祈り
それは記憶というより刻まれてきた感情と呼ぶのが相応しい。
少女の中はやるせなさであふれていた。
母に愛されたかった
父に護られたかった
家族を助けたかった
まだ、死にたくなかった―――――――
少女に課された任務。
《ガヴィネル王国皇太子を暗殺し、王国側に捕らえられること。またはアーデル・ヘイダル第二王子ヘサームに殺されること》
任務の遂行に彼女の生き残る道は無かった。捨て駒だから仕方がない、そう腹をくくって仲間に未来をつなげるためここへ来た。彼女の成功に仲間の存在価値がかかっているから。
この青年に殺された場合、任務は成功だろうか。失敗だろうか。
「失敗、だろうな」
主が望んだことではないから、満足してはもらえないのだろう。
「ああ、もう。やんなっちゃうな。」
帰って来ないのか、と言った少年の顔がちらついて仕方ない。無関心を装った無表情なのに悲しんでいるのが痛いほど伝わって来た。覚悟が一瞬揺らぐほどに。
「あたしは帰りたいよ、帰りたかったんだ。ターヘル」
ぽろっ、としずくが頬を伝った。
少女にはそれが何だかわからなかったが、ひどく温かいと感じた。
「じゃあ、帰って来いよサルマー」
左から、胸が潰れそうに大好きな人の声がした。
幻聴でも嬉しかった。
「サルマー」
「サルマー!!」
「さーるまーっ」
「サルマー!?泣いてんの!?」
仲間の、皆の声が名前を呼んでくれる。
あんなに憎かったのに。主をいつか同じ目に合わせてやろうと思ってたのに。
なんかもう、いいや。
「ふふっ」
笑えなかったのが嘘みたいに笑えて抑えられない。
「おいターヘル。もっかい呼んでやれ」
「おーい、サルマー?何幸せそうに笑ってんの?任務中だぞ。ってか笑えたのなお前。さっさとずらかるぞ。ここの騎士どもはおっかねえ」
目を開く。
「ターヘル」
いた。幻聴じゃなかった。
窓の桟に器用に足を乗せしゃがんでこちらを見ていた。後ろには仲間の姿もある。
「行ってください。君を待っていたんだから」
ガヴィネルの王子がにこやかにそう言った。
じっと見つめていると頷かれた。
あたしはターヘルに抱き着いて、
「遅いよ、馬鹿」
と言った。
嗚咽で声なんて出なかったけれどターヘルは驚いた顔で、
「悪かった、な」
と返してくれた。




