第39話 学院1年目3
入学してから2ヶ月がたった。
スタン子爵家からの手紙は、あの後も度々送られて来るものの、すぐに屋敷に来いとしか書かれておらず、具体的に何か書いてあることはなかった。
その代わりと言っては何なのだが、スタン子爵家から来たと名乗る、やけに偉そうな人達が来るようになった。
何の用かわからないし、情報が取れるかもと思い会ってみたのだが、
「スタン子爵家より持ち出した、財産の返却を要求する。私はスタン子爵の代理人で、この件に関して一任されている。速やかに引き渡すように」
なんて言ってきた。
まぁこれも予想されていた中のひとつなので、それらは正当に俺のものであることを説明し、お引取りいただいたのだが、最初はまだ真っ当な代理人らしく、話を聞いてすぐに帰っていったものの、段々と悪質な者が来ているようで、素直に引き下がらなくなってきた。
こうなってくると俺のことよりも、グロス達のほうが心配になり、総合ギルド経由で連絡してみたが、今の所そっちには行っていないようで、総合ギルドと協力して対策をすると言ってきた。
それでも諦めると思えないし、ああいった奴らはしつこいから、先に手を打つことにした。
「という訳で、これ以上私や元兵士になにかした場合は、うっかり街道に並べてしまうかも知れませんが、それは仕方のないことになります」
俺の誠意ある説得のおかげで、この問題に関しては、取り敢えずの決着を見たのだった。
多少青い顔をしていたり、震えている者が居るから、もしかしたら寒くて、早く会談が終わって欲しかったのかも知れない。
現に話が終わったら、皆さんすぐに帰っていった。
別に大した事は話していない。
現状の問題と今後の対応策、それにこの問題に対して、どの様な機関が動いているかを話したのだが、皆さん見た目よりも話のわかる方々で、すぐに納得してくれた。
ちなみに皆さんはここから普通に帰れはしたが、どこかで危険な目に遭わないように、陰から見守ってくれる人達がついて行ったのは、言うまでもないことだ。
誤解のないように言っておくと、こうした対応になっているのは、俺の意思では無かったりする。
あんまり俺も知りたくないから、触れないようにしているのだ。
そんな感じで取り立て屋みたいなのは追い返したが、次の問題がすぐにやってきた。
「ティちゃん!初めから決めていました!どうかこの手を取って下さい!」
モテ期が訪れたのだ。
嘘だ。
どうも入学前の子爵家とのやり取りが、微妙に変化して伝わった結果、俺と婚約すれば子爵になれると勘違いして、男爵以下のそれも次男以下の男子が、こうしてクラスにまで来て告白しに来るのだった。
特に貴族派の連中にその話が広まっていて、来るのは貴族派ばかりなのだが、時には王政派や中立派まで来て、酷いときには前世のお見合い番組のように、次々に告白していくイベントの様になったりする。
来るやつには毎回俺と婚約しても、子爵になれないことを伝えて帰ってもらうのだが、それを遠回しな断りだとでも思うのか、同じ奴が何度も来たりして、なかなか終わらない。
そもそも俺はこいつらが、誰かもあまりわからないし、何より名前呼びを許して居ないのだから、勝手に名前で呼んでほしくない。
いっそ片っ端から殴っていこうかとも思うが、それをやってしまうと、俺に勝ったら婚約できるとか、変な噂になりそうで、怖くてやってない。
正直言って、現状俺と婚約するメリットなんか、何にもないだけでなく、デメリットしか無いのだが、どうにもわかってもらえないのだ。
スタン子爵家の惨状を、説明してしまいたい気持ちも有るが、それは出来ないので、こうやって毎回説明するだけで、帰ってもらっている。
クラスの他の奴らは、何回もこの状況を見ているから、俺に告白とかはしてこないが、やけに優しくしようとするやつも居て、ただただ疲れる毎日だ。
そんな無駄に疲れる毎日を、時には楽しみながら過ごしていたのだが、厄介事は寂しがり屋らしく、まとまってやってくるものだ。
「おいレレ!俺を無視してんじゃねー」
お昼ごはんを食べて、次の授業に備えて移動していた時、唐突に怒鳴り声が聞こえた。
声の方を向くと、巨大なクマの獣人がこっちに向かってきていた。
「知り合い?」
「うん。兄なんだ」
少し青い顔をしてうつむいてしまっている。
「出来損ないのお前が、俺を無視していい訳ないよなぁ!」
「ごめんなさい、お兄様」
なんかよくない感じだな。
あんまり他の家の事情に関わりたくないのだが。
「まだこんな出来損ない共とつるんでいたのか!こんな奴らではなく、ちゃんとした貴族と付き合えと言っただろ!」
あーそう来たか。
これダメな発言だ。
「お兄様。2人はちゃんとし」
「うるさい!俺の言うことが聞けないのか!言い訳するな!」
何か余計にヒートアップしている。
次の授業も有るし、ここは間に入るとしようか。
「言葉を話す獣とは珍しいですね、どなたのペットなのでしょうか?」
あ、しまった、まちがえた。




