275 慣れない帰宅
お城の中に顔パスで入っていく。どうも、関係者です。
手は、ハヤトの部屋に入る直前まで繋いでいた。ノックした時、自然に離れた手は、カエデさんも俺と同じような事を考えてるんだ、という勘違いみたいな思いを浮かび上がらせた。
「あ、アキラくん? 二人とも帰ってきたんだ」
「うん、連絡しとけば良かったね。ごめん」
「いや、ありがたいよ。最近頭の中がおかしくなりそうでさ」
「なんかあったの?」
「まぁ、部屋の中で話そう?」
扉を閉めて、部屋の中に入る。エラさんはここには居なかったが、なんとなく部屋全体がハヤトだけの趣味で出来上がってる訳ではない感、というのを読み取ってしまった。どんな感じだって感じだけども……
「テレパシーってさ、いつでも話せるでしょ? 僕もう、気が休まる瞬間がなくてね」
「あぁ、そっか」
「偉い立場になったら大変だよ。本当に……だって、今も誰かが話しかけてきてるしね。待ってて」
そう言って、ハヤトはもう一つの部屋へと消えていった。大変そうだなぁ……やっぱりハヤトの仕事手伝うのやめようかな? 『ドラゴン狩りがあって良かったぁー』、と思う気持ちと、『少しは手伝いたいなぁー』、と思う気持ちが半々……いや、七対三くらいであった。ドラゴン狩りがあって良かったという気持ちが勝ってた。この薄情者!
しばらく部屋の様子を見ながら待つ。明らかにエラさんのじゃんっていう布が沢山かかっていたし、部屋全体がカラフルな色使いになっていた。あぁ、温泉に入りたくなる、向こうの国を思い出す。
雑貨とかも簡単に手に入るようになったし、輸入とかしてんのかな? まぁ、輸入っていうほど大したもんじゃないのかもしれないけども。
「お待たせ。ごめんね」
「あぁ、全然。忙しいんだね」
「うん、で、今日は何かあったの?」
「あ、二つ良い? 一個は俺たちの家の事なんだけど……」
「それなら、地図を渡せば良いかな? 場所はちょっと変わっちゃったけど、一応家は再現してる……もし外観とかを変えたいなら自分達でよろしくね」
「あぁ、ありがとう……で、もう一つなんだけどさ、これは、単なる相談なんだけど……」
「なに?」
「魔法を抑えるような方法ないかなぁ……て思わない? なんか、相談しときたいなぁって」
「なるほどね」
やっぱりこれは必要だと思う。今のハヤトは魔法のせいで忙しくなってる側面も沢山あるだろうし、もう十分街も大きくなっただろうし、もう良くない?
「僕たちもその事について話し始めてるんだけど、一回始めたコレを辞めさせる方法なんて思いつかないんだよ。これだけ街が広がったのに、まだ色々と要望が来るし……勝手に家を建てる人とかもいるんだよ、そうなると、隣人、近隣の人たちからなんとかしてくれって意見もあるし……それに、なによりも魔法ってなんでも出来るから、日々アイディアが思いついちゃってさ……限界かもしれない」
……思ったよりも大変なことになってるみたいだ。ハヤトは自分一人の世界に入ったみたいに沢山喋った。それなのにまだ喋り足りないような気配も感じる。
「あ、あの、まぁ、なんだっけ、向こうの国にさ、ハリォードさんって人が居て……その人も色々考えてるみたいだから、良かったら話を聞いてみたら?」
「そう? メモっとくよ。ハリォードさん?」
「うん、ハリォードさん」
なんか、押し付けちゃったけど良いのかな? でも、ハリォードさんもその事について悩んでたし、別に相談するくらいなら負担にもならなそうだし、良いよね? 良くわかんないけど。そもそも、ハヤトがこの問題に着手しようとしてるなんて思ってなかったから、変なリアクションしちゃったな。
やっぱりちゃんとした人ってちゃんと考えてるんですね。俺だけが知ってる良いアイディアだと思ってたんだけど、全然そんな事なかった。
「それじゃあ、まぁ、今日はもう帰ろうかな。ハヤトもあんまり頑張りすぎないように……」
「はは。僕もそうしたいね。まぁ、バイバイ、アキラくん、カエデさん」
「バイバイ……」
名残惜しい気持ちで部屋から出ていく。家の場所を知るって目的は果たせたから良いんだけど、まぁ、普通に話したかったな、ハヤトと。
忙しそうなんでしょうがないですけど、そんな事を思いつつ自分の家までのルートをカエデさんと一緒に歩いていた。
「ここかな?」
「そうみたいですね? 見た目も、なんだか懐かしい感じで……」
「そうだね。ちょっと忘れちゃってたけど、こんな感じだったような……」
地図の目的地に着いた。そこには懐かしいんだか、懐かしくないんだか良くわからない自分の家がある。その要因として挙げられるのは、川が無くなってること、ご近所さんがいるっぽいこと、その他諸々感覚的なもの。
お隣さんに挨拶とかした方が良いのかな? 前は人気のないような場所だったけど、変わってしまった。
……どっちにしろ明日でいいか、そもそも、ここに住み続けるかどうかも分からないんだし。
「まぁ、とりあえず入ってみようか」
「そうですね! 入ってみましょう?」
時間的にも、今日はこのまま寝て終わりかな。いや、その前にご飯食べないと……まぁ、そんな感じだろう。
家の中にはベッドぐらいしか置いてなかった。流石に内観は再現されてないみたいだ。
帰宅っていう事になるんだろうけど、安心するような気持ちにはならなかった。慣れるだろうけどさ。