第38話 学院1年目2
「ティは私達と同じくらいの身長なのに、何でそんなに強いの?」
なんて、レレとハンナに聞かれてしまった。
「私は小さい頃から、ずっと実戦の場に居たから、自然に強くなったとしか言えないかな?」
「実戦経験の差なのかな?それだけでもない気がするけど?」
レレとハンナは、背が低かったり力が弱かったりするため、家族から見捨てられるように、ここに来たらしい。
だからこそ同じ位の身長の俺が、剣術・体術の授業で、卒業レベルなのが不思議なのだろう。
だけどそれに対して、的確なアドバイスは俺には出来ない。
なんせ本当に実戦経験の差だとしか言えないからだ。
この世界には魔法が有り身体強化魔法も存在するが、身体強化は殆どの人が使えるため、使えることによるメリットは少ない、それに筋力やスピードそれに防御力が上がっても、単純な体格差を覆せるわけではなく、例えば大剣の横薙ぎを俺がまともに防御すると、そのまま押し負けて飛ばされてしまう。
だから俺の場合、相手の動きを読んで、力比べに持ち込まれないように、立ち位置とかを気にするけど、それをどう説明すればよいのやら。
「うーん。単純な力比べになると私達は不利だから、そうならないように、立ち位置とかタイミングとかを考えないといけないんだけど、それはなんというか?結局何回もやってみるしかないかな?」
二人共なんか悩んでいるのだが、実はこの2人、言うほど弱いわけでは無かったりする。
確かにまだ卒業レベルにはなっていないものの、既にいくつかの授業はスキップしているし、同年代の同性相手ならば勝ち越しているのだ。
問題は種族的な考えの方で、この2人の種族にとっては、平原人や森人に格闘系で負けるほうがおかしく、勝って当然の考えの中で生きてきたため、そんな考えになっている。
「まだ入学したばかりだし、これからいっぱい練習すれば大丈夫だよ」
「うん。そうだね。頑張るよ」
なんて答えてくれた。
最近はこんな感じで、お互いに励まし合ったりしている。
格闘系は俺のほうが分があるけど、レレは細かい細工とかが得意で美的感覚も良いから、そういった授業では俺はかなわないし、ハンナは語学や歴史が得意で、俺も教わる時がある。
種族特性により、2人は家族に認められていないけど、2人は得意な事を伸ばしていけば、別の道があるのではないかと思う。
こうやって充実した毎日を送っていると、必ずと言ってよいほど邪魔が入る。
俺は今学院の寮で生活しているのだが、そこにスタン子爵家から手紙が届いた。
すぐに屋敷に来る様に書いてある。
他に何も書いておらず、ただすぐに屋敷に来るようにと。
うん。怪しい。怪しすぎる。
取り敢えず、『勉強が忙しいので戻れません』と返信だけしておく。
それとは別にマーブル先生にも手紙を送る。
近況や友だちができたことと、学院の様子なんかを書いて、最後に手紙が来たことを伝え、なにか情報が有ったら教えて下さいって書いておく。
これで大丈夫かな?
念の為学院側に俺の事情を話して、もしスタン子爵家の誰かが面会に来ても、断ってもらうようにしておく。
まぁ元々学院は中立派だから、こういった情報は既に回ってきているはずだし、スタン子爵家との縁が切れていて、俺をどうこうする権利が無いのも知っているはず。
数日してマーブル先生から情報が来た。
それによると、エルダー伯爵に割り振られていた、街道警備の仕事を、失ってしまったらしい。
いつかはそうなるかと思っていたが、2ヶ月持たないとは思わなかった。
詳しく書いてあったので読んでいくと、どうやら雇った貴族の子供等が、ろくに街道警備をしていないのに、勝手に警備料と称して、お金を集めていたらしい。
街道警備の仕事は国からの仕事だ。
当然そのための予算が組まれていて、エルダー伯爵から貰っている。
それなのにろくに街道警備をしないだけでも問題だが、警備料を集めるとか普通に犯罪なのだが?
本当ならこれでスタン子爵家も終わりだが、全ては兵士が勝手にやったことだと説明して、なんとか爵位は守ったようだ。
とは言え勝手に集めていた警備料の、全額返還を命じられたようで、かなりの金額を払ったらしい。
俺が家を出る時に既に火の車だったが、いったいどこからお金を集めたのやら。
あーそれで俺を呼んでいるのか。
俺はそれなりに財産が有るから、それ目当てなのかな?
まぁ絶対に行かないけどね。