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飯田さんはまだホームには入らず、洞穴で小さな火を焚きながら座っていた。真中さんも一緒だ。佐藤さんは少し離れたホームの扉の中に座っており、こちらを見ると手を振ってくれた。



「待っててくれてたんだね。」


「大和さんだけに任せて先に寝ることはできませんでした。事情を知らせていない私たち以外には先に寝て貰いました。」



飯田さんが代表して答えてくれた。



「3人以外はもう寝たの?」


「ええ。最初はまだ起きていると言っていましたが、慣れない環境で疲れているのでしょう。寝る体制を作ると直ぐに寝てしまいました。」


「そっか。見ての通り、鈴木華さんを見つけて連れ帰ってきた。水と芋は現地で渡して食べ終えてる。華さんのスキルは【動画見放題】。見つけた時は大スクリーンでアニメを見ていたよ。映画やドラマ、音楽とかも見ることができるらしい。動画視聴以外は出来ないみたいだけどね。」


「あのー。」


「華さん?どうしたの?」


「先に降ろして貰えるかなー、このままだと恥ずかしい。」


「それはそうだね。ごめん。」



おぶったままだった華さんを地面に下ろすと真中さんが近付いてきていた。





「ハナコ、なかなか良いスキルと聞いた。」


「うわっ、ユキンコ、何か凄い久しぶりな気がする。」



ふむ。どうやら華さんと真中さんは仲が良いらしい。お互いに渾名で呼び合っている。



「華子さん、よろしくお願いします。」



飯田さんが近付いてきて華さんに握手を求めた。華さんも応じて握手をすると、佐藤さんも駆け寄ってきた。



「私もよろしく!」



勢いよく手を差し出す佐藤さん。



「うっ、あ、うー。」



華さんは何故か佐藤さんの手を取るか悩んでいる素振りをみせる。



「ねっ!よろしく!!」



更に手を前に突き出す佐藤さん。



「私、死ぬつもりだったんだよね。」



華さんは突如として語り出した。



「このまま好きなアニメを見ながら野垂れ死ぬんだと思ってたところに突如として現われ手を差し伸べてくれた大和君に、惚れてもいいかって聞いたんだ。でも大和君は佐藤さんが好きだから駄目だって言って、振られたんだよ。佐藤さんは悪くないのは分かってるんだけど。」


「そっか。何かごめん。」



話の内容を理解して謝る佐藤さん。



「佐藤さんは悪くないんだよ。勝手に惚れて振られて嫉妬している私が悪いんだよ。大和君と佐藤さんはお似合いだもの。でも確か返事は貰ってないって大和君が言ってたよね。二人が付き合わないならチャンスがあるのかな。そこんとこどうなの?」


「うっ、あ、うー。」



今度は佐藤さんが唸り出す。

真中さんが佐藤さんの横に並び、佐藤さんの肩にポンと手を置きながら声を掛けた。



「美咲。もうはっきりさせるべき。」


「でもいいの?雪ちゃんも七菜ちゃんも。気まずくない?」



あれ?俺が振られて気まずくなるってことかな。それは確かに気まずいぞ。結構いい感じだと思っていたけど、ヤバい。振られるのか。



「現状でも十分気まずい。」


「そうですよ。はっきりして貰った方がすっきりするかもしれません。」


「でも、やっぱり無理だよ!二人も大和君が好きだって分かってるのに付き合うなんて!」



あ~、そっちね。二人からも好意を持たれている気はしてたよ。でもそれが理由で振られるのは想定外。



「私も!大和君が好き!」



華さんまで名乗りを上げて混迷の色が強くなる。




「大和君は頭が良くて、行動力があって、強くて、優しくて、格好いいなと思うけど、みんなから奪うほど強い気持ちはないよ。」



美咲さん、滅茶苦茶褒めてくれて嬉しいけど、それでも好きになってくれないんだとしたら、後は俺は何をしたらいいの?え?俺はこのまま振られる感じ?ちょっと待ってよ。



「美咲さんが迷っているのならまだ結論は出さなくてもいいんじゃないかな?」


「そうかな?」


「俺はまだ全然待てるから。これからも佐藤さんが好きになってくれるように頑張るし。」



振られるよりは先延ばし。うん、それがいい。


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