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俺は走った。
「はぁ、はぁ。」
息が上がる。異世界に来てから毎日森を探索しているので、移動には大分慣れてきたが、走れば当然疲れる。戸田君がモンスターに襲われているとしたら、このまま突っ込んだら俺も危険かもしれない。近くまで行ったら速度を落として様子を伺おう。
【鳥瞰図】で戸田君の位置を確認しながら走り、近くまで来た。ここからは慎重にいこう。
「ふぅーっ、ふぅーっ。」
なるべく音を立てないように気を付けながら息を整える。
胸を抑える。音を殺すんだ。無音で近づく。
いたっ。戸田君だ。
男二人に捕まっている。何だか戸田君は波乱万丈だね。もしかしてトラブルメーカー?
戸田君は腕を後ろに締め上げられて脅されているように見える。何処かに向かって案内をさせられているようだ。普通に考えて、俺たちの拠点に案内させられているのだろう。よし、あの二人は敵だな。
二人を【マーキング】してステータスを確認しよう。
「【マーキング】、23番。」
「【ロックオン】、23番。」
「【ステータス】。」
『湾藤剛
HP 22/310
MP 218/264
SP 60/321
状態異常:飢餓、渇水
スキル:身体強化』
「【マーキング】、24番。」
「【ロックオン】、24番。」
「【ステータス】。」
『東明道
HP 150/336
MP 129/229
SP 107/305
状態異常:飢餓、渇水
スキル:霊体変異』
ふむ。
二人とも状態異常が飢餓と渇水か。異世界に来てから飲まず食わずってことかな。
二人ともスキルが厄介だな。湾藤の【身体強化】は動きが速そうだ。速過ぎて目で追えないとなったら【マーキング】できずに俺でも負けるかもしれない。東の【霊体変異】は使われたら姿が見えなくなりそうだ。それも【マーキング】できず倒しようが無くなるから厄介だ。でも、もうマーキングしちゃったから俺の勝ちだな。
「【ロックオン】、23番。」
「【自滅スキル発動】。」
「【ロックオン】、24番。」
「【自滅スキル発動】。」
よし。二人が倒れた。戸田君はびっくりしてキョロキョロしている。このまま放置したら面白いかな。しないけどね。
戸田君へと駆け寄る。
「戸田君!大丈夫かい!?」
「ああ!大和君か!よかった!二人が急に倒れたからびっくりしたよ!」
戸田君は俺に気付いて安心した様子を見せる。
近寄ると地面に這いつくばっていた湾藤が悪態をついてくる。
「くそっ、大和、何しやがった!?」
「教える必要が無いね。」
煩いのでとりあえず踏みつけておく。
「それより戸田君。何があったんだい?」
「ああそうだ!湾藤君が井家田さんを襲ってたんだ!助けに行かないと!」
「まだ生きてるの?」
「多分。」
「先に確認していい?そこからどうやって今の状態になったの?」
「見つけて思わず銃で撃っちゃったんだけど、いつの間にか東君に後ろを取られてて捕まっちゃったんだ!持ってたペットボトルを奪われて、もっとあるんだろうって拠点に案内させられてたんだよ。」
「なるほどね。こいつらどうする?殺す?」
「なっ!?殺す気か!?」「ひぃい!!」
湾藤と東はなぜ驚くのだろうか。女の子を襲ったり、脅して水や食料を奪おうとする奴なんて、今の状況で殺さない理由はないよね。
「流石に殺すまではしなくても。このまま置いて行こうよ。」
「戸田君がそう言うならいいよ。」
湾藤と東はその場に放置して、戸田君の案内で井家田さんが襲われていたという場所にやってきた。だがそこには誰も居なかった。
「ここだったんだけど。」
「うん。争った跡があるね。きっと逃げたんだよ。良かったじゃないか。井家田さんは生きてるってことだよ。」
「できれば保護してあげたかったけど。あ、いや。大和君たちが良ければだけど。僕一人じゃあ人を助ける余裕なんて無かったからね。」
「今は少し余裕があるから、戸田君が助けたいと思ったなら連れてきたらいいよ。でも井家田さんについてはいないんじゃしょうがないよね。」
「ちょっと探してみていいかな?」
「駄目だよ。戸田君は今、HP0だよ。拠点に戻って待機だね。探すなら俺が探すよ。まずは戻ってみんなに報告と相談だ。」
「そうか。ごめん。」
しょんぼりしている戸田君と一緒に歩いて拠点へと戻った。




