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玉田さんと別れて拠点に転移すると、直ぐに七菜さんが駆け寄ってくれた。



「大和さん、ずぶ濡れですね。これを使ってください。」



七菜さんが用意してくれたタオルを受け取る。



「服も着替えないと。ホームに美咲さんが入っていますから、制服に着替えてください。シャワーも浴びてください。」


「シャワーを浴びるとみんながトイレを使えなくなるからいいよ。」


「駄目です。大和さんが倒れたら私たちの命に関わります。絶対に入ってください。」


「そこまで言うなら分かったよ。」



タオルはシャワー後に使わせてもらおう。ホームに入って美咲さんに声を掛ける。



「ただいま。」


「大和君!ずぶ濡れじゃない!」


「うん、今、七菜さんにシャワーを浴びろと言われたよ。」


「そうだね!直ぐに入ってよ!私、準備するね!」



美咲さんはそう言うとトイレ兼シャワー室に入っていった。便座をどけたりだとかの準備をしてくれるらしい。俺も靴を脱ぎ、折りたたんで廊下の隅に置いていた制服を拾ってからシャワー室に向かう。


中に入ると美咲さんは既に準備を終えていた。



「脱いだものはこの辺に置いておいてね。後で片付けるから。」


「うん。ありがとう。玉田さんたちだけど。」


「緊急事態?」


「いや、雨は凌げていたから緊急ではない。」


「だったら後にしよう。七菜ちゃんも呼んでおくから後で一緒に聞くよ。」


「分かった。」



俺って大切にされているな。

今は七菜さんと美咲さんだったが、雪さんだって俺のことを大切に思ってくれている。一人で雨に打たれながらの探索は辛かったが、こういう思いを感じただけで報われたと感じるよな。元々3人は仲が良いし、3人まとめて俺と一緒になって欲しくなる。だんだんハーレム案に魅かれてきているなぁ。


美咲さんが準備してくれたシャワーを浴びて、七菜さんが準備してくれたタオルで体を拭き、制服に着替えた。ホームの廊下に出ると、美咲さん、雪さん、七菜さんの3人が待っていた。



「シャワーありがとう。体が温まったよ。」


「体調が悪くなったりしてない?」


「美咲さん。大丈夫だよ。」



この世界の仕組みはまだ分かっていないが、病気も状態異常だとしたら俺は病気にもならないはずだ。だから俺自身はそれほど心配していないのだが、みんなには心配させてしまったようだ。



俺だけ食いそびれていた昼飯を食べながら玉田さんたちの様子を報告する。



「とりあえず玉田さんたちのことだけど、見つけたよ。でも男子を信用してないという話は本当で、警戒されて近寄らせて貰えなかった。多分警戒当番だったのだと思うけど、玉田さんとしか会えなかった。でも大きな樹の洞に隠れていて雨は凌げているみたいだったよ。女子を連れていけば物資は受け取ってくれるって。あと、向こうに合流したい女子がいれば受け入れるから伝えてくれってさ。」



七菜さんは険しい顔をする。



「そこまで男子を警戒するとなると、何かあったのでしょうね。いつ、誰が誰に何をしたのか分かりませんが、酷いことがあったのでしょう。私たちの救援は遅過ぎたのかもしれません。初日から全力で救援に力を注いでいれば。」



七菜さんは随分と考えを変えてきたな。初日は冷静に自分たちが助かることを優先していたけど、戸田君を見捨てようとしたことを悔いていて、考えを変えたらしい。だが過去を悔いてもしょうがない。



「あの時はそこまで出来なかった。ホームは廊下だけ、洞穴もなかったし、俺は街にも行けなかった。救援どころか自分たちが生活できる目途も立っていない段階で全力で救援に力を注ぐなんてできるはずなかったんだよ。今動き出したのはその環境が揃ったからだよ。」


「そうですね。すみません。」



七菜さんは精神的に若干不安定な状態だな。無理して気丈に振舞っていたせいでその反動が出ているといったところか。多分今なら怪しい宗教に引っ掛かりそう。心の支えが必要なのだろうな。



「物資を持っていくっていうのは、何が必要なのかな?」



美咲さんが聞いてきた。



「分からない。何が必要だろう?」



七菜さんが応えてくれる。



「まずは食料でしょう。うどんを鍋とセットで届ければ喜ぶのでは無いでしょうか。調味料も喜ぶと思います。それから、服や靴も用意できるといいのですが、MPが足りません。」


「うどんと鍋と調味料のセットか。鍋と調味料は後々も役に立つし喜ぶだろうね。」



続いて雪さん。



「物資を持っていくなら私が行く。もし合流する気になったら転移できる。」


「そうだね。お願いするね。」


「おんぶだと物資が持てない。あれをお願いする。」


「あれ?」


「美咲が喜んでいた。」


「わーわー雪ちゃん!何言ってるの!?」


「ああ、御姫様抱っこか。美咲さんは喜んでいたのか。」


「雪ちゃんひどいよぅ。恥ずかしいんだけど。」


「嬉しそうに自慢した美咲が悪い。大和、私もして欲しい。駄目?」


「えっと、美咲さんが良いなら。」


「何で私に聞くの?大和君の御姫様抱っこは私だけのものだなんて言わないよ?」


「俺としては言われたかったな。美咲さんが気にしてないならいいよ。」


「では今度私もお願いします。」


「七菜さんも?いいけど。そんなに良いものではないと思うけど。」


「美咲によれば間近で見つめ合う感じが「わーわーわー、雪ちゃん止めてー。」」




場がとても和んだな。むしろ緩過ぎ?

とりあえず玉田さんたちへの対応方針は決まったので、他の人たちの情報を教えてもらった。

西東たち4人はやはり夜間に降り出した雨を嫌ってこちらに来たそうだ。4人の関係性は不穏な様子で、西東が王様の様に振舞い、他3人が逆らわないように我慢しつつも不満を溜めている様子だとのことだ。西東はここに来てからも、「俺が来たからもう安心だ。守ってやるよ。」と豪語していたそうだ。七菜さんが食事を用意してあげても施しを受けて当然のように振舞っていたらしい。前回西東と会った印象でも偉そうにしていると思ったが、異世界に来て完全に調子に乗っているようだ。



「西東さんには今回だけ特別に無料だけど、次からはお金を取りますと言っておきました。」



とは七菜さんのお言葉。お怒りのようだ。西東は怒らせてはいけない人を怒らせてしまったようだ。



湾藤と東と日下部さんは最初の井家田さんへの土下座以外はとても大人しくしているそうだ。西東たちよりも衰弱具合が酷く、助けられたことにただただ恐縮しているとのこと。こちらには回復するまでは面倒を看るから安心してくださいと言ってあるそうだ。

なお、井家田さんは始め湾藤たちに怯えていたが、次第に落ち着いてきたとのこと。


そして現状の課題は、煙。洞穴の中で何個も焚火したら煙が充満するのは当たり前だ。洞穴の入り口を完全開放しているためある程度は空気が流れているが、焚火の近くは煙たいとのことだ。


そこで七菜さんからお願いされる。



「薪よりも炭の方が煙は少ないそうですし、炭でなくても街で使用している燃料は何か対策が取られているかもしれません。調べてくれませんか?」


「それは重要だね。調べてくるよ。」


「お願いします。私たちは玉田さんたちへの補給物資を準備しておきますね。」



さあて、次はまた街かあ。今日も忙しいなあ。



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