74
「おかえりなさい。」
街から戻ると美咲さんが出迎えてくれた。良い。
「ただいま。方針は決まった?」
「うん。可能な限り助けることにした。いいかな?」
「いいよ。美咲さんならそう言うと思っていたからね。またうどんだけど100食分買ってきた。それでもまだ10万円以上手元にあるから、必要な物をもう一度買いに行ってもいい。薪とかも買えるかもしれないし、街は雨が降ってなかったから街の外に出て薪になる物を集めてきてもいい。さて、何から始めようか。」
「それについても話したんだけど、先ずは洞穴で寝てた4人を温めてあげようと思うの。今はシャワーを用意しているところ。洞穴の方で焚火してシャワーから出たら温まって貰いながらご飯も作るつもり。その後は私たちも含めてホームの利用はトイレと寝る時だけにしようと思うの。」
「いいんじゃない。」
「それで、大和君にはまず他の人を見つけて連れてきて欲しいんだ。」
「了解。」
「大和君は街に行ってくれたばかりなのに、大変な役割を押し付けてごめんね。」
「美咲さんも方針決めるの大変だったでしょう?俺も面倒な役割を美咲さんに押し付けていったんだから、お互い様だよ。」
「ありがとう。それじゃあ大和君。お願いします!」
「了解!」
俺の役割は可能な限りみんなを集めること。
先ずはマーキングしてある湾藤と東だ。転移で行けるので一瞬だ。
視界が変わる。雨の降る森。木陰に木の枝や葉っぱなどを立て掛けて作った雨避け。その中に隠れるように蹲る人。
湾藤と東、もう一人いるな。
「湾藤、大丈夫か?」
俺が話しかけるとビクッと肩を震わせて顔を上げる3人。
「大和か。体が冷える。このままじゃ死ぬ。」
「そうか。じゃあ、俺たちの拠点に来いよ。雨宿りはできる。」
「近いのか?」
「一人ずつだが、転移で連れていくことができる。一瞬で着くぞ。」
「それなら最初に日下部を連れて行ってやってくれ。」
日下部まつりさん。もちろんクラスメイトで、クラスでも最小級の女子だ。雪さんも小柄だが、たぶん日下部さんの方が小さい。
「湾藤君。怖いよ。」
辛うじて聞こえた小さな声。声を発した日下部さんは湾藤を見つめている。
「大丈夫。大和は良い奴だ。」
「でも。」
「絶対に大丈夫。俺たちは前にも大和に助けられたことがあるんだ。安心していい。」
「分かった。」
うーん。トラブルの臭いがする。日下部さん、人間不信か男性不信になるような何かがあったのかな。湾藤には随分と懐いているみたいだけど、井家田さんは襲ったのに、その後に湾藤は心を入れ替えて日下部さんを助けたってことかな。
立ち上がって前に出る日下部さん。
「一緒に転移するには俺が「持つ」必要がある。おんぶか抱っこ、どっちがいい?」
俺の言葉を聞くと日下部さんは振り返って湾藤を見る。湾藤は頷くのみ。
日下部さんは振り返って俺に告げる。
「お、おんぶで。」
「了解。それじゃあ乗ってね。」
日下部さんに背を向けてしゃがむ。後ろから腕が俺の首に巻きつき、背中に体が触れる。冷たい。体が冷え切っていることが分かる。
日下部さんの足を掬い上げるようにしながら立ち上がり、片手を離す。
「行くよ。【トランスポート】、80番。」
視界が変わり、拠点の洞穴の中。少し離れたところで焚火を起こすみんなの姿が見えた。
日下部さんをおんぶしながら美咲さんに近付く。おんぶ維持はわざとだ。冷え切った日下部さんの体に少しでも体温をおすそ分けしたい。
「大和君。ありがとう。日下部さんだね。」
「うん。湾藤たちと一緒だった。湾藤たちは心を入れ替えたんだと思う。日下部さんは湾藤たちを頼っていた。この後、湾藤と東も連れてくるけど、なるべく井家田さんには近づけないようにしてあげて。」
「うん。」
日下部さんを背中から下ろすと再び転移して湾藤たちの元へ。
「送って来たよ。次はどっち?」
「東が先でいい。」
「了解。」
もう二人も勝手は分かっている。しゃがんで背中に乗せ、立ち上がって転移すると、拠点に下ろして戻ってくる。
「湾藤も行くか。でもその前に、他の人達って見かけた?もし他にも困っている人がいるなら助けたいんだけど。」
「川沿いに俺が知っているだけで他に3つグループがある。1つは10人くらい居るし洞穴を拠点にしているから大丈夫だと思う。それにあいつらには近付かない方が良い。他に女子だけのグループが一つ。人数も拠点も分からない。あとは男3人と女1人のグループが一つある。」
「最後のって西東たちかな?」
「そうだ。」
「それなら勝手に俺たちの拠点に来たから大丈夫。あとは女子だけのグループか。だいたいの場所だけでも分からないか?」
「男を警戒していて見かけると逃げるからはっきりとは分からないが、多分向こうの川から上流側に居ると思う。」
「分かった。探してみる。それじゃあ湾藤も拠点に送るよ。」
この場所を【マーキング】してから湾藤を拠点に連れていく。
そういえば日下部さんは【マーキング】し忘れたな。やっておこう。
俺が日下部さんを【マーキング】している一瞬のうちに、湾藤と東が井家田さんに土下座を始めた。
「あの時はすまなかった!この通りだ!」
「ごめんなさい!」
「嫌!近寄らないで!!」
土下座する二人と、二人に近付かれたことでプチパニックの井家田さん。カオスだ。
「湾藤君も東君も、謝ったって許されないからそういうのは止めて。井家田さんを怖がらせるだけだよ。」
美咲さんがいつになく厳しい口調で二人を制止してくれる。そうだよな。時間が解決してくれるまでとにかく井家田さんには近付かないのが正解だと思うよ。
「すまない。怖がらせるつもりは無かったんだ。」
「ごめんなさい。」
「いいから離れて。二人は向こうって言ったでしょう。」
「分かった。佐藤さんもすまない。」
「ごめんなさい。」
美咲さんが仕切ってくれているが、俺がさっき決定権を委ねたせいで責任を感じているのだろうか。あまり思いつめないで欲しいが。
とりあえず俺は湾藤の情報を元に女子だけのグループとやらを探すとしよう。
美咲さんに追いやられて隅の方で固まって焚火にあたっている湾藤、東、日下部さんの所に行く。そうそう、日下部さんの【マーキング】をしておこう。
【マーキング】を終えてから話しかけ、湾藤たちが居た場所を中心に展開した【鳥瞰図】を見せながら居そうな場所を絞っていく。
女子グループは男子をかなり警戒しているが、日下部さんとは接触があったそうだ。日下部さんも女子グループの拠点に行ったことはないが、どの様な場所かはグループに勧誘された時に聞いていた。それによれば大木の根元を拠点にしており、水が涌き出る場所が近くにあるそうだ。
これで大分絞れた。川の本流は【鳥瞰図】に映らないくらい遠くから流れてきているため、水が湧き出る場所は川に流れ込む支流の先である可能性が高い。雨で増水しているから普段なら見逃してしまうような支流も見つけやすくなっている。その状態で見ても【鳥瞰図】で確認できる支流は数えるほどしかない。よし。後は現地に行って見てみよう。




