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湾藤たちの声が聞こえなくなったところで腰を下ろして【鳥瞰図】を確認する。さっき、湾藤たちに川のある方角を教えた時に気になったことがあったのだ。川があることを確認するために【鳥瞰図】を拡大表示した時に、何か妙な物があるように見えたのだ。先ほど拡大した辺りをもう一度表示してみると、やはり何かがあるようだ。流石に何かまでは分からないが、明かに人工物だ。恐らくここに転移者の誰かがいる。
存在を知ってしまったならこの人にも物資を届けるべきだろう。それが平等というものだ。とりあえず物資を取りに帰ろう。
その場の近くにある木を【マーキング】してから飯田さんをターゲットにして転移で戻った。
「お帰りなさい。何だか疲れてますね。」
「ただいま。やっぱり分かっちゃう?わがまま言われてうんざりしたよ。」
「面倒な役を押し付けてしまってすみません。」
「いいよ。自分からは見捨てなかったというだけで若干気分がいいからね。それより、他の人にも物資を届けられないか試そうと思うんだ。用意できるかな?」
「用意してありますよ。はい、水と食料です。5人分あります。」
「用意がいいね。想定してたのかな?」
「はい。」
「そっか。ありがとう。多分時間かかるから、もう寝ちゃっていいよ。」
「みんなには適当に言って誤魔化しておきます。」
「行ってきます。」
「行ってらっしゃい。お気をつけて。」
飯田さんから物資を受け取り、洞穴内の岩を【マーキング】して、先ほど【マーキング】した木に転移で戻った。当たり前だがさっきの場所だ。そこから南にある川に向かって歩き出す。
暗いが月明かりがあるし、【鳥瞰図】は光っているので全くの闇ではない。火を持ったままだと歩きにくいのでこのまま進もう。
夜間の移動は極力避けた方が良いと改めて感じる。今回はもう出発してしまったし、頑張るしかない。今諦めて帰るのは格好悪いだろう。
頑張って歩いた。途中、モンスターにも遭遇したが蹴散らした。そして遂に水の流れる音が聞こえ始めた。
【鳥瞰図】で見つけた何かの全容が見えてきた。
川辺で大の字に横になり、天を見る制服姿の女子高校生。その上空4m程の所に浮かんだ大きなスクリーン。映し出されているのは異世界転移物のアニメーション。
異世界の森の中で大の字になり異世界物の映画鑑賞。剛毅だ。格好いい。好きな物のために生きる。そんな潔さを感じる。
俺は生きていれば嬉しいことや楽しいこともあると、生きることを優先して付随して得られる喜びを得ようとしていた。だが彼女は自分の喜びを優先して、それを得られないなら死ぬくらいの覚悟があるかのように見える。そうで無いとアニメを見るためのスキルなんて取得できないだろう。
気に入った。彼女を連れて帰りたい。そう思った。
「【マーキング】、6番。」
「【ロックオン】、6番。」
「【ステータス】。」
『鈴木華
HP 125/291
MP 19/315
SP 89/288
状態異常:飢餓
スキル:動画見放題』
俺と同じ鈴木姓。特に親類関係はない。姓が被るので俺も彼女も名前で呼ばれるのだが、俺が彼女の名前を呼んだ記憶はない。これが初かもしれないな。ちょっと緊張。
「華さん。お楽しみ中の所申し訳ないけれど、いいかな?」
「えっ?うわぁ!大和君!?」
俺が声を掛けると華さんは慌てて体を起こした。大分近付いていたのに気付いていなかったようだ。それだけ集中してアニメを見ていたということだな。
華さんは俺の方に向き直り、地面に正座して姿勢を正した。地面に正座、痛そうだな。
「集中しているところを邪魔してごめんね。」
「これはもう見た回なので問題無いよ!」
「それなら良かった。えーとね。良かったらこれどうぞ。」
水と芋を正座する華さんの前に置いた。
「え?これは?」
「水は分かるよね。こっちは芋をスライスして焼いたものだよ。」
「食べてもいいの?」
「もちろん。軽く塩を振ってあって、芋の甘みが際立っていて美味しいよ。」
「ありがとう!もう餓死するところだったんだよ!」
「いや、その割に元気だね。」
「でも痩せたでしょう?」
華さんは確かに以前より痩せていたが、元々が太っていたのでまだ標準より太い。だがここは痩せたねと言ってあげるところだろう。
「そうだね。痩せたと思うよ。」
「異世界放置ダイエット、流行るかも。でもこれでリバウンド、それでも止められない。いただきます。」
「どうぞ。」