証を見つめていた。


「では次に武器の支給と取り扱い方のレクチャーを始めます、訓練施設の方までご案内いたします」


そんな様子を気にもせずアマユが事務的に話を進める。


「え?武器……」


「当たり前だろ、ダンジョンには遊びに行くんじゃねえんだから」


「といっても護身用に支給されるナイフとハンドガンの教習でしょ?あとはポーターの基本カリキュラムだけだし3時間くらいで終わるから心配しなくて良いよ」


シャラムはそう気楽に言うが、平和な日本で育ったミエリには武器を持つということが当たり前ではなく、彼女の心に一抹の不安を覗かせる。


「まあ落ち着けよ、どうせアタシたちが守ってやるし死んでも回収してやるからはっきり言って必要ないんだ、テキトーにやりゃ良いんだよ」


「確かに俺たちが守ってやるが……必要ないかは別問題だ。蘇生の費用はパーティメンバー同士でも発生する、無駄な金を使いたくないなら真面目にやれ」


「まあ、ストレンジダンジョンとかなら金は……おっとそうだアマユちゃん、コイツにタブレットを支給してねえだろ?先に渡してやってくれ」


「え?あらそうだったの……申し訳ありません、ムカついてたので適当な対応をしていました」


そう言いながらアマユが奥のスタッフルームと思しき場所に引っ込む。


「タブレットって?」


「正式名称はstrange field livelihood assistance tablet、略称SFLA tabletというこの世界での生活に必要な機能が全て入っている端末のことだ、金はこの中の数字でしか存在しないしパーティ登録や関所の通過等、俺たち解明者にはなくてはならない代物だ」


「みんなタブレットとか端末とか板切れとしか言わないから、名前なんて覚えなくていいよ」


「あと余計な機能として逐一アタシたちの状況がギルドに発信される、これを持ってコソコソ動くことは出来ないと思ったほうがいいぜ」


「お待たせしました、こちらがミエリ様のSFLA tabletでございます。既に情報登録は済んでおりますのでそのままお使いください。」


「使い方は俺たちの世界のやつと殆ど変わらん、それと掲示板くらいしか暇つぶしになりそうなものはないから依存する心配もないぞ」


そんなことを言われながらミエリがタブレットを起動する、確かに日常の中で使うだろう機能ばかりであまり楽しい気分になるアイテムではない。


ミエリが一通り機能を見ようとタブレットを弄っていると突然、画面が切り替わり「MAP」という文字が大きく表示される。と同時に、またミエリの頭の中に夢の中で見たあの病院の景色が現れた。


(またあの景色……もしかしてこのMAPはあの夢と関係があるの……?)


「すみませんミエリ様、その端末について簡単にご説明しますので一度電源をお切りになっていただきますでしょうか」


顔を上げるとアマユがカウンターを指で軽く叩きながらこちらを睨んでいた。どう見てもイラついており、喋りと態度が一致しない。


(まあ後で調べればいいか、イサオさんたちに見せるかどうかもそれから判断しよう)


そう考えながらミエリがタブレットの電源を落とす。


「では端末の装備方法についてご説明を、ダンジョンの調査中は必ずこのホールドを使って体に固定させてください」


そういうとアマユがケースに入ったベルトの塊のようなもの取り出す。


「なにこれ?」


「基本的コロニーの外じゃタブレットはそれを使って体に括り付けるんだ、大事な物だしここら辺なんかはギラッツもいるから盗まれねえようにってな」


「私が手伝うから付けてみよっか」


シャラムの指導を受けながらミエリはホールドを体に付ける、固定方法は日本では見たことない方法が採用されており、着脱が楽なのに固定はしっかりしている。それでいて緊急時の解除も簡単にできるという便利な物だった。


「これすごいね、ただタブレットが胸の部分に当てられているのが気になるけど」


「一応、急所を守る胸当ての役割も兼ねてある、流石に蘇生費用よりタブレットの交換の方が安くつくからな」


「とは言っても蘇生の証明にタブレットは必要だし、この方法が良いとは思わねえけどな」


「蘇生の証明、ってなに?」


「蘇生を行うと回収者に金が入るのは知っているだろう?だが回収者自身がそいつを殺している可能性もある、だからタブレットで直近の状況をギルドが精査するんだ」


「なんかこのタブレットは常に周囲1キロの状況をどういう理屈か知んないけど探知してるみたいでさ、証明する際に正確に状況を再現出来るみたい」


相変わらずとんでもない技術だとミエリは舌を巻く。


「まあいざとなればこのタブレットで連絡を取り合ったり、応援を呼ぶこともできるから悪いことばかりじゃないよ」


「だがそんなタブレットの通信も通じない場所がある、ストレンジダンジョンだ」


「確かこの世界にある異世界だったっけ?わたしがいたあの場所……」


「そうそう、でそのストレンジダンジョン内だと通信が行えないから蘇生する人と回収者の端末から当時の記録を抜き取って照合する方法で証明するみたい」


「え、でもシャラムがあそこで回収したフェアリーは端末持ってなかったよ?お金貰えたの?」


「蘇生相手の端末が壊れていたり、そもそも持っていなかった場合は証明が成り立たない、その場合は本来の報酬の3割しか貰えん」


「一応貰えはするんだね」


「その3割は運搬費です。一応コロニーまで運んでいますのでそれに対する報酬です。それより早く終わらせたいので訓練施設への案内を開始してもよろしいですか?」


「あ、はいはい早速行きましょ」


適当な返事にアマユが眉間に皺を寄せるがミエリはその様子を気にせず、アマユの案内でワープゲートのようなものを使い移動した。


訓練施設と呼ばれる場所はやはり例に漏れずハイテクの塊といった場所で、ホログラムの標的や特殊な材質で作られたどれだけ傷付けてもすぐに修復する木人など十分すぎる練習道具が設置されている。


天井には外では見られない青空が再現されており、全体的に明るいギルド内でもここは特に明るい。そんな場所で様々な種族が剣や魔法の鍛錬に励んでいた。


「では、支給品のナイフとハンドガン「α12(アルファトゥエルブ)」の取り扱いについてご説明しますので表示されるガイドをよく読みその通りに使用してください。また、こちらの教官型アンドロイド「シドーくん」による直接的な指導も行えます、併せてご利用ください」


「ヨロ……シク!」


アマユの横にデッサン用の人形のようなものが立っており、その人形が癖の強い挨拶をする。


「また変なのが出てきた……」


「ミエリ、その銃は軽くて撃ちやすいが俺たちの世界の大型拳銃くらいの威力が出る、ちゃんと取り扱いについて学んでおけ」


「といっても中型以上のグロブスタ相手にゃ期待できねえオモチャだ、よっぽどナイフの方が有用かもな」


「トカゲには分かんないかも知れないけど急所を狙えば結構強いんだよ、ミエリー!しっかり狙えるように頑張ってー!」


そんなこんなでミエリは四苦八苦しながらもナイフの扱い方、銃の撃ち方、疲れない荷物の持ち方などを教官に叩き込まれている。


(ヤバイ、まだ練習なのに心折れそう……)


ミエリの心が折れそうになっている間、外野の三人は別の話に花を咲かせていた。


「そういやお前らってどっちもガードナーだよな?なんで組んでんだ?」


「コロニーにいても暇だからね、私が一人でいたイサオに声かけてホワイトボックスに潜ったんだよ」


「俺も暇だったからな、多少の金になるだろうと乗ったんだ、だがブラックゾーンまで行くと言い出した時は流石に焦ったがな」


「アタシがいうのもなんだけどお前ら適当だな、というかホワイトボックスなんて何も無いだろ、行く意味あったか?」


「あんたのあとに蘇生したフェアリーとミエリを拾ったよ、それにミエリを襲ってたグロブスタもね、まあ大した相手じゃなかったけど」


「へー、あそこのグロブスタはなかなか発生しないからな結構な金になったんじゃないか?」


「そこそこね、だからミエリにお祝いとして何か買ってあげようかなとは思ってるよ」


そんな話をしているとミエリがふらふらとボロ雑巾になりながら三人の方に歩いてくる。


「お、終わりましたぁ……」


そう言いながら倒れるミエリ、その後ろからシドーくんがやってくる。


「基本カリキュラム=修了シマシタ、応用カリキュラムをウケるorダンジョンで実践にウツる、ドッチモ本人次第、御武運ヲ」


そう言ってシドーくんは敬礼するとどこかに去っていった。


「とりあえず、ロビーに戻るか」


「そうだねパーティ登録もしないといけないし」


そうしてミエリは有名な宇宙人捕獲の写真のようにシャラムとアフタレアの二人に両脇から抱えられ、引きずりながらロビーまで戻っていく。


「……ふっ、いいものだな」


そんな様子を見ながらイサオが微笑んだ。


…………


「お疲れ様です!今回の業務を担当させていただきますユーマルと言います、よろしくお願いします!」


ロビーに戻るとアマユの姿はなく、代わりに初々しい猫耳の女性が対応していた。


「あれ?アマユさんはどうしたの?」


「先輩は交代の時間なので休憩しています、なんかすごい疲れたって言ってました」


「まあ分からなくもないな、よし!アタシがあとで慰めに行ってやるか!」


「先輩のご友人ですか?そうしてもらえると助かります」


「いや、コイツは多分体の関係になりたいだけだから」


「か、体ぁ!?」


ユーマルが赤くなり、絶叫する。


「はははっ冗談だよ」


「というか早く登録済ませてください……わたしもう疲れた……」


「あ!わ、分かりました!では皆さんの端末に許可確認のメッセージを送りますので確認してください!」


「あ、そういえばアタシもまだだったな、アタシのも頼むよ」


「はい!」


「慌てなくて良いよ、落ち着いてゆっくりね」


シャラムが優しい声でユーマルに話しかける。


そんな様子を見ていたイサオがずいっと前に出て意外なことを言い出した。


「すまん、更に追加するが俺のことを特別要員に変更しといてくれ」


「ふぇ!?分かりました!」


「え?イサオさん特別要員って?」


「おいおじさん、コイツの事を一人前にするまで付き合うんだろ?特別要員じゃ調査報告一回でパーティ脱退じゃねえか」


「ガードナー二人も要らないとか考えてるの?そんなの関係ないのに」


「お前たちに一つ聞いていいか」


イサオが対峙する様に三人の前に立つ。


「今のパーティの比率はどうなっている?」


「えーと、前衛三人に後衛一人……でもってさっきの天使ちゃんが入りたいって言ってたから後衛は二人になるな、確かにバランスが悪いと言えば悪いけど言うほど酷えか?」


アフタレアの言葉にシャラムも頷く。


「違う、俺が言いたいのは職業の比率じゃない、男女の比率だ」


未だに言葉の意味を汲み取れず、三人は困惑を隠せない。


「……ッ!俺が言いたいのはこのパーティ比率ならば男は不要だという事だッ!!」


業を煮やしたようではっきりとした言葉でイサオが主張する。しかしその言葉は三人の頭を更に混乱させるだけだった。


「……ん?つまり何が言いたいの?」


「俺は今日の間ずっとお前たちの様子を見ていた、その様子は非常に仲睦まじいじゃないか!こんな中に男は不要なんだ!」


「「「????????」」」


三人はこの目の前の男が今まで一緒にいたイサオと同じ人物なのか疑い始めていた、この男の豹変はそれだけのインパクトがあったのだ。


「いや、別に一人くらいいてもいいじゃん」


「良いわけあるかぁ!それは見方を変えればハーレムだ!つまり女の園に不純物が混じっている事になる!しかもそんな状況なのに男側は女に言い寄られたから〜とか言い訳しやがる!それで男が甲斐性を見せてお前とは添い遂げられないとか抜かすが……はっきり!言って!そんなの!クソ以下だ!!男がいるという事象そのものが許せん!!」


(……ああ、この人は面倒な気質を持っている人なんだ……日本では厄介オタクって言われてただろうなぁ)


ミエリはその様子を見て、どこか懐かしさに似たものを感じていた。


「落ち着けよおっさん、アンタがモテないのはよく分かったからそんな事情をアタシたちに押し付けるなよ」


「なんていうか……ユーエインを信用できないから保留した人間の発言とは思えないね」


「イサオさん、譲れないものがあるのは理解できるけどそんな理由で離脱宣言しないでよ」


当然ながら三人はイサオのくだらない理屈を受け入れようとはしない。


「お前らそう言うが、そうやってズルズルこのパーティに引き留めるつもりじゃないだろうな」


「たくっ、なんでこのおっさん、急にこんなめんどくさくなったんだ?」


「さあ?」


「わかった、イサオさんの意見は汲むから代わりに条件を決めてそれまでの間は在籍してもらうわ」


「条件?どんなだ?」


「あと戦える人が二人加入してくれるまでイサオさんには残ってもらう、それでいい?」


内心こんな取引をする意味はあるのか疑問に思いながらも、ミエリが交換条件を提示する。


「戦闘要員が二人入るまでの限定か……それならいいだろう、よろしく頼む」


条件を呑んだイサオが爽やかな笑顔でミエリと握手をする。


「ハァ〜……全くなんなんだよ」


「ほら〜、わけわかんない事で叫ぶからユーマルが怯えてるじゃない」


見るとユーマルは耳が完全に寝ており、青ざめながらガタガタと震えている。どうやらイサオの迫力に気圧(けお)されたようだった。


「ああ、すまない……とりあえず特別要員は取り消しだ、何度も手間をかけさせてしまったな」


イサオが申し訳なさそうに頭を下げる、その姿を見て震えながらもユーマルは必死に首を横に振る。


「とりあえずこれでいいんだよね、もう帰っていいかな……私疲れてるんだよ……」


ユーマルが震えながら首を縦に振る。それを見たミエリはさっさとギルドを出ていき、残りの三人も話ながらそのあとを追う。


「とりあえず、明日は一番近いダンジョンに行こうか、ここから一番近いダンジョンは……」


「沼地だな」


「初めての冒険にしては陰気だが、まあ悪くないんじゃないか?よし!明日に備えて腹ごしらえだな」


騒々しいメンバーが去り、ギルドにいつもの静かな雰囲気が訪れる。


その後には震える猫が一匹残されていた。

これで一章終了です、長かった……

もっと短く出来たような気がする。

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