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ソルテの暴走

ソルテさん目線の回です。いろんな人目線のキルヴィを書きたいなと思ってます。

ソルテは扉の前でごくりと唾を呑んだ。


コンコン


拳を打ち付けると小気味よい音がした。だがそれを楽しめるほどの余裕は彼にはない。

扉の内に立つ使用人が反応した。

「はい。」

「ソルテだ。殿下にお目通り願いたく参上した。」

「しばしお待ちを。」

心臓の音がやけにうるさい数秒の後、扉は内側に吸い込まれ磨き上げられた床と品の良い品々の置かれた部屋が現れる。ソルテは跪き、その部屋の主に挨拶申し上げた。

「護衛部隊隊長、ソルテ・キシュワートにございます。」

「ごきげんようキシュワート殿」

彼の敬愛してやまない主の第一子、ガヴィネル王国皇太子キルヴィ・エルフォレストが控えめな笑みを口に浮かべ客を歓迎した。

「どうされましたか」

殿下はどのような身分であろうと丁寧な口調で接する。それが畏れ多くて堪らない。

今まで限られた人々の間で過ごされていたせいか、笑顔ながら一種威圧のようなものを発し人を寄せ付けない。

「パーティーの折は、敵の侵入を許したばかりか参上がおくれまして申し訳ありませんでした。如何なる処分も謹んでお受け致す所存であります。」

アレクセイが笑っている。口元に僅かに、だが。


眉をピクリとも動かさなかった頃に比べればかなりの変化と言えた。殿下の影響であるならば、それはすごいことで、そうないことだと思う。それだけ主人を信頼し尊敬している表れで、護衛の鑑と言えるだろう。殿下もアレクセイには心を開いて接しておられる。うらやましい限りだ。


ソルテの言葉に、殿下は真剣な表情で少し眉を下げ、

「申し訳ないことでした。私の身勝手でお気を遣わせてしまって。」

悲しそうにそう口にした。

それが、ソルテの純粋すぎる忠誠心に火をつけた。

「殿下に応戦していただいたばかりかそのようなことを口にさせてしまうなんてっ…!ソルテ一生の不覚、命をもって償わせていただきたく!」

「え、」

「どうぞご命令を!」

「そんな、別に」

「短剣ならばここに!」

「いや、そこまでしな」

「なにとぞ!」

我を忘れたソルテの声にアレクセイの冷静な声が続いた。

「殿下、恐れながら申し上げます。発言のご許可を。」

殿下の許可が下り、アレクセイが疲れたようにソルテを見下ろした。

「ソルテ、殿下のお言葉に被せるな。困っておられる。」

「な、なんてことを…」

「早まるな落ち着け、ナイフを下ろせ。そうだ。で、お前は殿下に罰を下して欲しいとここへ来たんだよな。なぜ自分で決める。」

「そ、れは」

「独りよがりも甚だしい。殿下の仰せに耳を傾けろ。以上だ。」

殿下に感謝を述べそばに戻ったアレクセイの瞳はおかしそうで、申し訳なさ、恥ずかしさで顔から火を噴けそうだった。

「た、度重なる非礼、お許しください。」

「気にしてない。罰とかいいから。」

急に砕けた口調になったと驚いて顔を上げ、そういえば言われていなかったと慌てて伏せる。

「お…え、本当に言うのそれ?なんか」

「習慣のようなものとお考え下さい。お気になさるようなことでは。」

「そう?」

「はい。」

何か、秘密の会議を終えた殿下が一度軽く咳ばらいをし、

「面を上げよ」

強張った、しかしながら威厳あふれる堂々たる声でそう仰った。

ソルテの忠誠本能が著しく刺激され、びりびりと全身の毛が逆立つ。

「はっ。」

上体を起こすと深緑の瞳と合い平伏したくなる。理性で抑え目をそらさずに不動の態勢をつくる。

「キシュワート殿、あなたの無礼は私にとっては微々たるもの。ですが得心ゆかぬと仰るのであれば、そうですね……素振り千回を課します。それで構いませんか?」

華奢な体から放たれるこの空気は一体何なのか。

圧倒されながらもソルテは「拝命致しました。」と、抑えていた衝動をこれでもかと解放し深々と礼をした。

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