299 空が綺麗
流れていく血によってかは分からないが、意識が飛びそうになっていた。とにかく視界もぼんやりしてて、なにがなんだか分からない。
本当に死ぬとはぁ、酷い人だなぁ。
「ははは、ありがとね」
「はぁ……」
「セントラルは僕に任せてよ。なんとかするからさ」
「うぁ……はぁ……」
「……治そっか?」
「……えぇ?」
「傷を治してあげよっか? その代わり、僕が王様を殺した事は言わないでね? ははは」
大臣は俺の傷を治すという提案をしてきた。そうか、冷静になってみれば、俺も魔法を使えば死ななくて済むのか……まぁ、とりあえず痛みとか、あと、苦しいのだけは無くしとこうかな。
生きる死ぬとは関係ない痛みや苦しみをなくしてみる。死ぬなら楽に死にたいしな。
「いや、大丈夫です」
「え? 死んじゃうの?」
「まぁ、はい」
「本気?」
「……まぁ、今のところ」
「そっか」
「はい」
少しは冷静になったと思っていた俺の頭は、まだ冷静じゃなかったみたいだ。何故か死のうとしていた、別に死ななくてもいいのに死のうとしていた。
「魔法の心配ならしなくても良いんだよ? いくらでも解決する方法なんてあるんだからさ? はは」
「例えば?」
「みんなの記憶から魔法を消してみたりとか? 他には、魔法を一定以上使ったら気絶するようにしてみたり?」
「ヤバいですね」
やっと分かった。大臣って別に良い人でも悪い人でもないわ。ただただヤバい人。てか、善悪なんてよく分からないですよね? 正直、大臣の持ってる倫理観でいうと、王様を殺す事は問題なかったんだろうなぁ、とか思っちゃう。
そうなると俺はこの人を責めよう、って思いじゃなくて、なんだか運命に遊ばれてる人って思いになる感じだ。まぁ、俺も遊ばれてるんだけど。
「また新しいドラゴンの声が聴こえてるんだよ。僕にね?」
「え、あの?」
「そう。だから、契約さえすればなんでも出来るようになるんだよ? 見たくない? そんな世界」
「いやぁ、まぁ、俺はこのまま死にます」
「カエデくんの事はどうするの?」
「うーん……まぁ、どうするんですかね」
生きてたら生きてたで、やらないといけない事があまりにも多すぎてめんどくさい。死ねたら楽だ、何にもしなくて良くなるから。
「俺はこのまま死ぬと思います。すみません、気を遣ってもらっちゃって」
「あっははは! 君ってめちゃくちゃ変な人だよね? ははは!」
今までだったらそれを否定してきてたけど、もしかしたら俺ってすげー変なのかもしれない。さっきまであんなに落ち込んでたのに、大臣にお腹を貫かれてからは、すごく気分も晴れやかで、死ぬ事に対して怖いとかもないし、幸せな気がする、わかんないけど。
「ははは。魔法使わないでくれてありがとね? もし、もしも君が帰ってきたら、その時はまたよろしく」
「ははは……よろしくお願いします……」
「じゃあね。アキラくん」
「大臣……あの、スューリさん」
「あっははは! 君って色々考えてるんだね。じゃあ、元気でね」
「げ、元気……大臣こそ元気で……」
「ははは」
笑いながら俺から去っていく大臣を見ていると、意外と何にも考えてないのかもしれないなぁ、と思った。その方が幸せそうだ。
はぁ、どうしよ。死ぬ事も出来るし、魔法で治して生きていく事も出来る。生きていたくはないけど、死にたいわけでもないんだよなぁ。こういう時どうすれば良いんだろか。
ただただ流れていく雲を眺めている。痛くもないし、苦しくもないから、自分がこのまま死んでいくとはあまり思えない。
空が綺麗だなぁ、そんな事を思っていました。