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異世界で、なんか、流されるように生きている  作者: 豚煮豚


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334/334

終わり(結婚式)

 

 綺麗な青空だ。雲はあるけど、どこまでも高く伸びていってる。俺は慣れない正装を着ていた。アヤカが用意したグレーのタキシードを着ていた。こんなんここの風習にないでしょ、着なくても良いじゃん……恥ずかしいし。

 その流れで、カエデさんはウェディングドレスを着る事になった。これもアヤカが用意した、まぁ、これは良いでしょう。

 みんなから少し離れた広場で、一人時間が来るのを待っていた。村の中に簡易的な式場を作っているらしい、はぁ……吐くかもしれん、緊張で。


 式の場所はカエデさんの生まれ故郷。基本的には村のみんなの為の結婚式という事になったので、ここで行われる。おばあさんも近くにいる。なんか、おままごとやってんじゃないかって気持ちにもなってきたが、入り込まないと……俺は新郎だ……そうだ……

 どんな気分だ?

 知ってるじゃん。こんな気分ですよ。

 複雑だな。

 そりゃそうだ。こんな事になるとは……

 嬉しくないのか?

 嬉しくはないよね、結婚したいだけなんだし。

 面白いな。

 ……


 面白いのはルドリーだけでしょ。俺はめちゃくちゃ嫌です、正直、めんどくさいし、恥ずかしいし、吐きそうだし。笑われそうだなぁ、大臣とかに。

 みんなの前に、こんな姿をして出ていくのはちょっとおかしいんじゃないのかな、元の世界の人もそんな事思いながらやってんのかな? どうなんでしょうか?


 ……どんな気持ちで両親は結婚したんだろうな、どんな気持ちで式を挙げたんだろう。今まで忘れてたのに、こんな状況になってようやく親の事を考え出した俺は親不孝ものなんだろうな。まぁ、先に死んでるし、それは否定しようとしても出来ないか。

 世間一般で言われるところの晴れの舞台の直前で、気分が恐ろしいほどに急降下していく。いやだぁ……いやだぁ……死にたい……


「もう準備出来ましたよ」

「あ、アイラ」

「早くしてください。待ってますよ」

「準備って何したの? 野外でやるんでしょ?」

「見たら分かります」


 見たら分かるとはなんだ? とか思いながら、広場から村の方向へと歩いていった。

 森を抜けた先にあった村には白いお花畑が出来ていて、その中央におそらく俺たちが立つ事になるであろう台があった……やめてくれ……あんまり大袈裟なのは恥ずかしいよー。

 おそらくルイスくんが描いたであろう絵も飾られている、それには俺とカエデさんの二人が描かれていた……いつのまに……


「これ、ミリアさまからです」

「ん? あぁ、指輪? 出来たんだね」


 青白い綺麗な宝石が付いた指輪を薬指に差し込もうとすると、アイラが口を開いた。


「あ、まだ付けないでくださいよ、最後にお互いに付け合うので」

「……誰が考えたの?」

「さぁ、スューリさんじゃないですか?」

「マジか……」

「少なくともあの場所を考えたのはあの方です」


 ぜっったい遊んでるじゃん。分かってやってんじゃないの? 俺がこういうの恥ずかしいって。死ぬほど笑われそうだな、ずっと、式で何をするのか知らないけど、やってる間ずっと笑いそう。

 風で白い花びらが空中を舞っていた。綺麗ではあるけど、どう考えても俺には合わない。ただ、あの中にカエデさんが居たら綺麗だろうな、うん。


 指輪をポケットにしまって、みんなの前に出ていく。すると、村の人たちから、もはや野次なんじゃないかってぐらいの祝福の声が飛んできた。


「頑張れよー!」

「よ! アキラ!」

「アキラーー!!」

「幸せにしろよ!」

「カエデを泣かせないでよ!」

「うぉーー!!」


 ただの雄叫びもある中で、お花畑の中に出来た道を進んでいく……恥ずい。

 俺の数少ない知り合いはみんな笑顔で見てくれていた。特に大臣なんて楽しくって、面白くって仕方ないみたいな満面の笑みで俺を見ながら腹を抱えている。はぁーーー、ウザーーー。

 台に乗って、みんなよりも少しだけ高い位置にいると、顔が全部こっち向いてて怖い、あと、眼下の白い花がとにかく綺麗だった。

 空も青いし、本当に俺の結婚式には相応しくないというか、まさか、俺が自殺を考えてたなんて誰も思わないだろうな。


 それからしばらくすると、本当に純白って言葉が相応しいようなウエディングドレスを着たカエデさんが森の中を抜けてここまでやってきた。

 キレイ……ではあるけど、ホントになにこれ? あぁ! 気持ちがよく分からん!! 助けてくれ!!

 歩いているカエデさんの後ろにはアヤカが居た……ニタニタ笑いやがって、このヤロ。


 分かった。俺の知り合いはほとんど面白がってるだけだわ、ウザー、いやだぁ! うぉーー!!

 なんだお前は。

 うるさい! 俺も気持ちも知らないくせに!

 我は知ってるぞ、嬉しいくせしてな。

 いや、俺が嬉しくないって言ってんだから嬉しくないんだよ。そうなんだよ、うん……

 複雑過ぎるぞ。


「カエデー!」

「キレイだぞ!」

「うわぁぁん……カエデちゃーーん」

「幸せにね! カエデちゃん!」


 大号泣している人も居ました。カオスだ、みんな正気を失ってしまっている。てか、仮に、別れるなんて事が、もし仮にそんな事があったら殺されるんじゃねーかな、ないと思いたいけど。

 俺も正気を失いそうな空気の中で、お花畑の道をカエデさんが歩いてくる、なんか泣きそうになるくらい綺麗だな。ウェディングドレスとお花と、まぁ、綺麗なカエデさん。

 ヴェールに白い花びらが付いている。はぁ……なんか死にたい。布に遮られて、ぼんやりとしか表情は見えない。でも、絶対恥ずかしがってるよね? 分かるよ。


「それでは良いですか? 二人とも」

「え? なに?」

「まずは指輪をお互いに付けてあげてください」

「……はい」

「え、はい」


 本当に正しい作法なのか? これは。こんな事あるのか? 実際の結婚式って。

 俺はポケットから宝石の付いた指輪を取り出した。てか、婚約指輪って宝石なくね? 関係ないのかな。不思議に思っていたが、カエデさんの持っている指輪に付いた宝石の色を見て分かった。

 カエデさんの持っている指輪の、深い緑色の宝石は、おそらくエリーの鱗を加工して作った物だ。となると、これはルドリーの鱗?……なんて粋な人なんだ……親方!!


 カエデさんの細い薬指に青白い宝石の付いた指輪を嵌めるとピッタリだった。そういえばサイズも図られたんだっけ、二人で。そして、俺もカエデさんから深緑の宝石が付いた指輪を付けられる。これまたピッタリ。

 怖い怖い怖い……え、怖いよー。

 どうした?

 この後もしかしたらキスする事になるかもしれん。

 それも面白がってか?

 まぁ、どっちかっていうと慣習的に? そういうもんだから。

 もうすぐ終わりだ。もうちょっと頑張れ。

 うん、頑張る。あぁ、恥ずい。


「それではアヤカさん」

「えー、二人とも健やかなる時も病める時も、えー、お互いを愛する事を誓いますか?」


 きたー、誓わないと……えー、誓っちゃったらもうないぞ? 大丈夫か?


「え、あ」


 カエデさんは面食らっちゃって混乱してる。俺も混乱してるが、おそらくカエデさんよりはまだ正気かもしれない。


「あの、はい。誓います、カエデさんは?」

「わ、私も誓います」


 目の前のカエデさんも少し恥ずかしそうにしていた。なんか、あれだな、お互いに考えてる事は似てるっぽいな。


「それでは誓いのキスを!」

「……」

「……」


 お前の言う通りになったな。

 ならないでほしかったかも。

 早くしないともっと恥ずかしくなるぞ。

 確かに。

 死ぬよりは楽じゃないか?

 ……こういう事が嫌で死のうとしたのにねー、不思議ですね。

 ……そうだったのか?

 まぁ、良いや。


 俺はカエデさんに掛かっていたヴェールをめくって、直接目を合わせる。頬は赤かった……えーーー、無理かもしれない、恥ずかしいかもしれない。まぁ、良いか! 頑張れー! 頑張れ! 俺!


 唇をカエデさんに近づけてキスをした。感触とかを確かめるほどの余裕はなかったけど、多分、柔らかかったんじゃないですかね、はい。


 ○○


 大変だった式は終わり。もう夕方だ。

 みんな楽しそうに騒いでいる中、二人でみんなのところから少し離れた。理由は簡単で、カエデさんのおばあさんに……あれ? もしかして俺のおばあさんでもあるのか? まぁ、とにかくサクラさんに会いにくる為だった。


「つ、疲れましたね……」

「そうだね……」


 お互いに消耗し切っている。カエデさんなんて、ここ最近で一番疲れたような顔をしていた。


「まぁ、これからよろしくね」

「よろしくお願いします!」


 そんな事を言い合いながら歩いて、サクラさんのいるお墓に着いた。


「久しぶり、おばあちゃん」

「えーっと、おばあさん、実はカエデさんと結婚する……しました」


 ちゃんと報告したかったが、変なところで詰まってしまった。


「あの、約束はまだ覚えてます。なので、ちゃんとカエデさんを守ります」

「え、そんな約束してたんですか?」

「うん、してた」

「そっか……」


 少しだけ上を見たカエデさんの瞳から涙が流れる。


「分かってたんだ。おばあちゃん……」

「……」

「この村から出ていくって、出て行きたがってたって分かってたんだぁ……」

「……」

「連れてってほしかったんです。友達でも、なんでも良くて、この村から出てみたくて」

「そっか」

「それを知ってんだ……おばあちゃんは」


 カエデさんは涙を拭いてお墓に向き直る。


「ありがとう、おばあちゃん」


 ○○


 もう全部終わったのかもしれないな。カエデさんはまだサクラさんの前にいる。俺は、何故か晴れやかな気持ちでいた。


 ルドリー?

 どうした?

 人間ってさ、死んだとしてもさ、人に想われるのかな?

 かもな。

 イーリカが生きてた事って、みんな忘れないよね?

 忘れないだろうな。

 俺が生きてた事ってみんな忘れないかな。

 忘れないよ。

 ……ルドリー、本当にありがとう。

 良かった。

 イーリカにも、みんなにも感謝しないと。


「ありがとう」

 誰に言ったんだ?

 ん? 親とか?

 そうか。


 今、こうして生きている事が良い事なのか、悪い事なのかは、未だに良く分からなかった。でも、みんなが忘れないでいてくれるなら、誰かを忘れないでいられるなら、産まれて良かったと思える気がした。




お疲れ様でした。ありがとうございます。


感想とかあれば読みたいです。

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― 新着の感想 ―
[一言] 長期連載お疲れ様です。 334話もの大作を書くのは、相当な根気がないとできないと心から思います。 まだ最終話しか開いてないですが、初めから少しずつ読んでいきたいなと思います。
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