38
城の中庭、とでもいうべき広場で町の人達や兵士達が見つめる中。
アイテムポーチから取り出した邪竜ティアマトの姿を見た途端に彼らは驚き、恐怖し、こんな強大な竜を倒した勇者たちへの興奮にどよめいた。
「でけぇ!なんてでかさだ!」
「おぉぉ・・・恐ろしい姿じゃぁ」
「あんな大きな竜を倒したって?」
ざわめく観衆。
竜人族は竜と共に生きる種族、その彼らをして驚嘆させる威容・・・。
死してなお呪われそうな眼差し、毒腺が開きっぱなしなのか緑色の毒液が流れ落ちる牙、未だ触れた者を麻痺させる毒液を滴らせる尾の棘・・・ここまで凶悪かつ攻撃的な竜は見たことも聞いたこともなかったのだ。
一体どう戦い、そして勝ったのか・・・憶測と想像でざわつく民衆を黙らせたのは、王の一声だった。
「静まれぇい!・・・我らが戦士達が英雄ジャ・ギィルの敵を討った!見よ!この強大な体を!骨ごと砕いてしまう顎を!毒滴る尾を!」
王の言葉に全員の視線が竜の鱗を、顎を、尾を見つめた。
「我でさえ今、死した骸を前にしてなお緊張で汗をかく・・・だが戦士達は勇敢に戦い、そして勝ったのだ!!者共!彼らは真の戦士であるッ!誇り高き勇者達であるッ!そしてもう一つ!お前達も見ておろう。今回は人族の戦士が1人居た事を!」
おぉ・・・!
どよめく観衆の視線がオレに集まって大変なことになっている。
見ないで!とか言って胸の辺りを隠したいが、それをしたら人族は変態というレッテルを貼られてしまう。
ポーカーフェイスを装って、片手を上げて応えた。
おぉぉぉ!!!
盛り上がってくれたようだ・・・ホッ。
「彼は他種族でありながら、我らが為に立ち上がってくれた!彼もまた、戦士であるッ!!依存はあるまいな!」
おぉぉう!!
老若男女、種族が異なるオレを戦士と認めてくれている。
葛藤する様子も無く・・・ただ尊敬の眼差しの彼ら。
あぁ・・・なんて清々しい人達なのだろうか。
きっと、彼らは小さな子どもまで戦士の心意気なんだなぁ。
オレは胸に拳を当てて瞑目した。
拍手と賞賛の声に、共に戦った戦士達も嬉しそうにしてくれているのがまた嬉しい。
満身創痍の体を治療し、体力を回復させてから歩いて一日半。
彼らとは行きと違って皆よく話した。
強敵を共に倒した連帯感からか、行きには話すことも無かったガァ・グとも話した。
彼は照れると背中をバンバン叩いてくるのだが、これがとんでもなく痛い。
グァルは竜の棘で作った即席の槍を気に入った様子で時々眺めているし、戦士長がそれを羨ましそうに見ているし・・・正直急遽作ったなんちゃって槍だから誰でも作れると思うんだ。
疲れた体は重いが、気持ちは軽く誇らしげな表情の戦士達。
すっかり仲良くなった彼らと街へ戻った時には皆が驚き、結果を聞いて歓喜した。
あまりの興奮に門に立っていた兵士2人共が持ち場を放棄して報告に疾走する程だった。
それから半日。
式典というよりも飲み会の前口上のような王の言葉の後は、大宴会が始まった。
彼らが作った酒と固くない肉・・・そう、固くない肉!!
次から次に運ばれてくる見たこともない料理の数々に驚きながら、一口含んで驚いた。
彼らの料理は、和食に似ていたのだ。
出汁をしっかり使うこと。
何処から入手するのか魚介系の出汁の香り、味噌らしき発酵食品。
醤油は無かったが、魚醤はあるようだ。
おもわず懐かしさに涙が零れそうになったよ・・・。
それを見ていた知らない人達が嬉しそうに食べるオレを見て笑顔で色々勧めてくれた。
勧められるままに食べて、飲み・・・三々五々、人々が散っていく頃に王に呼ばれて私室へと招かれた。
「ヌゥ・・・戦士ユウよ。改めて礼を言わせてくれぃ。戦士長達から報告を聞いている。戦士ユウ、お主が突破口を開き、勝利へと導いた、と」
「確かに弱点を攻撃したのはオレですが・・・戦士ジャ・ギィルが邪竜の逆鱗に槍を突き立てていなければ話は違っていたでしょうし、彼らの協力が無ければとても勝てませんでした。褒められるべきは彼らかと」
謙遜したつもりはない。
ジャ・ギィルが遺した槍をティアマトが放置していたこと、一蹴出来ると油断してくれていたこと、様々な要因があって初めて成し遂げられたことだ。
最初からブレスを連発されていたり、空中から襲われていたらとてもじゃないがここまで上手く勝てるとは思えない。
そういった事を全て述べても、王は笑みを浮かべて頷くだけだった。
「ヌゥ・・・そのようなお主だからこそ勝てたのであろう。我は人族を見くびっておったかもしれぬな・・・」
そう呟いて、首を振った。
「それよりも・・・だ。王としてこればかりは聞いておかねばならぬ。お主は我ら竜人族の恩人、救国の英雄じゃ。お主は何を望む?人族が好むという金か?我が娘を娶るか?」
「そう、ですね・・・ならば邪竜を少し分けてもらえないでしょうか?」
そう言うと王は驚いた顔をした。
「何を言う。邪竜はお主が狩ったも同然。我ら戦士は恥を知る者ぞ!竜の遺骸をよこせなどとは申さぬ!」
「いいえ!オレ達で狩ったのです!戦士長は素晴らしい勇気を持って堂々と、ガァ・グはその大力で皆を守り、姫は結界と回復に、老師は最も苛烈に攻撃を、グァルは友の槍を手に雄々しく戦いました!死した二人の兄弟とてそうです!だからあの竜は皆の物!」
「ヌゥ・・・そこまで言うか。そこまで言うてくれるか・・・ならば言葉に甘えるとしよう。だが、戦士ユウよ。それならば首から上だけもらえぬか?我らは敵対した相手にも敬意を持つ。そして倒した首を持って祖霊に祀るのだ」
なるほど。門の入り口や柵周りに頭蓋骨を飾るのは彼らなりの敬意ということなのか・・・言われなきゃ分からないところだった。
「そういうことであれば喜んで。では首から下はいただいて参ります」
「うむ。だがそれだけで帰しては我が祖霊を始め民達に狭量な王と言われよう。他にも望む物を言えぃ」
「う~ん・・・ならば武器をいただけませんか?それから出来れば貴方達が使う調味料などがあればいただきたい」
「ヌゥ・・・?武器はともかく・・・調味料?」
不思議そうな顔をする王に故郷の味に似ているから欲しいのだと伝えると、ようやく納得してくれた。
まぁ、竜倒して調味料じゃ流石に褒美とするわけにもいかないだろうが・・・武器も望んでいるからその辺で調整してくれるだろう。
「ヌゥ・・・良かろう。後ほど武器庫へ案内させるゆえ、気に入った物を選ぶが良い。一振りと言わずいくらでも持ってゆけ!よいな?遠慮は我らに対する侮辱となるから注意せよ!」
なるほど。
気を使うなと言ってくれているのだろう。
「承知しました。ありがたく」
しばらくして案内されたのは城の地下に広がる武器庫。
かなり広いが、壁際に設置された棚には全て武器が収められていてとんでもない量だ。
こりゃ見ているだけで明日が来そうだ・・・。
ともあれ早速見て回った。
槍が多いが剣や杖なんかもある。
どれもオレが持っている黒鉄製の武器よりも上等なようだ。
うぅむ・・・悩むな。
とりあえず、戦いで折れてしまったメイスや槍を探したが、メイスは置いていなかった。
竜人族はメイスを使わないらしい。
槍はかなりの種類があった。
ハルバードもあったが、相棒が拗ねて破壊してしまいそうだから止めておく。
黒の方が強いしな。
棚を順番に見ていると、目に付く物があった。
全ての武器が丁寧に磨かれて保管されているが、気のせいか輝きが違う。
その槍だけが何やら訴えかけてくるように感じるのだ。
案内人に言って手に取って眺めてみる。
カリンがいればスペックを調べてくれるんだが、ここにはオレしかいない。
穂先はシンプルな笹の葉型、柄だけで4m近いその槍は馬上槍のようにもパイクのようにも使えるだろう。
まるで、徳川家康の家来、本多忠勝の槍である蜻蛉切のようだ。
天下三槍と呼ばれる名槍の一つでトンボが穂先に止まったら真っ二つになったらしい。
嘘か本当かは知らないが、それだけの曰くが付く程の凄みを感じるのだ。
「うん・・・これだ。槍ならこれしかない。惚れたぞ!」
そう言って案内人に言うと彼は驚愕の表情でこういった。
「そ、その槍は遥か昔に建国王が愛用した槍です。伝承によるとどんなに硬い鱗でも貫いたと言われております・・・!」
おぉ・・・本当に蜻蛉切みたいな切れ味らしい。
森の中では使い勝手は悪いだろうが、開けた場所なら近づけさせないまま戦うことが出来るだろう。
礼を言って槍をポーチにしまった。
さて・・・名槍もらっちゃったが・・・一本だけしか選ばないとなると怒られそうだな。
もう一つ・・・折れたポールアクスの代わりがあるといいが。
最もボリュームが多い槍ゾーンを抜けて、斧のコーナーに行く。
たまに手に取ったりしながら見ていくと、さっきの槍程ではないが、かなり良さそうな2本の両手斧を見つけた。
一本は斧刃と鎚部を持つポールアックス。装飾も無い無骨な作りだが、作りがしっかりしていて丈夫そうだ。何かの骨を使っているらしく、柄の部分が吸い付くような握り心地なのも良い。
もう一本はなんと方天戟。
三国志の武将、呂布で有名だよな。
オレはゲームで知っただけだから本当の事かどうかは知らないけれど・・・。
月牙と呼ばれる月型の刃が左右に、先端は突起になっていて突き刺せるようだ。
こちらは鍔元に竜の装飾が施されていてとても美しい。
しばらく、2本を手に悩んだ末に方天戟を選んだ。
ポールアックスはティアマトから良い武器を作ってもらえる可能性が高い。
おやっさんに任せるとしよう。
選んだ武器を王に報告すると、槍を見て驚いた顔をしたが特に何も言わずに頷いただけだった。
王は七支刀を使うらしいからな・・・あれ呪具かなにかオレでも魔力を感じる位強烈だ。
王の指示で竜人族の戦士達が5人がかりで横たわるティアマトの首を落とした。
相当な硬さを誇る鱗を断ち切れずに苦労していたが、1時間程かけて何とか落としていた。
落とした首を慎重に運ぶ彼らを他所に首から下をポーチに収納すると、彼らから離れた場所で煙草に火を点けた。
王と姫、戦友となった戦士達にも挨拶をしておくか。
城の中を歩きながら、別れの挨拶をしていく。
誰もがまた来いと言ってくれるのが嬉しい。
おう、味噌を買いにまたくるとも。
最後にヴィと王に挨拶したところ、引き止めにあって危うくもう一泊しそうになったので逃げるように玉座の間を去った。
よぅし!さっさと帰ってカリン達を安心させてやらな・・・あ。
依頼があったの忘れてたぁぁ!!
慌てて城に逆戻り。
ヴィに大毒蛙の事を聞くと、申し訳無さそうに謝られた。
「申し訳ありません。私達の都合で貴方の仕事が終わらないなど・・・でも安心してくださいまし。大毒蛙ならば生息場所を存じておりますゆえ、案内いたしますわ」
「すまない、助かるよ」
「いえ、貴方が謝ることなど!では私が案内致しますね」
そう言うとなにやら嬉しそうに先導し始めた。
入ってきた街の門から出ると、門番達に挨拶をしつつ洞窟を歩く。
洞窟を出てしばらく歩くと、小さな池があった。
釣りをした池とは違うようだ・・・知らない池だな。
「ここに生息しています。蛙達は水気が無い場所では生きていかないですから、雨の日以外はここでじっとしている事が多いのですよ」
おぉ・・・これはこの先同じ依頼を受ける事があってもここに来れば良いな!
「ヴィ、ありがとう!早速狩っていくとするよ」
「はい・・・名残惜しいですが、私はここまで。ユウ様、どうかお元気で。貴方ならばいつでも歓迎致しますゆえ、いつでもお訪ねくださいね」
「必ず行くよ。ヴィ、良い経験をさせてもらった。またな!」
そう言って握手した後、ヴィは何度も振り返りながら帰っていった。
ヴィの姿が森の中に消えていくのを確認した後で、池に振り返る。
「待たせたな。もういいぜ?」
言うが早いか池から次々と紫色の舌先が飛び出してくる。
視界に入る数は・・・10匹ってとこか?
「ハッ!これで蛙に負けたら笑い者だよ、な!」
池から離れるようにバックステップしながらもらったばかりの長槍を一薙ぎ。
水面を撫でるように払われた槍先が舌を一斉に切り払っていく。
蛙の叫び声なのか鳴き声なのかゲコゲコ言う声と共に慣性に従ってこちらに飛んでくる切れた舌先をあおのままポーチに収納していく。
「いっちょ上がり~っと。悪いな蛙君。あばよ~!」
そのままトドメを差すことなく街に向かって走りだした。




