掃除
もういつぶりかわからないくらいお久しぶりです。
読んでくださっている方にはほんっっとに申し訳ないm(_ _)mです。
イケおじが恋する乙女にドン引きするだけの回ですが、どうぞ。
フィエールは部屋を出てため息をついた。当然馬鹿弟子に対してのである。それから先程主人の言った「手際がいいね」という言葉を頭の中で繰り返した。
殿下の部屋の護衛はいる。馬鹿とは言え相当仕込んではある。今自分が席を外したところで問題はないだろう。
より厄介な問題に対処すべく、フィエールは歩き出した。
「あの女はどこの手先か」
廊下を曲がり、さらに考える。
そもそもなんの為なのか。
殿下の使用なさったリネンを手に入れたい理由に全く心当たりが無い訳では無い。
「今どき珍しい、カビの生えた魔術を使おうとしているのか」
体の一部を使った魔術は少なくない。
それは呪いであったり、ただの呪い程度の治癒魔術であったり、良いものから悪いものまで効果は幅広い。太古の昔から使い古された暗殺法であり、不確実で、効果の限定が難しい使い勝手の悪い代物だ。
魔法が広まっている現在そんなものを使おうとする輩がいた事に、純粋な驚きを禁じ得ない。
洗濯室に到着しノックもせずにドアを開けると、先程リネンを取り替えに来た女がピンセットで丹念に採取をしているところだった。
なんだ。意外にあっけない。
持ち出しさえしないとは計画性の欠片も見せて欲しいというものだ。こちらを舐め切っているのか、或いは。
「何をしている」
「っ!」
女は振り返って目を見開いた。
「妙な真似はしない方がいい。簡潔に言え。誰の差し金だ。」
フィエールが静かに尋ねると、女は観念したのか突然ひれ伏した。
「ももも申し訳ございませんっっ!!ほんの
出来心だったのです!!もうしません!!本当に申し訳ありません!!」
「それで何をするつもりだった?」
「…ぐぁ、そ、それは…っ」
「ん?よく聞こえなかった」
「……メイドの間で、その、流行っておりまして…」
「何がだ」
「……す、好きな相手の、髪の毛を、香水に入れて、た、楽しむ、と言いますか、願掛け、みたいな……」
「……はああぁぁぁ」
「ずみまぜんんんん頼まれたのでついいいいいい」
カビが生えていたのはウチのメイドたちだったようだ。どうしてそんなことになっているのか、男として、なんと言うか、聞きたくない。
「頼まれても、もう受けるな。馬鹿者。王族への不敬罪と取られかねない。
「はいっもうしませんっ」
「はぁ、全く。杞憂で良かった。」
まあそれはいい。
「…そんなに出会いがないのか」
「はい!」
「…まあ、なんだ。頑張れ。」
「やめてくださいなんか逆にズタズタになりましたシュライデン様!!」
女は顔をおおって叫んだ。
すまん。メイドの婚活まで手を回してやれるほど暇ではない。
***
メイドは肩を落としてとぼとぼ待ち合わせ場所へ向かった。
簡単な仕事の割にごっそり精神力を削られてしまった。主に前チーフのおかげで。
「どうだった?」
「ごめんねぇ。チーフに見つかっちゃって。怒られちゃった。」
「だめだったかー。ごめんね、ありがとう。」
「ううん、わたしも欲しかったんだよねぇ。って、誰も聞いてないよね!?」
メイドは慌てて周囲を見回してほっとする。
「まずいまずい、不敬罪になる」
「え、これだけで?」
「暴走する乙女は時に変態になるからね、わたしたちは今正常な判断が出来ないことを前提に話した方がいいのよ」
「そ、そうなの?」
「ええ、恋する女に憧れる男は、まだ女を知らないわ」
「へ、へぇ」
「引いてるでしょ?」
「そ、そんなことない…」
仕事に戻ったメイドに手を振って、メイド、もといメイドに扮する少年は、女の子への少しの憧れをぶち壊されたような気がして、呆然とした。
「女の子って…怖いなぁ」




