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ディスエイトの神剣 読み切り版  作者: 和島大和
第三章 【初任務 二国へ捧げし救いの腕(かいな)】
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第三十八節「内なる闘争」

 「これで…終わり…。」


 「あ~あ、二人とも神剣持ちだったし、もう少し歯ごたえあると思ったんだけどなぁ…。」


 「仕方ない…オレたちは、二人を倒さなければならんかったのだから。」


 シャムスとセルヴィが合流した。

彼らが倒したクレイヴとシェイラは、地面に血の池を形成して倒れていた。

彼らの性格は、クレイヴとシェイラたちと接していたものとは別物だった。

 シャムスは無口無表情で、セルヴィは無邪気故の残虐性を持っている。


 「二人共…死んじゃったかな?」


 「………興味ない。」


 「……ふふ…相変わらず冷たい言い方ね…。」


 「ふん…。」


 他愛もない会話から、先ほどまで互いに命がけの戦いをしていたなどという空気は欠片も存在しておらず、二人は何事もなかったかのようにその場を後にした。




 暗い

何も聞こえない 感じない 

すべての感覚が虚ろで 何もかもどうでもよくなるくらいに心地良い

僕は死んだのか…それは悲しいな

でも、この際どうだっていいや

もう死んだとしても、仕方ないと思うし、死んだ方が何もかも楽になる。

世界なんてどうだっていいだろう

どうせ僕が生きていたとしても、誰も得なんてしないんだから…。


 「クレイヴ…。」


 真っ暗な目の前に現れたのはボウッと光る球。


 「クレイヴ…。」


 再び呼びかけられる。

ゆっくりと、光が広がってくる。


 「クレイヴ…。」


 やがて光は視界いっぱいに広がった。


 目の前に見知らぬ少女が立っていた。

僕も立っていた。

 身長は僕と同じくらい。

腰よりやや下まで伸びた長い赤髪は、ところどころにクセっ毛があり、ツンツンとはねていて、見るからに活発的な印象を受ける。

第三者から見たら青と赤の髪を持つ少年少女が見詰め合っている状態だろうな、なんてどうでもいいことを考える。


 「えっと…君は?」


 「ふふっ…初めまして、貴方が手に持っているものです。」


 手に持ったもの。 

思考がハッキリとしてきた。

寝ぼけた脳内にエンジンをかけ、自分の身に起きたことを思い出そうとする。


 「貴方はシャムスという少年に理力攻撃をされて瀕死状態。

  今は私の精神深層下で会話中、ということです。」


 「………つまり、君は神剣・ラシア?」


 「はい! クレイヴがこよなく愛する、元気いっぱいのラシアちゃんですよ!!」


 嬉しそうに飛び跳ねる。

そんな目の前の見知らぬ少女が、神剣・ラシアであると告げられ、そちらに気を回す余裕なんてなかった。


 「えっと…嘘、なんかじゃなく?」


 「えぇ、嘘なんかじゃなく…正真正銘の神剣・ラシアです。

  女の子として存在しているので、こんな格好になっちゃってるのですよ。」


 炎のように赤い髪。

服装は真っ白のワンピース。

上半身から下半身まで一着のその服は、ラシアの真っ直ぐな形をした刀身に由来するのだろうか?

 ラシアは心底嬉しそうに笑っている。


 「ふっふっふ…どうです、どうです? 可愛いでしょう? 惚れちゃいましたでしょう? いやぁ、照れるなぁ…こんなに可愛く魅力的な容姿になってしまうなんて…。」


 なにやら勝手に話を進めてしまうラシア。

顔を真っ赤にしながら頬に両手を添え、体をくねらせている。


 「自分で言うのは……ただ、確かに…その…可愛いとは、思う。」 


 「ふにゃえ!?」


 僕の言葉に変な声を上げるラシア。

そして同時に、今度こそ本気で顔が真っ赤になった。

 でも、これは正直な話。

容姿だけで見ればかなり可愛いと評されても違和感なんて欠片もないくらい、可愛かった。

惚れるかどうかはさておき、街を歩けば男なら振り向くだろう…程度には可愛い。


 「あ、あはは…ま、まぁ…お世辞を言うだけの気力があれば大したものですね。

  負けてしまったショックで、何もかもどうでもいいと考えてたくらいでしたし…。」


 苦笑し、誤魔化すように後頭部を掻きながら告げる。

お世辞じゃないんだけどなぁ…と言ったら口を利かなくなりそうだから言わない。


 「それよりクレイヴ、あなたは(アルバ)位階で(ノーチェ)位階と対抗しました。

  その結果、あなたは完全に打ち滅ぼされてしまいました。

  今の貴方の体は見るに堪えないほどにグチャグチャです。」


 「そ、そう…なのか。」


 「ただ、あなたがデルトリアとして存在する以上、驚異的な再生能力もあります。

  まぁ、理力攻撃を受ければその再生能力なんて意味ないですし、不老不死の存在であろうと、傷をつけられれば修復なんて不可能ですけどね。」


 「い、意味ないじゃん…。」


 「神の剣ですから…仕方ありませんよ。」


 僕はため息交じりに呟き、ラシアが楽しむような顔で言い放った。

つまり、僕の体は見るに堪えない状態で果てるということだろう。


 「しかし、諦めるのはまだ早いですよ? だからこそ、私がここに居るんですからね。」


 「どういうこと?」


 僕の問いに対し、平べったい胸を得意げに張る。


 「私の理力によって再生されつつあるということですよ。

  ただしそれは、あくまでも私だけの力です。

  貴方が生きたいと強く願えば、即座に再生することができ、諦めてしまえばそれ以上の再生はしないので死にます。

  平たく言えば、貴方は心の奥の奥の奥底では生きたいと願ってるってわけです。

  でも、それは恐ろしく小さいので、ここで貴方が諦めてしまえばその心も、押しつぶされちゃうんですけどね。」


 つまり、僕が今ここで求めなくちゃいけない。

生きることができる。

 生きたい

 死にたい

二つの心が葛藤する。

衝突する。

 生き永らえる希望が残されているのなら、生きるべきだ。

デルトリアは破壊の先にある創造のために造られた。

だれかを救う力がある。

だれかが救われる未来がある。

ならば生きるべきだ。

 生きていれば世界が壊されるのなら、死ぬべきだ。

デルトリアは破壊のための存在だから。

だれも救えない。

だれも救われない。

ならば死んでしまえば良い。

生きる価値などもはや存在しない。

いい機会じゃないか。


 二つの心は一進一退を繰り広げている。

やや死ぬ方向の意思が強い、という程度だろう。


 「やはり…決め兼ねているのですね。

  なら、戦ってはどうですか? 貴方自身と。

  ただし、その相手は暴走するあの人格ではなく、貴方自身の人格が抱く心と、ですけどね。」


 クスッと笑いながら提案してきた。

本当に軽く、まるでディナーに誘うかのように気安く。


 「……。」


 答えられない。

勝てるとか負けるとかではなく、自分と向き合うことが恐ろしかった。

僕はデルトリアであることを知ったのはつい最近だから、デルトリアとしての気持ちと向き合いたくない、対峙したくないという思いが強い。

 正直……逃げたい…。


 「……。実をいうとですね…私も葛藤しているんですよ。

  貴方をこのまま殺してしまった方が、良いのかもしれないって…でも、今ここに居るのはクレイヴを生かすことを望むラシアです。

  だから、貴方が貴方自身と戦うのと同じく、私は私自身と戦いますので…一人ではありません。」


 「……そうか…。」


 ラシアは僕を信じて待っている。

だからこそ戦おうと言ってきているのだろう。

僕が勝てると信じているから。

ただ、彼女の言葉で僕は勝てるかどうかの不安も抱き始めていた。

 怖い 戦いたくない 負けたくない このままここに居ればきっと楽だ。

そんな思いが津波のように押し寄せてくる。


 「それに、シェイラはまだ生きようとしていますよ? 彼女もまた敗北しましたが、理力攻撃を一部しか受けていないようです。」


 「シェイラが…!!」


 衝撃だった。

そして不意に、戦いの直前に交わした視線のやり取りを思い出した。

互いが互いを死なないでほしいと願い、勝ってほしいと祈り、勝てると信じ、任せたという想いを瞳に宿しながらの、ほんの刹那の時の視線交差。

 その時、僕は僕自身が歩むべき道を見出した。

彼女との約束を守る。

彼女が守ろうとしているのに、僕が破っては意味がない。

必ず、戦って勝つ!!


 「ラシア…案内してほしい。

  僕は僕自身を倒して、生きることを選ぶ。

  それが正しいと知らしめる。」


 「ふふっ…了解しました。」


 ラシアの嬉々とした表情を見た後、ゆっくりと目を閉じる。

もう負けない。

必ず勝つ。

勝たなければならない。

勝たなければ、だれも守ることなんてできない。

力があっても、自分自身に負けてしまえば力を持っても意味はない。

 僕は死を望む僕の心の領域へ侵入した。



 そこは灼熱地獄だった。

地面は活火山の火口のようにメラメラしていた。

 信じられないほどの熱気を感じて、体中に風の理力をラシアから供給してもらい、極寒の冷気を纏う。

本来あまりの寒さに眠気が襲う温度の冷気は、この場ではちょうどいいくらいだった。

 あらゆるものを融解するマグマ。

自分の死を望む心が体現した精神世界ということだろうか。


 「来たね…死に損ない。」


 目の前に立っているのは僕。

目は虚ろで生気がなく、ただただ諦めきった表情をしている。


 「死に損ないじゃない…死にたいとは思わないから。

  どちらかといえば、死を望む君の方が死に損ないだろう。」


 ハッキリ言わせてもらった。


 「ははっ、確かにそうだな。

  だが、僕はお前を殺して…死に損ないの汚名を返上といくよ。」


 「なら…僕は、君に殺されるわけにはいかない。

  その汚名を汚名のままにしておいてやる!!」


 互いに同じ能力、同じ武器、同じ心の強さで対峙する。

これでも決着がつかなければどうするのか、というのは考えないでおく。

勝てばいいのだから。


 「はああぁぁぁぁっ!!!」 「らああぁぁ!!!」


 先に僕が突貫し、その直後に彼が動いた。


 ギイイィィィン!!


 激しく火花が散る。

神が作ったとされる武器同士が打ち合った衝撃は、周囲の地面を抉り取った。


 ギャリイィィィン!! ガッ! ギンッギンギンギンギン!! ギィィン!


 互いに譲れないものを抱えながら、ひたすら激しく刃を交え、距離をとる。

 そして、ほぼ同時に体を地面から離した。

そのまま突貫。

互いに接触する寸前で同時に真横に飛翔し、並んで飛ぶ。

そのまま刃を交える。


 ギンギンギンギン!!


 上空へ上がろうとして同時に上昇する。


 ガガガガガガガ!!!


 高速で斬り合いを始め、受けては攻撃、受けては攻撃を繰り返す。

 今度は一気に、またも同時に急降下する。

既に高度は千メートルを超え、そこ高さから地面に突っ込んでいった。


 ゴオオオォォォォォ!!


 風を切る音と共に地面との距離が急速に縮まっていく。

そして、接触直前に同時に急上昇に移行。


 やはり、彼は僕だった。

彼が僕であるがゆえに、僕と考えることはあまり大差ない。

でも、きっと違いはあるはずだ。

既に死ぬか生きるかで思考の違いがあるのだから。

 地上二百メートル付近で、僕は不意に背を曲げて上昇を止めた。

彼は一瞬驚いたような顔をして上昇を慌てて止めようとしている。


 『今です!』


 『わかってる!!』


 僕は完全停止から急上昇し、横一閃に斬るために構えた。

 彼は遅れて完全停止から反転し、剣を構えようとする。


 「はああぁぁぁぁ!!!」


 空中を翔けながら、身を低くする。

相手は咄嗟の所作で両手を上に掲げた。


 ズバッ!!


 ガラ空きになった腹部目掛け、思いっきり斬りつけた。


 「がはっ!!」


 激しく吐血しながら堕落していく。

地上二百メートルの高さから地面へ叩きつけられ、轟音と共に砂埃が周囲を覆った。

 僕は砂埃の向こう側に着地して様子を見守る。


 「………。……。…。」


 灼熱の空間で待つこと数分。

体感時間は数時間。

砂埃が晴れると、そこに彼は立っていた。

 腹部から血を流しながら、手に持った神剣・ラシアの刀身は炎の渦が巻きついている。


 『マグマから理力を受けて、転換(トランス)したようですね。』


 『炎と風か…。』


 神剣の理力を変換(トランス)した彼は遠くから僕をまっすぐ睨んでいた。

その時、彼の背中から巨大な炎の翼が顕現され、大きく広げた。


 「な、なんだ…?」


 その翼は片翼二メートルほどの長さで、形は鳥の翼のようだった。

右翼が橙の炎で左翼が青の炎。

さらに翼の上層部分は右翼が白く、左翼が黄色に輝いている。


 ドオオオオオオン!!!


 凄まじい轟音と共に彼の足元の地面が爆発。

超高速でこちらに突貫してきた。


 「くっ!」


咄嗟に急上昇して距離を取る。

彼はその下を通り過ぎて行った…が、すぐに方向を転換して、こちらに向かって突っ込んできた。

 僕の位置は地上百メートル弱で、総合的な彼との距離は百五十メートルほど離れている。

しかも、今も尚上昇を続けていて、追い付くにはそれなりの時間が掛かる。

だが、既に僕との距離は殆ど空いていない。

そればかりか、剣を振れば確実に傷を負う。


 「貰ったぁぁ!!」


 「っ!」


咄嗟に彼が繰り出した横薙ぎの一撃を受け止める。

しかし、力が分散しきれずに後方に吹っ飛んだ。

すぐさま彼は僕の真横に並ぶ。


「まだまだ!」


(早いっ!)


彼は僕に覆い被さるように剣を降り下ろしてきた。

それをなんとか受け止めるも、体は勢いよく地面に向けて落下していく。


「舐めるなっ!」


僕は勢いを風で殺すと、そのまま押し上げていく。

彼も負けじと炎の翼を展開し、ジェット噴射のように推進力を上げながら、僕を地面に叩きつけるべく、突貫してくる。


ギギギギギ…!!!


力が拮抗する。


ギイイィィィン!!


どちらからともなく離れた。

両者の間で繰り広げた空中戦は、互いに理力攻撃に移るべく詠唱を唱えたことで、幕引きとなった。


「我は求める 天地を揺るがす破壊の暴風 癒しなどいらない 何もいらない 求めるは破壊のみ ただただ求める 天の悉くは我にあり 我が大気を以て裁きの審判を下さん」


「その火焔 あまねく存在の悉くを消し飛ばす ああ 燃え盛る姿のなんと美しきことか なんと神々しきことか 天地を燃やし 昇華し 蒸発し 塵も残さず 灰と帰す破壊と破滅の象徴 我が渇望せしはただ一つ 天地万物森羅万象の焼失と消失なり」


(アルバ)」「(アルバ)


天地を揺るがす(シェルテーレ・クェイク)絶対気流(テンペスタ)!」


殲滅焼却の(フェルティル・)紅炎(プロミネンス)!」


互いに(アルバ)位階の理力攻撃を繰り出し、相手を完全消滅せんと攻撃した。

僕の方は天地を揺るがすほどの圧倒質量の風圧。

何百トンにも及ぶ空気の圧力は、大気を巻き込み、大気を震わせながら相手に向かう。

対して彼の放ったものは、一万度の超高温の炎の旋風。

一瞬の内に全ての物質を灰に変えてしまうほどの炎の竜巻は、まさに太陽の紅炎そのものであるかのよう。

天地を揺るがす風と、天地を燃やし尽くす炎。

自然上の、(ことわり)上の相性としては、炎に分があるのは明らか。

酸素によってより強く燃え上がらせる炎は、竜巻など受ければそれをも吸収してしまうだろう。

しかし、理力は物理法則など関係なく、神剣を持つ者の技量で左右される。

能力も力も、技量も互角。

ここで試されるのは気力の大きさのみ。

生きたいと願うか、死にたいと願うか……この一撃で全てが決する。

僕は………。



どこまでも広がる静寂のなかで、僕の風は彼の炎を打ち消していた。

僕は傷一つない無傷。

彼は満足げな顔を浮かべていた。


「く、ははは…負けた……自分に……なんだ…これは……何故か酷く……心地、良いよ…。」


「満足いく戦いはできた?」


「あぁ、それも…ある、な。

そして…安心、したん、だ……僕はまだ…死にたくないって……思えているんだ、と……知れた。」


とても安らかな、穏やかな微笑を浮かべながら、光の粒子となり、僕の体の中に入ってくる。

途端にそれまで拡がっていた灼熱世界は崩壊した。


『やりましたね! さぁクレイヴ…体の修復は完了しましたので、頑張ってきてください!』


『分かってるよ!』


僕はラシアと軽く言葉を繋ぎ、精神世界から脱却した。


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