某日の作戦会議
「相模、聞いてるのか? 」
その言葉に相模は空返事をする。
「今作戦はお前含め誰か一人でも欠けたら、成り立たないのはわかってるだろ」
背広で固めたサングラスをかけた男が相模に言いよる。
「すみません……」
いたずらをして叱られる子供のように縮こまる。
「最上さん、それほどに……」
一歩後ろに立っている女秘書、小久保が仲裁に入った。
最上は渋い顔をして机に広げられた地図に目を移す。
「今回の作戦だが……」
最上は地図にびっしりと書かれた赤い文字を一つ一つ指差し、説明を始めようとした。
部屋には最上、相模、小久保以外にもう三人いた。
「私は取り敢えず適当に突入ってことでいいんでしょ? 」
話もろくに聞かないのは、戦闘要員の四条。
可憐な少女ではあるが、運動神経含め対人戦闘では群を抜いてる。
「先輩、テキトー過ぎます」
嘲笑するのは四条の後輩、川浦。
彼女は四条とは違い運動神経は悪く、雑務の担当だ。
「何よあんた生意気ね」
川浦の頭を持ち前の力でグリグリと痛みつける。
「まぁまぁしーちゃんその辺にしてあげて、やめときなって」
泣きながら抵抗している川浦を助け、四条をなだすのはタバコを咥えている男、東郷。
30代くらいの中年であり、最上と同い年。
チャームポイントはあご周りの青い髭と自称してる。
「東郷さん、止めないでください。 これは教育ですから」
再度教育と言う名の報復をしようとするが、ここで最上の咳払いが部屋中に響きわった。
「ほら、やめときなって言ったのに……」
最上の顔は鬼の形相で椅子に座ってる。
「ごめんなさい……」
蛇に睨まれらカエルになった四条は、小さく頭を下げる。
それに対して最上は大きなため息をついた。
「作戦の続きだが、四条は相模の側につけ」
「わかりま……ってなんで?またじゃん」
敬礼して満面の笑みが一転、驚きの余り大きな声を出す四条。
「あのですね……あなたの勝手な行動が命取りなんですよ」
呆れたような表情を浮かべ、小久保が口を開いた。
「……だけど、まだ一回も」
「しーちゃんまだ若いんだから落ち込むことないよ」
東郷が四条の肩に手を置き、優しい言葉をかける。
「東郷さんが言うなら……」
四条は諦めがついたのか、承諾する。
「この女狐……」
小さく小久保が吐露する。
「小久保」
最上の言葉に恥ずかしそうに口に手を当てた。
「四条それにな、狙撃手には必ず誰か横に補佐が必要だ。それに相模の事情も知ってるだろ?」
最上は真剣な眼差しで四条に語りかけた。
「それりゃ何回も補佐役やってるから知ってるわよ。取り敢えずやればいいんでしょ」
不服そうな顔で中身の伴っていない返事を返す。
「最上はポイントは送っといたから確認すること……今回も発作が起きそうか? 」
「恐らく……」
深刻そうな表情を浮かべる両者。
「まぁ先輩お気を落とさず、狙撃は一級品ものですし」
川浦は相模の肩に手を置く東郷の真似をし、慰める。
東郷はその川浦の再現度の高さに思わず笑いがこぼれてしまっていた。
「善処はしますけど、毎度迷惑おかけしましてすみません」
「謝る必要はないですよ、全くこんな礼儀正しいのを誰かさんにも見習って欲しいですね」
小久保は四条に目を向けて、嫌味ったらしい表情を彼女に見せつける。
「礼儀正しいんじゃなくて、ただの弱腰なだけよ」
それに対峙して睨み返す。
「お前たちはいちいち喧嘩しないと気が済まないのか」
最上は怒りを通り越して呆れた顔で言う。
「最上、俺は何すればいい? 」
後ろでの喧嘩を無視して東郷が尋ねる。
「そうだな……毎回悪いがバックアップお願いしていいか? こいつらだけだと心配だしな」
「りょーかい」
軽い返事で答える彼だが戦闘含めこの仕事においては優秀である。
「小久保、報告会お願い」
合図と共に四条との喧嘩を取りやめ、自分の職務へ戻った。
「はい、今回のターゲットはギル・ゲーンズボロ。貿易商」
机にターゲットと思しき人の街で撮られたような写真が複数置かれた。
「わっるそうな顔ね」
四条は一枚一枚手に取りながら顔を視認する。
「表向きは個人貿易商、裏では麻薬の取引を始め臓器売買に手を染めている報告が上がっています」
「へぇ私こう言う男性好みなんですよね」
川浦はうっとりしたような表情で一枚の写真を見る。
「へーじゃ俺みたいな男ってこと?」
大きな笑いと共に小さな少女の持っていた写真を奪う。
「東郷さんも素敵な方ですけど……なんか違います」
澄んだ満面の笑顔で答える。
「えぇ、それ結構心にくるなぁ」
東郷は悲しそうに持っていた写真を机に戻す。
小久保は咳払いをし、報告会の続きを話した。
「明日の19:00に横浜港に到着し、21:00からの会食と言う建前の裏オークションに参加する模様」
「因みにクライアントの意向は変わらずか? 」
「変わったと言う話は聞いてません」
「わかった」
渋い顔の最上は手を口の前に組んだ。
「ボディーガード含め、諜報員の数は不明」
「厄介だな」
「すみません、情報不足で……」
「構わん、いつものことだ」
嬉しそうな顔で小久保は持っているコルクボードを抱きしめる。
「気持ち悪っ」
四条は小言を言う。
「何か言いましたか? 」
笑顔での小久保であったが目は死んでいる。
「なんでもありませーん」
てきとうな返事をして、そっぽを向く。
「っと一応今入ってる情報はこれで以上です。また入り次第報告します」
最上のため息の前に小久保が大人の対応し、報告会を終わらせた。
「ご苦労さん」
少し疲れた感じに最上は言う。
「何か質問あるか? 」
最上は一通りの説明を終え、一息ついた後に皆に尋ねた。
「四条なんだ? 」
手を挙げる四条に皆の視線が集まった。
「この使えないスナイパーが外したらどうすればいい? 」
強引に相模の襟を掴みながら嫌そうに言う。
「相模……外すことがあるか? 」
最上はまっすぐ襟を掴まれてる相模を見つめる。
「外すことはないと……思います」
「と言うことだ、それでいいか」
四条に目をやる。
「って良い訳ないじゃない。前回だってなんだかんだ……」
「しーちゃん、俺がなんとかするから心配しないで、自分の仕事だけ専念して」
東郷の頼もしい発言に四条は口籠もり、それ以上は言わなかった。
「東郷、毎回悪いな。お前いなきゃやってけないわ」
「大げさな」
彼の大きな体全体で笑う、おおらかな態度はこの場を明るくした。
「と言うことで明日の20:00から今作戦開始だ、いいか」
最上は皆の顔を見渡し、返事を促した。
部屋には男女が混合した、はい、の声が反響する。
「よし、解散」
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