277 常識とは?
ふぅ、みたいな感じで袋をテーブルに置く。地味に疲れた。この後は鍛冶屋に行くって予定があるんだけど、その前に座りながらルドリーと話そう、さっき恥ずかしくて出来なかったから。
「あー、ルドリー?」
(なんだ?)
「お、久しぶり」
(さっきも話しかけようとしてたな、何かあったか?)
「いやいや、全然話してなかったから久しぶりに話したいなって。そんな感じ」
(そうか。じゃあ、もういいな)
「いや、良くない良くない。せっかくなんだから、もっと話そうよ」
(話すことなんてないんだろう? だから、話していなかった訳だしな)
「確かに……」
話すことがなかったから話してなかったのは間違いないな、だって話すことあったら話すし。
冷たい対応をされながら、なんとか話題を探してみようとした。なんかあったかなぁ。
「うーん、逆にルドリーはなんで話しかけてこなかったの? 同じ?」
(そうだな。話す必要がなかっただけだ)
「契約の話とかすれば良いじゃん。そうでもない?」
(もう十分話した。これ以上はお前達の問題だ)
「なるほど……なるほどねぇ」
(もう終わりか?)
「うーん……ルドリーは、どうやったら魔法って抑えられると思う?」
話すことないので、最近で一番大きな悩みを話題に挙げてみる。頭良いしなんかアイディアあるでしょ? 知らないけど。
(賢者にでも聞いてみればどうだ?)
「確かに……でも、会えないしなぁ」
(どうだろうな。会いたくないだけだろ)
「いや、そんな事は……ありそう。会いたくないだけかもしれない」
(賢者に聞けばこんな問題すぐに解決するぞ。答えをくれるからな)
「まぁ、実際に大臣も故郷見つけたしね。それは間違いないんだけどさ」
聞きに行ってみようかなぁ。でも、今度はどんな事言われるか分からないし、出来れば自分達で解決したいんだけどなぁ。無理そうだったら聞きにいく、そんぐらいで良いかな。そんぐらいの軽い気持ちでいこう。
「まぁ、考えとく」
(そうか)
「うん……もう鍛冶屋行こうかな、十分休んだし」
(……)
「あれ?」
(……)
切り替えが早い。まだもうちょい話す気持ちはあったのに、向こうはもうすでに会話が終わったと思っている。余韻みたいなのがあっても良いんじゃないですか? みたいな。
しょうがないので、鍛冶屋に出かける事にした。まぁ、地図にも鍛冶屋って丁寧に書かれてるし、そこに行けばいいだろう。
着いた鍛冶屋はどこか見覚えがあるような、ないような。親方の鍛冶屋にどことなく似ていた。鍛冶屋とは大概こういうものなのかもしれないけど、懐かしさを感じる。
店の扉を開けて、中に入っていくと、その懐かしさの理由が分かった。
「あ、ルイスくん?」
「ああ! お久しぶりです!」
「久しぶりー。鍛冶屋さん、続けてくれてたんだね」
「もちろんですよ! だって託された訳じゃないですか」
「親方も喜ぶと思うよ。うん」
「あ、そういえば親方さんってどこに? もう帰って来られたんですよね?」
「あ、親方はまだ帰ってきてない」
「……そうなんですね……残念です……はぁ……」
そんなに落ち込まないでも……とか思ってみたけど、気持ちは分からんでもない。親方に惹かれる気持ちはすげーわかる、なんかカリスマ性あると思う。
あぁ、親方に会いたい、そんな気持ちが俺にまで伝染してきてしまった。うん。
「親方は鍛冶の国で頑張ってるっぽいから、中々帰ってこないかもしれない」
「え? そんな国あったんですか?」
「うん。そういえばさ? ルイスくんってまだ絵描いてたりするの?」
「……」
「あ、あの? ルイスくん?」
「……」
え、まさかここで会話終わった? ルイスくんも切り替えが早いタイプか? それにしても、切り替えが早すぎるような、そういう問題じゃないような。
思い悩み始めたルイスくんを目の前にして、どうすれば良いのか分からなくなっていると、いきなり俺の目をじっくり見てきた。お目目がデカイ。
「行きたいです! その国に」
「え!? マジで?」
「はい! 教えてくれませんか? その場所を」
「あぁ、良いけど。え、ホントに行くの? 一人で?」
「はい!」
「なるほどね。あの、説明すると……」
こういう人ばっかり、俺の周りって。
もう慣れたので、鍛冶の国の場所をルイスくんに教えようとしたが、どうせ俺も行く事になるだろうなと思ったのと、さっき会いたくなったので俺も行く事にした。カエデさん、ごめん。
「説明すると?」
「面倒くさいし俺も行こうかな。久しぶりに会いたいし」
「え? 本気ですか?」
「え? まぁ、うん」
「良いんですよ? そんな、わざわざ」
「いやいや、会いたいなぁって」
「なるほど。それならよろしくお願いします!」
「うん、よろしく。あ、でも、もしかしたら一緒には行けないかも? その時はごめんね」
「いや、全然構わないですよ? はい」
俺も行くって言った時、ちょっとだけ引いてなかった? なんか一瞬引かれた気がしたけど、気のせいだよね? だって、俺がルイスくんに引くなら分かるけど、いや、どっちもおかしいのか?
何が常識なんだ。というような考えにまで至りそうになったので、思考を停止する。ふぅ、危なかったぁ。