78
「キャアッ!」
悲鳴が起こる。転移のあるあるだな。
玉田さんをターゲットに転移したら、突然現れた俺に驚いて悲鳴をあげられたのだ。
無視して冷静に雪さんをその場に下ろす。
「後は頼んだ。俺は少し離れたところで待ってる。」
それだけ言って大樹の枝で雨が避けられるところを見つけて移動する。
雪さんが説明する声が聞こえてくる。
「今のは大和のスキルの一つで転移。おんぶか抱っこして貰えば一緒に跳べる。」
「そ、そう。凄いスキルを持っているんだね。」
「これ。雨で大変だろうからお裾分け。これは貸すだけ。こっちはあげる。」
貸すだけなのは煮炊き用の魔道具。雨で薪も手に入らないだろうから、うどんの調理用に持ってきたのだ。
「これ全部どこで手に入れたの!?」
「鍋と調味料とペットボトルは七菜のスキルで創った。うどんと魔道具は大和が街に転移して買ってきた。」
「七菜さんは物を作るスキルなの!?それよりも大和君は街に行けるの!?」
驚いているようだ。
そうだ。ここからなら玉田さん以外も見えるぞ。
「【マーキング】、33番。【マーキング】、34番。【マーキング】、35番。【マーキング】、97番。」
33~35番:中村さん、波多野さん、高橋さん、97番:玉田さんたちの拠点の大木。
覚えるの大変。ほとんど転移ポイントとしてしか使ってないから【鳥瞰図】で確認してから跳べばいいんだけどね。
俺が【マーキング】している間にも玉田さんたちの驚愕の声が聞こえていた。俺たちと自分たちの生活水準の違いに驚愕しているようだった。
ざっくりとした説明を終えた雪さんはマイペースに魔道具で火を点けて調理を開始する。雪さんが調理している間に玉田さんが俺の元へとやってきた。
「さっきは大和君を追い返すような真似をしてごめんなさい。」
「いや、いいよ。何かあったんでしょう。俺もこの世界に来てから男子が女子を襲うような真似をしたって話を2つは聞いてるから。警戒するのは当然だよ。」
「未遂だけど波多野さんが襲われそうになったの。それと、私も他の子も仲間になれってしつこく勧誘されたわ。」
「湾藤が言っていた川沿いにあるもう一つのグループって奴かな。」
「多分そう。今は10人くらいいると思う。女子もいるんだけど、酷い扱いを受けているみたいなの。」
「そうか。助けてあげたいところだけど、クラスメイトの男子と全面戦争するわけにもいかないし難しいな。」
「うん。それに少し変なのよ。そのグループに青柳さんがいるんだけど、まともに会話できなくなっていたの。他にもそんな子がいるみたい。あのグループはおかしいわ。近付かない方が良いと思うの。」
「青柳さんが?それはおかしいな。俺のスキルで偶然だけど、青柳さんが死んでいることを知ったんだ。あれは華さんと合流した日だから4日目の夜。5日くらい前には死んでいたはずだけど。」
「死んだなんて、そんなはずない。昨日も青柳さんが動いているのを見たわよ。」
「そうか。なら俺のスキルが間違っていたのかもしれない。」
そんなはずはないが、今は生きていることにした方が波風は立たない。だがどういうことだろう。死者を蘇生するスキルを取得した奴がいるのか、それとも死体を操るスキルを取得した奴がいるのか。青柳さんの様子がおかしいという話だし、後者が濃厚か。あまり望ましくない話だ。
「でも、そんなことがあったなら男を警戒するのは当たり前だよ。俺は玉田さんに追い返されたのを当然だと思っているから、気にしないで。」
「理解してくれてありがとう。」
「あまり思い出したくないかもしれないけど、そのグループには他に何人の女子がいるの?」
「青柳さんの他に、福村さん、志村さん、林さん。」
「あれ。これで女子は全員の居場所が分かったかも。俺のところに、佐藤さん、真中さん、飯田さん、ソフィアさん、華さん、甘野さん、井家田さんの7人と、今日合流したのが水上さんと日下部さん。ここに4人いて、そのグループに4人。あと小田さんも分かっているから、全部で18人。これで全員だよね?」
「そうね、女子は18人よ。全員生きてたんだ。良かった。」
残念ながら青柳さんは死んでるかもしれないが、今言うべきことではないだろう。
「男子はまだだな。そのグループは10人くらいって話だけど、男は6人ってことかな?」
「多分そう。でも男子は見かけたら逃げるようにしているから正確には分からないわ。」
俺、戸田君、橋基君、湾藤と東、西東と田辺と板野、それとそのグループの6人か。全部で14人。男子も18人なので、あと4人が行方不明だな。
「今日合流したことで俺の所が最大人数になったのか。」
「それで、あの、図々しいとは思うけれど、私たちも合流させて貰えないかな?さっきは追い返すような真似をしたのに、大和君達の生活ぶりを知ってから言い出すなんて恥知らずなことを言っているのは分かっているんだけれど、他の子だけでもお願い。」
「もちろんいいんだけどね。俺は絶対に変なことはしないと誓うけど、他の男子も大丈夫とは断言できない。前科のある奴もいるし、今日合流して良く知らない奴もいるんだ。可能な限りは守るけど、俺しか行けないところが多いから俺は外での活動が多くてね。いない時間までは保証できない。」
「うん。分かってる。でも私たちを入れると女子が13人になるんでしょう?それだけいれば自分たちで守れる気がする。男子は何人?」
「えっと、3+2+3で8人。」
「大和君を除けば7人ね。大和君が女子の味方をしてくれるならこっちは14人。倍の人数なら大丈夫だと思うの。」
「随分と俺を信用してくれるんだね。」
「真中さんが大和君は絶対に大丈夫って言ってたし、私たちと違って大和君は余裕があるみたいだから。私たちだって元の教室でならクラスメイトに襲われるなんて考えなかったよ。でも環境が人を変えちゃうんだね。いつ死ぬか分からないとなったら犯罪だろうとやりたいことをする人が出てくるってことだよね。でも大和君はそんな感じが無くて余裕を感じるの。」
「余裕か。確かに。俺はモンスターにやられる気はしないし、街にも行けるし、誰よりも余裕があるかも。みんなが大変な中で俺だけ狡いのかな。」
「その余裕を人助けに使っているんだから、大和君は偉いよ。」
「そう言って貰えると嬉しいけど、後から知って軽蔑されるのも嫌だから先に話しておくね。ああ、向こうのみんなにも話したいんだけど、近付いてもいいかな?」
「うん。大丈夫。」




