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298 殺し合い

 

 何にも分からないまま空を眺めていると、近くに人がやって来るのが分かった。今は会いたくない人だったが、来てしまったので対応する。面倒。


「ははは。終わったよ?」

「みたいですね」

「これからは手伝ってもらう事も増えると思うからさ? その時はよろしくね? ははは!」

「……」

「イーリカは?」


 分かってて聞いてんのか。


「……大臣はこれからどうするんですか」

「僕? 僕は、とりあえずこの国で偉くなろうかな? まぁ、でもそれは簡単だろうからなぁ」

「……一つ聞いても良いですか?」


 特に証拠とかは無かったが、俺は王様を殺したのは絶対に大臣だと思っていた。本当にただの直感だし、そんな事を知ったところで、俺は何にもしないんだけど、それを問いただそうと思った。もし、そうだったら、この人に着いていく事はもう辞める。まぁ、この国を出ていく事になるのかな、さっきの話を聞く限り。


「王様を殺したのって大臣ですか?」

「うん、そうだよ? ははは!」

「……じゃあ、まぁ、俺は行きます」

「どこへ?」

「さぁ」

「あの子はどうするの?」

「……」

「どうでも良いけどさ。どうして分かったか教えてくれない?」

「……」

「勘?」

「……」

「ぽいね。あっははは!」


 殺してしまいたいほどウザいけど、そんな事をしたらこの人と同じになっちゃうから、この場から去りたいんだけど、カエデさんの事を考えると、やっぱりこの国に居ないといけないという思いが湧いてくる。正直、どうしたら良いのかわからない。


「あの人は僕が創った人間なんだよ。街の外から来た事になってたけど、実は僕が外から来るようにしてたの」

「……」

「壊滅した村があったみたいだったからさ。そこの生き残りって記憶を植え付けてさ、憎んでる記憶も一緒に植え付けてみて。で、そうしたら本当に殺しちゃった」

「……」

「不思議だよね、人間って。殺してくれたらラッキーぐらいに思ってたんだけど、行動に移してくれた。バレないようにセントラルの外で創って良かったね。はは」

「……」

「横になりながらでも出来たんだよ? 魔法ってホントに凄いよね」

「……」

「そもそも、王族の血が繋がってない証拠として見つけた物は僕が作った物なんだよ。知ってた?」

「……」

「まぁ、血が繋がってないのは事実だと思うよ? だから、あんなに簡単に王様をやめたんだろうね。ははは」


 こんなに酷い人だとは思ってなかった。まぁ、勝手に俺が期待してただけで、こんな事をしても全くおかしくないような人だった事はずっと分かってたはずなんだけどなぁ、何でこんな人を信じちゃってたんだろ。


「僕の事殺したくなってきたんじゃないの? はは」

「はい……」

「なら殺してよ。ほら」


 そう言って大臣は俺の目の前に魔法で剣を作り出した。意味が分からないし、俺はこの場から立ち去ろうとした。


「置いてくんだね? ははは!」

「……」

「ははは! まぁ、正直に言うよ? 僕は君と殺し合いたくなってきちゃった。それが『やりたい事』になっちゃった」

「……」

「なんでだろうね? ははは!」


 俺がこの場から立ち去ってしまうよりも、大臣に殺されたという方が、カエデさん的には納得出来るのかもしれないなぁ、と思った。

 セントラルから出ていくのは俺のわがままだし、だからと言ってここで暮らしていく事は出来ないけど、大臣に俺が殺されたとなったら、みんなが納得するだろうし、俺も生きていく事を辞められるだろうし、それで良いと思う。

 どうせ、本当に俺を殺したいと思ってるわけじゃないんだろうけど、殺してくれるなら殺されようかな。なんだか自分の思考の視野の狭まっていくのを感じていたが、でも、これはこれで別に良いんじゃないか、という気もしてきた。


「……」

「死にたくないなら戦おうよ。ね」


 大臣は自分の分の剣も作り出した。これで二つある。どうして戦わないといけないのかは、分からなかったが、殺したい気持ちはちょっとあったので、その結果として殺されたとしても良いかと思えてきたので、そうする事にした。


「魔法はナシね」


 無気力な自分を奮い立たせて、なんとか剣を握る。なんだかんだ、こうしてみるとやる気が出てくるというか、ちょうど憂さ晴らしがしたかった気分なので、こういうのも良いのかもしれない。

 大臣がお遊びで俺に剣を振り下ろしてきた。それをしっかり意識しながら受け止める。やっぱり、大臣は俺の事が殺したいわけじゃないような気がした。

 俺も大臣が受け止められる程度のスピードで、腹部に横薙ぎをした。が、やっぱり受け止めた。


 お互いに本気じゃない事が分かった、俺もそのつもりで、これは最後までお遊びで終わるんだろうな、と思っていたが、不意に大臣が俺の右腕に深い切り傷を作った。赤い血が沢山出てきて、今までの鬱っぽい気分が飛んで、血の気がドンドンひいて、正気に戻っていくのを感じた。マジでなにしてんだろ?


「ははは。大丈夫?」


 痛みで頭が冴えてきていたが、大臣は俺に剣を振り下ろしてくるのをやめないので、受け止め続けるしかなかった……はぁ……ツラい、いたい。

 剣の衝撃が、傷を作った右腕に響く。その度に冷静になってくる。冷静な頭で考えた結果、本気で殺しにきてるんだと分かった。……ちょっと、一回、大臣にも冷静になってもらおう。

 俺がやられたように、腕や脚などを切りつけようと、思いっきり降り切ってみたが、全て受け止められてしまった。純粋に戦いの技術が俺よりも高いせいで、このままだと殺されると思った。

 とにかく力の差がありすぎて、勝負にならない感じがある。もう息も上がっているし、腕も震えてきてしまっているし、血が流れっぱなしのせいか意識もぼんやり。


「もう無理そうだね」

「はぁ……はぁ……」

「そりゃそうだよ。僕って意外と努力家だからさ」

「はぁ……」

「努力家だからムカつくんだよね。たまにさ? ははは」


 大臣は剣を両手で構えた。その刃先は俺に向いていて、おそらく突いてくるんだろうな、と分かった。分かったので、避けようと刃先から自分の身体をズラそうしてみたが、それは気付いたらお腹を貫いていた。

 痛くて、熱くて……死んだ時の事を思い出した。


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