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戦闘準備を整えてみんなで洞穴を出たのだが、近くにモンスターは見つからなかった。本当はわざわざ探し出す必要はないのだが、ちょっと意地になっていたのかもしれない。探索範囲を広げて探し回ってついに人型モンスターを見つけることができた。
「いたね。戸田君の言っていた通り3体だ。まだ気付かれていないし、ここは俺に任せてよ。」
俺の言葉に戸田君が銃を取り出しつつ問い返してくる。
「遠距離攻撃なら僕もできるけど。」
「まあ、任せてよ。」
みんなをその場に制止してモンスターが見易い位置に移動した。三体を視界に捉えると、小声でスキルを発動する。
「【マーキング】、30番。」
「【マーキング】、31番。」
「【マーキング】、32番。」
「【ロックオン】、30番。」
「【スキル自滅発動】。」
「【ロックオン】、31番。」
「【スキル自滅発動】。」
「【ロックオン】、32番。」
「【スキル自滅発動】。」
モンスターが三体とも崩れ落ちた。
「よし。弱らせたから捕まえに行こうか。」
俺が声を掛けるとみんな動き出した。甘野さんが聞いてくる。
「今何をしたの?」
他の人も気になっているようだ。
「見ての通り、スキルを使ってモンスターを弱らせたんだよ。そういうスキルなんだ。」
「さっき転移もしてたよね!?ステータスも見られるし地図も出せるし、そんなに幾つもスキルって取れるの!?」
「幾つも取れるかについて言えば、工夫次第で取れるね。でもその話は置いておいて、モンスターが回復したら困るから早く【使役】を試そうよ。」
【自滅】スキルによってHP、MP、SPが全てゼロとなり疲労困憊の人型モンスターを男三人で一人一体を押さえつけて、1体目にナイフで傷をつけた。
「こんなもんで良いのかな?」
「私もやったことが無いから分からないけど、とりあえずやってみる。」
甘野さんはモンスターの傷口に手を差し込んだ。
「失敗。もう1回やるわね。」
「ふーん。特にスキル名を唱えたりする必要は無いのか。」
「ええ。頭の中で念じるだけだけど、失敗しても成功しても相手にスキルを使ったことはバレるわ。だからチャンスは通常は1回なの。」
「今は何度でもチャレンジできるけど、MP消費はどうなの?」
「1回50ポイント。でも自分のステータスを知らないから何回できるのか分からないわ。」
「ステータス見たから分かるよ。確か300ちょっとあったから、6回だね。」
「傷口を触りながらだと成功確率10%だから、6回だとできるか分からないわね。」
「そうか。三体は要らなかったかな。」
「そうね。クールタイムって何かしら。1分って出たわ。」
「ああ、1回発動したら次に再チャレンジできるまで1分待たないといけないんだね。試しに他の個体に試してみたら?」
「それじゃあ戸田君の方で試してくる。」
甘野さんは戸田君が抑えつけているモンスターにスキルを試すために離れていった。代わりに佐藤さんが近付いてきた。
「何でそんな状況で普通に話せるの?何だか私怖い。」
俺が抑えつけているモンスターは今もギャアギャア騒いでいる。とはいえ体力が尽きているから大した力ではない。佐藤さんはモンスターが怖いというよりは、人体実験のような猟奇さが怖いのだろう。
「俺も嫌悪感があるけど、今後のために必要なことだと割り切っているからできるんだと思う。淡々と冷静にやってそうに見えるかもしれないけど、それは感情を押し殺してやっているからだよ。俺も何も感じてない訳じゃないよ。」
「そっか。変なこと聞いちゃったね。ごめん。」
佐藤さんは俺の答えに納得がいったのか離れていった。入れ替わりに甘野さんが戻ってきた。
「今のところ3回とも失敗。クールタイムは個体に対してみたい。他のモンスターには直ぐに再チャレンジできたよ。教えてくれてありがとう。2回目試すね。」
「どうぞ。」
「・・・。ダメだった。」
「残念。」
「次に行ってくる。」
「はーい。」
なかなか上手くいかないな。成功確率10%だからこんなもんなんだろうけど、【強制使役】は使い難いスキルだな。
「やったぁ!!」
甘野さんの喜びの声が聞こえてきた。成功したらしい。
「大和君!!ありがとう!!1体だけだけど成功したよ!!」
「良かったね。」
「うん!!」
「もうMPが無いよね。こいつは処分しちゃっていいかな。」
「え、あ、うん。使役できると思ったらちょっと情が湧いちゃったけど、捕まえておくのも大変だし、離せば襲い掛かってくるモンスターだもんね。処分しちゃって。」
そう。こいつは単なるモンスター。
抑えつけたままナイフを取り出し首に突き立てた。モンスターは刺しても血が流れないのだが、抑えつけていた手に抵抗が無くなっていくことがモンスターの死を生々しく感じさせた。気が滅入るな。できればこの殺し方はしたくない。