某日にて作戦決行
「それぞれ配置には付いたか? 」
最上の渋い声が無線機から流れる。
「こちら狙撃班、所定の位置にて待機中、どうぞ」
四条は朝から相模の狙撃の準備に付き合ってたからなのか、あくびをしながら答える。
「四条ごめんね、朝から付き合わせて」
「別に仕事だし、その辺は気にしなくていいわよ」
日が沈む瞬間を見ながら遠目で言う。
「ところで何食べてるの? 」
相模は四条が口の動きの訳を聞く。
「アンパンよ、それと牛乳」
携帯用の椅子の下から取り出したのはアンパンのかけらと、牛乳パック。
「それ張り込みしてる刑事意識してる? 」
細目で四条を見て、尋ねる。
「べ、別にそう言うのじゃないから、普通にアンパンと牛乳の相性がいいだけよ」
少し恥ずかしそうな表情を浮かべる少女は、アンパン頬張り詰まらせながらも一気に食す。
それ以上言及しなかった相模はスコープの調整を始めていた。
「そういえば、あんたってなんでそんなに狙撃能力が高いの? 」
すっかり辺りは暗くなり、街灯とビルの明かりで灯されていた。
「才能……かな、別に欲しくはなかったけどね」
「あんた謙遜もなく、よく言えるわね」
飲み残していた牛乳を音を立てながら飲み干す。
「でもその代償を背負ってる 」
その言葉に四条は少し言葉を詰まらせていた。
「じゃなんでこの仕事してるの? 」
深刻そうな表情を浮かべ、顔を覗き込むように尋ねる。
「四条……仕事始める時の掟忘れたの? 」
彼は乾いた唇を舐めた。
「互いの過去の不干渉だっけ? ……別に教えてくれてもいいじゃない」
最後の方は話すと言うより独り言に近いものであった。
「じゃ逆に四条はなんでこの仕事始めたの? 」
「簡単よ、最上さんの恩返しよ」
双眼鏡でターゲットと見られる姿を視認する。
「じゃ俺もそんな感じ」
四条はほくそ笑んで、無線機を手を取った。
「ターゲットを確認できました、時間通りの到着のようです」
腕時計を見て四条が報告する。
「随分と豪華な船ね」
フェリーとまではいかない大きさだが、デッキにはプールの設備があり高級であるのは間違いない。
「今回は大丈夫そう? 」
心配そうに四条はスコープを覗くスナイパーに声をかける。
「今は大丈夫そう……とりあえず気持ちを落ちつかせる」
少しばかり呼吸の乱れがあるが、四条は何かするわけでもなく、椅子に横にあった黒いスーツケースから拳銃を取り出していた。
ずっしりとした銀色のデザートイーグルは彼女の相棒であった。
マガジンの装填と安全装置を外し準備を完了させる。
夜風が相模の頬を触る。
「この時間が……また来たか」
深呼吸する音が微かに聞こえる。
「ターゲット捕捉」
彼は右目でレンズを通し、船から降りるギルを発見し、無線機に報告を入れた。
相模はターゲットに向けて、レテイクルを合わせる。
「風は木の動きから……北西方向」
スコープのつまみを捻る。
「風速とかも全部マニュアルで計算するとか化け物のね」
四条は拳銃を布で拭きながら声をかけるが、相模の耳には届いていないようだった。
「狙撃許可を……」
相模は無線機越しに命令を待つ。
「狙撃許可を降ろす」
最上の乾いた声が雑音混じりに聞こえた。
相模は引き金に手を当てた。




