9
飯田さんをおんぶして佐藤さんのホームに転移した。
「ただいま。」
「おかえりなさい!七菜ちゃんようこそ!」
「七菜、うぷぷ。」
「大和さん、この格好はちょっと恥ずかしいので降ろしてください。」
うーん。正直に言って真中さんの時には感じられなかった膨らみが感じられて名残惜しいのだが、仕方ない。降ろしてあげよう。
ゆっくりとしゃがみ込み、飯田さんを床に降ろした。
「美咲。今、大和は七菜の感触を堪能していた。浮気だ、浮気。」
「ちょっと真中さん!濡れ衣だよ!!」
「鼻の下が伸びてた。ギルティ。」
「冤罪だ!」
「ふふふっ、雪さんと大和さんは随分と仲良くなったのですね。」
真中さんと言い争っていたら飯田さんに笑われてしまった。
「でも何だか安心しました。森の中で一人の時は本当に心細かったです。大和さん、ありがとうございます。」
「美咲さんに助けてあげてって言われて行っただけだから、感謝なら美咲さんで。」
「その美咲さんも大和さんに助けられたのですよね。」
「真中さんはモンスターに襲われていたから助けたけど、美咲さんは助けたのとは違うかな。ただ合流しただけ。」
「心の問題ですよ。心細かったところに来てくれたおかげで救われたと思うのです。そうですよね?美咲さん?」
「うん。大和君ありがとうー。」
俺がしたのは勝手に押し掛けて告白しただけ。それに対してありがとうと言ってくれたということは、もしかして脈あり!?
って、それは拡大解釈が過ぎるな。でもこんな状況だから、頼りになるところを見せていけば可能性はあるはず。
「それで、お二人はお付き合いされているのですか?」
おお、飯田さん、ストレートに聞いてきますね。
「なぜそう思うの?」
「時間的に見ても、大和さんは何を置いても最初に美咲さんと合流したのだろうと思いました。なので私の知らぬうちにお付き合いしていたのだと思いました。違うのですか?」
「うん。元の世界では付き合うどころかまともに話したことも無い。けど好きだから最初の合流相手に選んで、合流直後に告白はしたけど、返事は貰ってない。」
「告白はされたのですか。そうですか。それは色々と考えなければいけませんね。」
「あれ?何か拙かった?」
「拙くはないですが、お付き合いすることになれば二人っきりの時間も欲しくなるでしょう。そうなると追い出されてしまうかもしれないですから。」
「追い出したりしないよ。今まで遠くで見ているだけで満足だったんだから、俺は一緒にいられるだけで全然平気。」
「そうですか。でも少し女子だけでお話ししてもいいですか?」
「もちろん。俺は外で周辺を探索してくるよ。」
女子だけでお話がしたいという要望に応えて、美咲さんに扉を開けてもらい外に出た。
森を探索しようと思ったが、下手に動くと迷子になりそうだ。よし、対策スキルを取得しよう。
====================
スキル名:鳥瞰図
発動条件:「マップウィンドウ」と発声する。
発動対象:自身。
スキル効果:スキル使用者の手の平に情報ウィンドウを開く。持続時間10分間。
ウィンドウに対象を中心とした航空写真風の地図が表示される。
スワイプ、ピンチイン、ピンチアウトの指動作で
地図の表示範囲移動・拡大・縮小の操作が可能。
広角最大中心より5kmの距離まで表示可能。
スキル使用者がマーキングスキルを持つ場合、地図上のマーキング
対象が存在する位置に番号が表示される。
消費リソース:MP(5ポイント/1回)。
消費ボーナスポイント:20
====================
スキル名【鳥瞰図】。なんと、【ボーナスポイント計算】と同じボーナスポイント20ポイント消費で俺の持つスキルの中で最高コストとなった。無駄使い感は否めないが、森を探索するに当たっては必須のスキルだと思ったので勇気を持って取得した。
森だと思っていたが、結構起伏もあって、山なのかもしれない。俺を中心に5km先まで表示できるが、表示できる範囲全て木々で覆われた森、もしくは山のようだ。
早歩きだと時速4km位らしいが、森だと足場が悪くて早歩きなんてできないし、木々があるから真っ直ぐ歩くことも出来ないだろう。時速1km位と考えよう。そうするとこの地図の外まで行くのに5時間位かかるのか。途中でモンスターとも遭遇するだろうし、もっと掛かるかも。どの方向に行けば良いかも分からないし、これは森から出ようと思うと大変そうだ。
スキルのお陰で俺はかなり強いと思う。モンスターと遭遇しても一対一なら負けないだろう。一対多でも転移で逃げられる。課題は多対多だな。仲間を守るスキルに乏しく、殲滅速度も低い。慢心はできないな。
【鳥瞰図】を見ながら適当に周囲を探索する。木の種類など見ただけでは分からないが、何となく元の世界とは違う物だと分かる。木の実が成っている木も見かけるのだが、見たことも無い実が多い。食べられるのか分からない。勇気を持って食べてみるしかないのだろうか。とりあえず【マーキング】だけしておこう。
しばらくしてモンスターを発見した。巨大なミミズ。地面から出てきたのだろうか。近くの地面に穴が空いており、ミミズは地面でウネウネと動き続けている。体長が3mくらいありそうだ。
動きに秩序は感じられないので、これは近付かなければ問題無い気がする。だが折角だから戦ってみよう。
「【マーキング】、20番。」
「【ロックオン】、20番。」
「【自滅スキル発動】。」
おお!ミミズの動きが弱弱しくなった!
【自滅】スキルはHP、MP、SPをゼロにするスキルだ。これだけで瀕死に近いところまで追い込める。だがこれだけでは死なないようだ。止めは自分の手で刺すしかない。
持っている武器は真中さんを襲っていた人型モンスターから奪った棍棒だけ。ミミズに近付き棍棒で殴ってみる。動きが更に弱まった。
倒せると確信し、何度も殴ると完全に動かなくなった。
「ミミズを食べる気にはならないな。」
思わず独り言を呟いた。探索を初めて最初の獲物が大きなミミズというのは何だか残念な気がする。食べようと思わないし、大き過ぎて持ち帰るのも大変だから置いて行こう。
できれば食べられそうな獲物を持って帰りたかったが、何が食べられるか分からないという致命的な問題があることを認識した。そろそろ女子だけの話し合いも終わっただろうし、一旦戻ろう。