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後半はややシリアス。
そして新キャラも登場。
彼が活躍するかどうかは・・・。
瀟洒な門を潜ると、木製のドアの上部に取り付けられた獅子が咥えるノッカーを叩く。
「いらっしゃると良いのですが・・・」
ゴンゴン
「まぁ・・・誰かいるんじゃないか?立派な建物だし・・・執事さんとか居そうだしなぁ」
「ホッホ、お褒めに預かり光栄ですな」
「いえいえ、当主様・・・前当主様もとっても立派な方だと父から聞いています」
「左様ですな、昨今ではサイフォス様のような貴族の矜持を持ったお方は少なくなられましたからなぁ」
「そうかぁ・・・ってうぉッ!?」
「キャッ!」
さっきから聞き覚えの無い声がしていると思ったらいつの間にか背後に人が・・・!
てっきり扉の中から出てくるもんだと思っていた俺達はすっかり度胆を抜かれた。
普通に会話に入ってきてたし・・・。
「ホッホ、わたくし当家の執事のセードルと申しますが、当家になにか御用ですかな?」
驚愕する俺達を余所に執事セードルさんは温和そうな笑顔である。
執事服をビシッと着て、指先まで神経が届いているその様は長年の経験か。
髪は白い・・・若くても初老、と言ったところの年齢に見えるが動きに老齢は全く感じない。
「あ・・・と、突然の訪問すみません。わたしアニアスの娘でポーラと申します」
「冒険者をしているユウです」
慌てて話し出すポーラさんと背中に背負われたアニアスさんを見て、何かを見て取ったのかセードルさんは一つ頷いた。
「ふむ、何やらご事情がお有りの様子。続きは内で伺いましょう。どうぞお入りになってください」
そう言って、セードルさんは扉を開けて俺達を迎え入れてくれた。
ほっとした様子のポーラさんに続いて、未だ目を覚まさないアニアスさんを背負い直すと玄関に足を踏み入れた。
どうやら、一息つけそうだ。
~~~王都・冒険者ギルド~~~
ざわめくギルド内では受付に詰め寄るようにしている者が多い。
無理もない・・・受付嬢をしているマァナは思った。
ロック鳥が出たのだ。
あげくその怪鳥に冒険者らしき人が浚われたという。
ギルドでは報告が入った直後にギルドマスターが緊急クエストを発行、Aランク以上のパーティを対象としてすぐに何チームかが王都から飛び去ったという方向へ情報入手に動かした。
王城からの問い合わせも来ているが、流石のギルドマスターもこの辺りで目撃されたことも無いロック鳥が来たと言われたところで信じるどころか情報を持ち込んだ冒険者を鼻で笑って追い返した受付が居たこともあり初動が遅れたということもあってギルド内が落ち着かないのだ。
関係者以外に伏せられているために不明だが、少し前にSランク冒険者が辺境方面に向かった事もあり、王都所属の冒険者で手練れといえばAランクのパーティしか居らず、彼らには悪いが力不足と言わざるを得ない。
なにせ相手が悪すぎる。
空から急襲してくるだけでも厄介なのに、巨大で高速、あげくに鳥の癖に頑丈で遠距離攻撃をどうやってか逸らされてしまうという化け物である。
内陸部では数少ないSランククラスであるのも手伝って、たとえAランクパーティであろうと・・・いやSランクだとしてもあの守りを抜く手段を持っていない限り撃退は出来ても殺害は厳しいだろう。
複数からの情報でロック鳥の出現が確定とされた時からギルド内は一気に緊張感に包まれている。
隣りのサマンサに詰め寄っている冒険者もロック鳥が何処へ行ったのか分からなければ下手に依頼を受けられないのだろうし、焦りからそういう行動に出てしまうのも分かるのだ。
ああ・・・こんな時あの方あが居てくれたら・・・。
全受付嬢が求めてやまないあの方の帰還。
なにやら緊急だとかで飛竜騎士団から騎竜を出したそうだけど、帰ってきたのは騎竜ばかりで乗っていったはずのあの方は未だお帰りにならない。
思わずため息が出た。
目の前でクエストの受注をしようとした冒険者がビクッと震えた。
普段ならばそんな凡ミスをすることは無いのだけれど、今日ばかりは仕方がないわよね。
そんな事を考えていると
ギィィ
いつもは誰も気に留めないその音は妙に響いた。
カツ・・・カツ
ブーツが床を踏む音が響くと、なぜか全員が一斉に入口に振り返った。
「ふぅ・・・」
妙に艶っぽい吐息と共に入ってきたのは・・・ああ!
「シフ・・・様」
誰かが囁くように呟いた。
白銀の鎧に黒いコートという目立つ要素が無いはずの装備が、シフ・イヴァルディという存在を高める一助となって輝きに華を添える。
後ろに流した真紅の髪は旅の汚れや埃を全て弾いたかのように輝いて美しい。
2mにもなる長身のはずなのに、なぜか大きいとかゴツイとかは全く感じさせず、むしろ究極にして至高の超絶ぴったりサイズにしか見えない。
優美な獣のような足取りでシフがマァナの前に立った時・・・いつの間にか受注作業をしていたはずの冒険者はなぜか隣りの受付にずれた・・・私は思わず椅子から崩れ落ちそうになった。
シフの後ろに付いて歩いていたボクは不思議に思った。
人の多い王都でもみくちゃにされた末に編み出した迷子防止策、お手手をつなぐを実行したのだが・・・ざわつく王都の民が思わずほっこりと微笑んでしまう光景が出来上がっていたりもした・・・きょろきょろと辺りを見渡すのに忙しいカリンがはぐれずに済んだのは良かった。
放っておいたら間違いなく迷子になってたと思うしねぇ。
王都でもシフさんを見た人・・・なぜか女性が多かったんだけど・・・頬を染めたり、意味ありげに唇に指を触れたり怪しい動きを始めたりが居たんだ。
なんだか道行く女の人がみんな娼婦に転職したみたいになったのはちょっと面白かった。
シフさん美人だし颯爽として格好いいものね。
そんな不思議な光景を横目にシフさんについて行くとようやく冒険者ギルドに到着・・・冒険者ギルドに入った途端、音は途絶え、中にいたすべての視線が集中した。
冒険者達がつぶやく声が、静かなギルド内に響く。
おい見ろ、シフだ、巨人殺しのシフだ、おねえさま・・・ステキ
ざわつくそれら全てを無視してカウンターに直行したシフさんが、カウンターに肘をついた。
「すまないが、へリックスに話があるんだが今空いているかな?」
対する受付嬢のお姉さんはなんだかぼんやりとしてる・・・うん、なんか王都に来てよく見る光景かもしれないけれど、頬を染めたまま固まってるね。
「マァナ?」
やや眉根を寄せたシフさんがもう一度声をかけたところでようやく再起動した受付嬢がピョンと小さく飛び上がった。
なんだか見てる分には面白いね。
「ひゃいっ!ああ、すみません!シフさんお帰りになられたのですね!!ギルドマスターは今執務室に居ますので、声を掛けてきます!」
一息にそこまで言うと、マァナさんと言うのかな?動きが面白い受付嬢はダッシュで奥へと消えた。
「私は辺境伯領の件の報告に行くが、二人はどうする?一緒に来てもらっても構わないよ」
ふむふむ~、このままここに二人残された場合どうなるかな~?
たぶん・・・これだけシフさんが有名人ってことはシフさんが視界から消えた途端に詰め寄られそうだよね~?
これは付いていった方が良さそうだねぇ・・・。
「カリン、付いて行った方が良いと思うんだけど~」
「ん、ついでにロック鳥の報告」
「あ~、そうだね~。もう倒したって言っておかないと困っちゃうかもしれないね~」
そう言ってシフさんを見ると、一つ頷いた。
「そうだな。今の所我々以上に情報を知る存在は居ないだろう・・・報告しておいた方が良いだろうね」
少しして、飛ぶように戻ってきた受付嬢の案内で、王都冒険者ギルドのマスターに会う事になった。
なんだかザワザワしてるし、さっさとギルドから撤退しよう~。
ここで報告関係を終えたらさっさと王都を出る予定だから、面倒はごめんだよね~。
ギルドマスターの執務室はアイシーンの街と同じような作り・・・二階の一番奥にあった。
受付嬢がノックした後で、返答を聞くことなく入室したのは少しびっくりだけれど、それだけ急いでいたのか、それともシフさんがそれだけ重要な人物か・・・だよね~。
「失礼する」
「お邪魔しまーす」
「ん」
入室すると、受付嬢は執務机の前にある応接テーブルにお茶を出してから退出した。
ちなみにシフさんがさっさと座ってしまったので、座っても?どうぞ~的な流れが無かった・・・いいのかなぁ?
「いいタイミングで帰ってきたな・・・ん?そちらの二人は?」
特に怒った様子もないギルドマスターが執務机から応接用のソファに座った時に、ようやくこちらに気が付いたみたい。
不思議そうな表情のギルドマスターがシフさんを見るとシフさんが一つ頷いて
「こちらは白夜の件で共闘したチーム風花のメンバーだ。魔法使いがカリン、斥候のシャル」
「よろしく~」
「ん」
ボクはいつもの通りに軽く、カリンはいつも通りの無口っぷり。
慣れると何が言いたいか分かるようになるのだけれど、付き合いが短いと不愛想だよねぇ~。
ユウが居るとまた違うんだけど・・・うふふ~。
「そうか、シフから聞いているかもしれないがここのギルドマスターをやっているへリックス・オリガだ。シフとは同じパーティを組んでいたこともあるんだ。よろしくな」
そう言うへリックスさんはギルドマスター、しかもこの国の王都に居を構える冒険者の元締めにはとても見えないね~・・・結構軽いし。
・・・うん、意外とこういう人の方が侮れなかったりするんだけどねぇ~、一見大したことないように見えるっていうか。
や、シフさん程じゃあないけれど190はある長身だし、体格もかなりガッシリしてる。
今は不思議な程何も感じないけれど・・・ね。
う~ん、しかもこの人こっちがそこまで気が付いている事まで理解してるかんじだねぇ~・・・うん、流石は王都のギルドマスター、だよねっ。
「白夜の件ならアイシーンから報告をもらってる。よく生きて戻ってきてくれたな・・・!」
そう言って嬉しそうに笑うへリックスさんに含むところはなさそう。
シフさんも特に気にした様子もなく、茶を一口飲んだ。
「うん、といっても私は何もしていないんだがな。こっちの二人ともう一人、ユウが主に活躍したのが大きかった。私はただ酒を飲んだだけだな・・・」
「ほう・・・てっきり君が中心になって作戦行動をとると思っていたんだけど・・・」
そういうへリックスさんが不思議そうにするのも無理はないよね・・・最初からバレてたっていうのもあったけれど、なぜか同行のSランクパーティであるスキールニルを差し置いてまともにガチンコ対決した上、ほぼ無傷で引き分けとか意味が分からないよね。
神にも匹敵するっていう話だったんだよ?
ボクらも援護したとはいえ・・・盾役として~とか言ってたのに盾どころか黒の槍一本って・・・防御する気ないよね?
鎧の性能を信じてたとか言ってたけど、目が泳いでたから嘘だよね。
ほんとウチのリーダーは・・・。
おっと、回想してる内にシフさんの話が終わったみたい。
話を聞いていたへリックスさんはというと、唖然とした表情になっていて、それをシフさんが面白そうに見ていた。
「・・・信じられないが真実、なんだな?」
「くく・・・ああ、そうだ」
トドメを差すように言うシフさん、なんだか楽しそう。
旅してる内にユウと仲良くなってたけれど、これ・・・多分そういうことだよね?
間違いないよ・・・
この人・・・
戦闘狂だぁぁぁぁ!
なんだか疲れたシャルとカリンを連れてギルドを出ると、二人に最終確認。
「それでは、こちらから迎えにいくということでいいんだな?」
「うん、待ってたら多分また何かに巻き込まれて帰ってこなそうだし~」
「ん、なんか女の人助けてそう」
迷いなく言い切る二人に思わず笑いがこぼれる。
Sランクになってしばらくして、上昇する難易度に付いていけなくなった・・・いや、言い方が悪いな。
私の戦闘欲求が強すぎて、迷惑をかけてしまった仲間と別れてからは二度とパーティなど組むまいと思っていた私がこんな気持ちになるなんてな。
今思い出しても笑いが止まらない。
白夜とほぼ単独で戦って引き分け・・・と言うが、神にも匹敵するという白夜と誰が戦おうと思うだろう?
フォロー体制も万全とは言いがたい中で、引きつけていたスキールニルが高価な身代わり用魔道具を使用して死んだフリをしたのも気に入らないが、殺されたと思ったユウが迷わず前に出たのは正直言って驚いた。
会議室でふざけていた姿とはあまりにもかけ離れていたからだ。
すごいすごいとスキールニルの面々は笑顔で話していたが・・・おそらく内心では悔しくて堪らなかっただろう。
高価な魔道具を使いたくはなかっただろうし、死んだふりをするつもりなんて無く、ユウ達が一瞬でも引き付けてくれた瞬間に奇襲して再び戦うつもりだったに違いない。
それが蓋を開けてみれば、ユウの独壇場だ。
ギルドマスター達はユウが倒れた瞬間に一斉攻撃するつもりだったようだが、彼を信用していたのだろう。
一切手を出さないどころか、途中から酒盛りしていたというからな・・・。
あげくに例の称号だ。
落ち込んでもいたし、怒ってるのも事実なのだろうが、なぜあれだけの事をされて笑っていられる?
無理矢理、白夜討伐という名の無茶振りされたあげくに運が最低値まで低下。
そのおかげで道中は盗賊だの、いるはずの無いサハギン共だのに襲われ、ようやく王都に到着したと思ったらロック鳥だ。
私なら女神を斬っているところだ。
そう・・・私なら斬れる。
そしてきっと彼も・・・。
楽しくなってきたな・・・ククク。
「うわぁ・・・シフさんがすごい笑顔だよ~・・・」
「ん、殺気がうるさい」
おっと、いけないな。
思わず殺気が漏れてしまったか。
ああ、早く会いたいものだ。
~~~王都冒険者ギルド・ギルドマスター執務室~~~
「あいつ・・・物凄い気に入ったらしいなぁ」
急遽アイシーンの街から取り寄せた冒険者の情報をまとめた報告書を執務机に投げ出して思わず呟く。
昔組んでいた頃も大概化け物レベルだったが、レベルも技量も上がった現在なら隣りに立てる人間なんぞ居ないだろうと確信していたんだが、な・・・。
圧倒的なシフの攻撃力に支えられたパーティ、ラグナロク。
シフの母の故郷の言葉で世界の終末を意味するとかいう名をパーティ名にするのもイカレてると思ったものだが、戦いとなると誰が相手だろうが真っ二つ、再生能力とタフな肉体を持つ恐ろしい巨人を細切れにした光景を見た時にはメンバー全員が乾いた笑いを漏らしたものだ。
あいつに誰も並び立てない。
あいつはずっと孤独だった。
特殊な血筋、圧倒的な攻撃力と美しさ。
周囲を引っ張るカリスマと冷静な判断力に頼り切っていた俺達が自分の無力さを無視しきれずにパーティの解散に至ったのは今でも仕方がないと思ってる。
あいつがそれを寂しそうに笑って頷いた時に気が付いたんだ。
ああ、誰か助けてくれって。
誰かこいつが背中を預けられる位強い奴と出会わせてくれって。
ギリッ
噛締めた歯が鳴る。
胸に去来するのは後悔か嫉妬か。
「いまさら・・・だがな」
孤独であったシフが見つけた可能性。
もしもそれが託すに足る男であるならば。
「簡単には認めてやらんがな・・・むしろ誰よりも苦労しやがれ」
俺達の大切な大切な姫君を。
強く美しく、そして優しい彼女を。
「どうか・・・頼む」
さらっとレギュラーになりつつあるシフについて掘り下げてみました。
彼女の秘密はいずれ。
お読みいただきありがとうございました。




