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ディスエイトの神剣 読み切り版  作者: 和島大和
第三章 【初任務 二国へ捧げし救いの腕(かいな)】
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第四十六節「デルトリアvsデルトリア 後編」

 肺が潰れたせいで、息が出来ない。

目は無事のようだった。

耳も聞こえる。

ただ、視界に映る光景は血の海だった。

 出血量が半端じゃない。

普通の人間なら既に出血多量で死んでいるだろう。

でも僕は化け物…デルトリアだ。

欠陥だろうが何だろうがデルトリアとして生きている。


 「ゴホッ!…ガッ…ハッ…! はぁ、はぁッ…っ、く!」


 踏みとどまる。

なんとか地面を踏みしめて倒れないように…。

 一瞬見えた空色の髪の少女は、幻覚だったらしい。

死ぬ間際になって、見えてしまったのかもしれない。


 「おや…意外と、しぶといですねぇ。

  フェルティナさんは治りましたが…お兄さんはまだまだ時間がかかるはず…。」


 舐めるな。

そう言ったつもりだったけど、動いたのは口だけだった。

今は立っているのさえもやっとの状態。

 身体の修復も殆どなされていなくて、肺を重点的に治癒している最中。


 「では…そろそろ止めと行きましょうかぁ…。」


 そう言いながら僕に向けて刃を振りおろしてくる。

その時、目の前に人影が現れた。


 ギイィィィィィン!!!


 空気が振動し、金属同士の衝突音が辺りに響く。

 僕の前に立っていたのは、純白の外套を身に纏い、それに負けないほどの白い肌と髪をした女性。

まるで女神でも舞い降りたかのようだった。


 「…貴女は…ディーナスさん……でしたっけ?」


 フェルティナが海色の瞳を丸くしながら問い掛ける。


 「えぇ…そうですよ。

  私がこの集落の長・ディーナス……家族を守ることが、私の責務です。」


 「……つまり、フェルティナさんをやっつけるってことですかー。

  デルトリアでもない貴女が…勝てますかねぇ?」


 いつもの柔らかな口調ではなく、真剣味を帯びた声音で発するディーナスとは対照的に、相も変わらずに間の抜けた口調で告げるフェルティナ。

しかし、この二人の間には確かな殺意と闘志が発せられていた。


 「勝てずとも…クレイヴの回復のための時間を稼ぐことはできます! 私は…貴女ではないデルトリアに、この世界の行く末を賭けているのですから。」


 「世界の行く末…もう決まっていますよー。

  フェルティナさんが世界の抑止力になって、争いが起きないようにするのです。」


 「…そうですか。

  しかし、それではやはり、私が考える平和とは程遠いですよ。

  力で支配してはいけません。」


 「でも、この世界は…力が全てですよねぇ? 力が強いものが縄張りを手に入れて、生存競争に勝ち、力を持つものが全てを手に入れて生き残るでしょう…。」


 「違います…この世界は力が全てではなく、愛が…全てなのです。

  相手の為に思いやり、相手の為に生き、相手の為に尽くすことこそが…繁栄への道なのです。

  人同士が愛さなければ殺し合いが起き、親が子を愛さなければ子は死にます。

  どれだけ大きな力があったとしても…人の心が動かなければどうにもできませんよ。」


 「愛ならありますよー…フェルティナさんは、フェルティナさんを愛しています。

  お兄さんだって、愛しています…ふふっ、愛なんて言葉で言えばどうとでもなるじゃないですか。

  でも、力は力がなければどうにもなりません。

  いくら強いといっても、強くなければ強くないのです。

  でも、愛は愛を持っていても、持っていなくても、口に出せばそれは愛として相手に伝わるじゃないですか。

  それがこの世の全てであるなら…フェルティナさんがこうして生きているなんて…そもそもあり得ないでしょう? さぁ…無駄なお話はこれくらいにしましょう…。」


 フェルティナはバッと身を翻しながら距離を置き、姿が消えた。

いや、あまりの速さに姿を捉えることが困難になってしまった。

僕の肺はこの時に完全修復される。

 咄嗟に僕はディーナスの前に出た。


ギィィィィィン!!!!!


 一瞬だけ捉えたフェルティナの攻撃を、間一髪で受け止めた。

物凄い振動と重みで、腕が鉛のように重くなってしまう。


 「おや…これはこれは…意外と早い回復ですねぇ…お兄さん。」


 「僕だってデルトリアだ! 回復の速度はエーデル・フェアライトを優に凌駕する。

  それに…ディーナスは僕の家族だ…殺させるわけにはいかない!!!」


 「ふふ…そんなこと言ってしまったら、フェルティナさんだって家族ですよー。

  人剣(じんけん)・ラシアを以て、フェルティナさんは戦いますねぇ…。」


 クスクスと陽光のような笑みを浮かべ、のんびり口調で告げてくる。

 人剣(じんけん)…聞いたことのない言葉に疑問を抱きつつも、今はとにかく、戦いに集中することにする。

疑問は後で、ラシアに聞けばそれでいいのだから。

 再び僕たちの間の距離が開いた。


 『クレイヴ、私も援護します』


 『助かる!!』


 今度は僕の方からフェルティナに突貫する。

目の前まで来て方向転換し、彼女の真横に移動。

こちらに振り向こうとする彼女の頭上を跳躍し、背後に回る。

すぐさま僕は横に薙ぐ。


 ギイィィィン!!


 後ろ手で軽々と受け止められる。

すぐさま後ろに下がると、フェルティナは振り向き際に横一閃。

漆黒の三日月状になった刃の衝撃波がこちらに迫ってくる。

僕は上に跳躍する。

すると、目の前にフェルティナが居て…縦に斬り込んでくる!!!


 ギャリイイィィィン!!!


 空中でラシアのアシストによって受け止めつつも、そのまま真下に落とされ、その途上に真横から先ほどの衝撃波が迫ってきていた。

このまま落ち続ければ確実に直撃する。


 「っ!?」


 僕は咄嗟に風の理力を発揮して空中を飛翔する。

何とか直撃を免れ、すぐさま態勢を整えてフェルティナに立ち向かう。

空中で身動きが取れないフェルティナに下からの斬り上げの連撃。


 ギィィン!! ギィン、ギィン、ギイィン!! ギャリイイィィィン!!!


 すべての連撃を受け止められつつも、その度に身動きが取れない空中へと跳ね上げられていく。

最後の一撃を渾身の力を加え、大きく空中へと跳ね上げさせた。


 『今です!!!』


 「うおおおおぉぉッッーーー!!!」


 ラシアの言葉と同時にグッとラシアを握り締め、一気に上昇して距離を詰める。


 「ふふっ…。」


 フェルティナは相変わらずの余裕の孕んだ笑みのまま、僕を見下ろしてきていた。

風を切りながら上昇し、彼女の近くに来た時点で……。


 ギンギンギンギンギンッッッ!!!!!


 互いに激しい攻防の応酬。


 ガガッ!!! ガガガッ!! ガガガガガガガガガガガガ!!!!!

 

 数秒に数百、数千の斬り合いを繰り広げ、壮絶な空中戦を敢行していた。

すべての攻撃を受け止め、すべての攻撃を受け止められている。

それでも、フェルティナの余裕の笑みが消えることはない。

 まるで、仮面でも被っているかのように、何一つ表情を変えることがなかった。


 ガンッ!!


 ようやく、僕の攻撃によって、フェルティナは勢いよく地面に向けて落ちて行った。

すぐさま追い打ちをかけ、刀身を接触させた状態で地面に突っ込んでいく。


 「はあああァァァァァ!!!!」


 「うふふ…ふふ…。」


 ゴォォォォ!!っと風を切る音と共に落ちていく。


 ギィィィン!! ドオォォォォォォン!!!


 地面に接触する瞬間に刀身から弾き、フェルティナだけ地面に叩きつけた。

物凄い砂埃と衝撃と振動を空気中に発生させる。

 砂埃が晴れると、目を閉じながら地面に倒れるフェルティナが居た。


 『やったのでしょうか…。』


 『多分…倒したんじゃないかな。』


 僕は…この戦いに勝ったのか……。

僕は地面に降り立ち、見下ろす。

その隣に、ディーナスがやってきた。

幸い、彼女は無傷だ。


 「終わりましたか…。

  何とも恐ろしい存在でしたね。」


 「デルトリアだからね。

  ……脈も…ないね。」


 『…………。』


 僕は地面に倒れるフェルティナの首筋に手を当て、死亡を確認した。

脈は一切なく、体温も下がりつつある。


 僕は、妹と名乗り、斬りかかってきたデルトリアとの戦いに勝利した。


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