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街へ跳び、燃料となる物を調達するために店を巡る。
いつもなら乾物屋の店主に聞きに行くところだが、小田さんに会いたくないのだ。夕方迎えに行かないといけないのが憂鬱だ。
適当な店に入って火を焚く燃料はどこに売っているかと尋ねると、魔石屋か魔道具屋に行けとのことだった。魔道具屋。そんなものがあるのか。牛が喋るに継ぐファンタジーに遭遇できるかも。
魔道具屋の場所を聞いて回りやっとのことで見つけた。壺の絵が描かれた看板の店だった。てっきり陶器屋だと思ったよ。分かりにくいなあ。
中に入ると、壺が並んでいた。やっぱり陶器屋?
店主に声を掛ける。
「その壺は普通の壺か?」
「うん?水瓶だよ。」
「水瓶というと、水を中に入れておく物でいいのか?」
「魔石を入れると水が湧く水瓶だよ。お前の家にも置いているだろう?」
置いてない。というか、家が無い。
「うん?お前、変な格好しているな。何処の出身だ?」
ああ。制服に着替えたんだった。いや、迷彩服でも十分変だから同じか。
「この街の出身ではない。すまないが基礎的なことから教えてくれないか?」
「金はあるのか?」
「数万円なら出せる。」
「一番小さい水瓶なら3万円だ。」
「中に魔石を入れると言っていただろう。それは幾らだ?」
「小さい水瓶なら屑魔石でいいから100円だな。」
「それでずっと使えるのか?魔石を入れると水が瓶に溜まるんだろう?」
「屑魔石1個で5~6回分だ。」
「魔石ってのは何処で手に入るんだ?」
「うちでも買えるが、良い物は魔石屋に行くと良い。」
「自分で手に入れることは出来ないのか?」
「モンスターを狩れる腕があるなら自分で集められるだろうよ。」
「モンスターの体内から取れるのか。まあいいや。部屋を温めるのに使える魔道具はあるか?」
「あれだな。」
店主が指差したのは魔法陣らしき模様が描かれている円形の平皿だ。
「使い方は?」
「皿に魔石を載せるだけだ。」
「幾らだ?」
「小さいほうが1万円。煮炊き用だな。大きいのが3万円。部屋を温めるならこっちだな。」
「魔石を載せたら火が点くんだろう?消すにはどうしたらいい?」
「魔石を退けろよ。」
「熱いだろう?」
「素手でやる馬鹿がいるか。棒でも何でもいいから魔石を退かせ。」
「専用の道具は無いのか。」
「そんなもん要らねえだろう。」
「そうか?まあいい。これは煙は出るのか?」
「上に何かを載せて燃やせば出るさ。魔道具の火だけなら出ない。」
「分かった。大きい方を2枚と小さい方を1枚くれ。それと魔石も欲しい。」
「魔道具が7万円だ。魔石は屑魔石で良いか?火が弱い時は何個も入れればいい。何個くらい必要だ?」
「1万円分頼む。」
火を出す皿3枚と屑魔石を買い込み、全部で8万円を支払った。
散財したなぁ。いつか服を買いたい。
拠点に戻って魔道具を披露する。
みんなファンタジーな道具に興味津々だ。皿に黒い石を砕いた破片のような屑魔石を載せると、それだけで火が出る。屑魔石を皿から退かせば火が消えて、再び載せれば火が点く。屑魔石を載せた個数で火力が変わる。実に面白い。
煮炊き用は石で囲って台にして、その上に鍋やフライパンを置く。焚火よりも火加減が調整しやすいと七菜さんも喜んでいた。煙も出ないしこれは良い物だ。8万円も散財したが、金稼ぎの立役者である七菜さんは良い買い物だと言ってくれたから問題無いだろう。
続いて雪さんと二人で玉田さんの所に行く。
鍋を持った雪さんを御姫様だっこ。
「これは恥ずかしい。」
雪さんの声が近距離から聞こえてくる。俺も恥ずかしくて雪さんの顔を見られない。
「じゃあ行くよ。」
「待って。この姿を玉田たちに見られる?」
「見られるね。転移するには必要なんだって、雪さんから説明してよ。」
「できれば少し離れた所へ。」
「ごめん。玉田さんしか【マーキング】してないんだ。」
「仕方ない。すぅー、はぁー。覚悟を決めた。」
雪さんが深く吸って吐いた息が首筋に当たって、俺の方の覚悟が揺らぐ。
「大和。行って。」
動揺を隠さねば。
「分かった。行くよ。【トランスポート】、32番。」
視界が変わる。




