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 集まって作戦会議を行う。

情報は出来るだけ全員で共有しておいた方が良い、というオレの主張だ。

彼らとは連携慣れしていないというのもあって、戦士長は頷いた。


地面に図を描いて説明する。

ズー・ラサが時々補佐してくれる中、戦う場所、状況、黒竜の状態、刺さった槍。

出来る限り説明し、戦士長を見た。

戦士長は黒い竜など聞いたこともないという。

老師を見ると、片手で顎の辺りを撫でながら首を振った。

彼も知らないらしい・・・。

オレは魔物大図鑑を取り出した。

竜のページを捲ると、火竜や水竜などに混じって黒竜も載っていた。

使えるな・・・この図鑑。

人の文字が読めない彼らに内容を説明していく。


黒い鱗は黒竜か邪竜の特徴。

尻尾の先端に凶悪な刺を持つのは邪竜。

相手は邪竜と呼ばれる竜らしい。

特徴は、尻尾に猛毒、爪に麻痺、吐息は疫病と近接戦闘を主とする彼らにとっては最悪の相性だ。

図鑑の最後には近接厳禁と書かれていた・・・。


戦士長が腕を組んで唸った。

彼らも沈黙している。

なんとも言えない空気になったが、ヴィが手を叩いた。


「妾が治療に専念しましょう。老師の魔術で攻撃、貴方達は防御に徹するのです。聞くに、回り込む隙間はあるのでしょう?でしたら前後から挟み込んで気を散らせるのです」


皆が感心したような顔になった。

なるほど、麻痺や猛毒は防御に徹することで防げるだろう。

だが、問題は


「ブレスはどうする?盾では防げそうにないが」


「人族の書物によれば、吐息は疫病なのでしょう?でしたら、妾が結界を張りましょう。ずっと張ることは出来ませぬが、吐息を使う仕草を感じたら集まるのです」


ふむ、なるほど。


「正面に二人、補佐と交代の為に左右に二人、後ろに二人でどうだろう?」


「それが良いだろう。大盾を持つ私と大力のガァ・グが正面に、我々の後ろに姫様と老師。左右の補佐はバル、ザルの兄弟に。後ろはグァル、それから人族の戦士ユウ」


全員が頷いた。

弱点は光属性らしいが、老師は火と風、闇。

ヴィが回復系と結界系らしい。

なんとも役割が分かりやすいものだが、他は全員戦士である。



 竜に早い段階で感付かれないように慎重に進む。

気配を出来るだけ殺して壁際を歩き、ソロソロと眠る竜の横を通ってグァルとオレは後ろに抜けた。

それを見た戦士長が頷くと、老師が小声で詠唱を始めた。

大斧と大盾を構えた力自慢のガァ・ガが眠る竜の顔面に向かって思い切り、大斧を振りかぶって叩きつけた瞬間。


「グガァァァァァァァァァァ!!!」


邪竜はガァ・ガが思わず吹き飛ぶ程の衝撃波を伴う咆哮を上げた。

勢い良く起き上がると4枚の翼を広げて尻尾を一振り。

唸り声を上げながら正面に立つ4人の竜人族を睨みつけた。


「虫ケラ共がぁ・・・竜たる我に歯向かうかァッ!」


「邪竜よ!ここから去れ!去れば追わぬぞ!」


大盾を構えながら戦士長が堂々と叫び返した。

巨大な竜に正面きって啖呵をきるとは大した胆力だ・・・!


「バァカ者どもがァ!大人しく我の贄となれば良いものをォ!一匹残らず喰ろうてくれるわァ!」


話が出来る程度の知性はあるようだが・・・どうにも傲慢で頭が悪そうだな。

彼らの戦いだからと見ていたが、そろそろあの口を閉じさせたい。


「お前に名前はあるのか?名前もない子竜が調子に乗っているだけなら、ほれ。今なら許してやるからさっさと帰れ」


後ろから声をかけてやると、竜は勢いよく振り向いた。

轟音と共に振るわれる尻尾を大きく避けながら、竜の顔を見つめる。


「トカゲ共だけでなくサルまでいるとはァ!我を子竜と侮るとは許しがたしィ!我が名はティアマトォ!畏れを知らぬ虫ケラ共がァ!我が名にひれ伏せェイ!」


何か言い返そうと口を開いた途端に、竜の横っ面に燃え盛る炎の槍が突き刺さる。

老師の魔術が発動したらしい。

怒りに老師の方、オレたちが想定する正面へと向いた隙に足元から後ろ足を思いっきりメイスで殴りつけた。


ガァァァァン!


いってぇ!!まるで鋼を殴っているようだ。

こりゃ堅ぇな!

腕力Sで全力で殴った為か、メイスがたったの一撃で折れ曲がってしまった。

振るわれる尻尾を避けながら殴りつけた場所を執拗に攻撃していく。

ポールアクス、槍、剣。

次々と持ち替えながら全力で攻撃していくが、何とか鱗が一枚剥がれた位だ。

打撃系はほぼ通らず、ピンポイントを集中攻撃してこれだ。

流石はドラゴンってとこかよ・・・!


「グゥ!なんたる硬さ・・・」


グァルも先程から友の槍で攻撃しつつげているが、全く効いた気配がない。

足元に向けて巨大な剣山の如き尻尾が振るわれるのに合わせて一旦距離を取る。

予想以上の硬さに、序盤で既にメイスと槍、剣が使い物にならない。

硬さには定評のある黒鉄鋼製だぞこれ・・・!


諦め悪く尻尾を避けながら後ろ足を攻撃していると、ふと視界に槍が映った。

どうしてあの槍は刺さっているんだ・・・?

もしかして・・・?


思いついたら即行動と行きたいが、流石に持ち場を離れるわけにはいかない。

チラチラと槍を見ながら尻尾を避けていく。

折れた槍、通じない攻撃、砕けた尻尾の棘・・・。


「棘・・・?まさか!」


何度目かの龍尾を避けながら持ち替えた大剣を思い切り振った。


「おぉ!」


思わずグァルから感嘆の声が上がる。

大剣の一撃が竜の尾にある毒棘を切り払った。

これで・・・麻痺毒らしき液体にヌラヌラと光る棘を素早く拾うと穂先が折れた槍に固定する。

急ぎ仕事だから見栄えは最悪だが・・・これならどうだ!


それを後ろ足の小さな傷口に思い切り突き刺した。


「グァァァァ!」


「よし!効いてるな・・・!グァル!こいつを使え!」


即席のドラゴンスピアを投げ渡すと、手持ちで一番攻撃力が高い黒の槍を取り出した。

そのままタイミングを図る。


このままじゃジリ貧だ・・・ならば!

尻尾が風を裂いて薙ぎ払われるのを避けつつ、壁に向かって走る。


「行っけぇッ!」


そのまま三角飛びに飛び上がって、竜の背に着地した。

揺れる竜の背に踏ん張りながら突き刺さった槍まで移動していく。


「サルがァッ!我が背に乗るとは何事カァ!」


流石に背中に乗られるのは不愉快だったのか吠える竜。

おー、おー怒ってるねぇ。

少しでも柔らかい場所を探して黒の槍を辺り構わず突き刺しまくる。

強靭な鱗は黒の槍を跳ね返し続けたが、ある場所だけがザックリと竜の鱗を貫いて突き刺さった。


「グァァァァ!?前に来たトカゲが刺していったモノかァ!」


国最強の戦士ジャ・ギィルが戦った証。

彼の槍は国に持ち帰られたところを見るに、仲間の槍で突いたものか。

手が届く箇所は硬すぎて通らなかったことから必死に弱点を探ったのだろう。


「会ったことは無かったが・・・あんた大した男だよ・・・敵は討つぜ。くたばりやがれぇぇ!」


スローターの範囲攻撃を得意とする特徴が遺憾なく発揮された。

折れた槍の周りを黒の槍で突き刺す、と同時に周囲に衝撃波を飛ばしてズタズタに切り裂いていく。

後で思い返すとその場所が・・・竜の弱点、逆鱗であったのだろう。

ダメージが通ると分かれば後は無我夢中だった。

当たるを幸い、突いて斬りまくった。


吹き出す血が体にかかる。

体が・・・熱い!竜の血のせいか?


「オノレェッ!!我が肉体に傷を負わせおってェェ!」


怒り狂うティアマトが滅茶苦茶な動きで体を振り回す。


「ぬぉ・・・」


足場が悪すぎて、立っていられずに突き刺した相棒に捕まって耐える。


「ユウ!そこをどけぇ!」


聞こえてきた声に顔を上げると、槍を構えたグァル・ガ。

視線を転じれば、見つかった弱点に一斉攻撃しようと、詠唱する老師にボロボロになった槍を構える戦士長、鉄屑と化した大盾を捨てて両手で大斧を構えるガァ・グ。

何度も結界を張ったのか、杖により掛かるようにして立つヴィ。


彼らの意を組んで跳躍した。

暴れる背中から殆ど転げ落ちるように飛んだはいいが、壁に思い切り衝突した。


目の前に火花が飛んだ気がしたが、頭を振って急いで離れた。

手にはしっかりと頼もしい武器の感触がある。

相棒はどうやら手放していないようだ。

よし、まだ戦える。

頭から汗が吹き出しているのか、しきりにたれてくる汗を拭いながらその場で膝立ち。

持ち替えた長弓で弱点を射った。

威力が出る長弓を思い切り射っている内に弦が切れたので装備変更。

投槍に持ち帰るとオークが持っていた錆びた槍を投げまくる。

何度か逃げ出そうとしたのか、翼を開いて飛び上がろうとしたが、その度に翼を攻撃した。

余力の無いオレたちはあらゆる妨害を行って絶対に逃さなかった。

逃げられたら次は勝てないかもしれない・・・!


全員が満身創痍になっても武器を振り続けた。

途中で誰かが吹き飛んだり、叩きつけられたりするのを視界に捉えながら歯を食いしばって戦った。



そして・・・数時間とも数分とも取れる激闘の末、竜が断末魔の叫びを上げながら倒れ伏した時には、もはや倒れそうな体を叱咤しながら弱点を狙う事しか考えていなかった。



「お・・・のレェ・・・この・・・我がトカゲ共・・・なんゾにィ・・・!」


強烈な地響きを立てて倒れ伏した竜を見た時にようやく我に返った。

ドクンドクンと心臓の音が煩い。

戦士長が拾ったであろう折れて柄が短くなった槍で倒れ伏すティアマトをつつくが反応が無い事にようやく確信したらしい。

顔を上げて、全員の顔を見渡した。


人数が少ない・・・見回すと、骨の山に突っ込んで動かない者や、首から先を失って死んでいる者がいた。

ちくしょう!バルとザルの兄弟か・・・。


隣りを見ると、尾が掠ったのか血塗れになった腕に適当に巻いた布切れが痛々しいグァル・ガが呆然と立っていた。


念の為に槍で弱点を突き刺し、反応が無い事を確認してようやく息をついた。

どうやらまだ信じられないという顔のヴィに頷くことで答える。


「ひどい顔だなぁグァル」


煙草を咥えてグァル・ガを笑ってやると、彼もようやく現実を認識したのかこっちを見て強張らせたまま苦笑した。

よく見ると膝が笑っている。

どうやら根性で戦っていたらしい・・・麻痺毒も回っているだろうに大した野郎だ。

共に戦ったからか、彼を戦友のように感じられる自分が居た。

背中を預けるに足る男・・・。


「・・・お互い様だ。・・・血塗れだ」


そう言って顔を指さしてきた。

これは汗だ、と言って拭ったら赤かった。

攻撃は喰らってないはずだから、竜の背中からジャンプした時に出来た傷だろう。

頭を触ると血が固まりかけているのかベタベタとしていて、痛みを感じる辺りがボッコリとたんこぶになっている。


治療は後にするとして、とりあえず拳を上げた。

不思議そうに首を傾げるグァル・ガに同じようにするよう伝えると、不思議そうな顔のまま拳を上げた。

その拳にゴツっと拳をぶつけて叫んだ。


「オレたちは・・・竜殺しになった・・・オレたちは・・・勝ったぞぉぉ!!」


一瞬、呆然としていた全員が驚いた表情になった後、それぞれが喜びに溢れた。

振るえる手で煙草を咥えて火を点ける。

彼らの顔を見れば全員が薄汚れた顔で、目を輝かせて喜んでいた。


「おぉ・・・敵を・・・取ったぞぉ!!」


「竜を・・・オレたちが倒したんだ!倒したんだ!」


「ヒョッヒョ!やれやれ・・・まさか生きて帰れるとはのぅ」


「良かった・・・バルとザルは残念ですが・・・大勝利と言っていいでしょう!」


戦闘中は常に冷静だった戦士長までもが、飛び上がって喜んでいるのを見て紫煙を吐き出した。

いつの間にか座り込んでいたらしい。

膝に手をやって立ち上がる。

ちょっと辛いが座ったままじゃ格好悪いからな。


「フゥー・・・これにて依頼完了、だな」


戦士長達に告げてからアイテムポーチに戦士達の亡骸と竜の遺骸を収納したところでヴィに捕まり、しっかりと治療された。

ついでに突然背中に乗るなんて何を考えているのかと説教もいただく。

それを見て全員が笑っているのを見て、肩を竦める。

最後にはなぜか全員で大笑いした。

犠牲はあったが、竜を相手というのを考えれば賞賛に値する大勝利である。

勿論、全員が彼らの死を悲しんでいたが、




〘職業レベルが上がりました。職業レベルは上限に達しました。上位職への転職が可能です。称号:竜殺しを新規取得しました。竜の血を浴びた事により再生スキルを新規取得しました〙



え?


なんか一気に色々とインフォが流れたが頭が回らない。

後でカリン達とでも神殿に行ってみ・・・



あ・・・連絡するの忘れてた・・・



カリン達怒ってる、よなぁ。

ようやく竜討伐が終わりました。

一番苦労したのが彼らの名前という(笑)

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