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戸田君がいつまでも無事とは限らない。そうと決まったならば急いだ方が良い。簡単に二人に事情を説明して火の後始末をすると、転移の準備に入る。
俺が真中さんおんぶして、佐藤さんと飯田さんとソフィアさんが真中さんの右腕に、甘野さんと橋基君が真中さんの左腕に手を置いた。
「それじゃあ行くよ。」
「【トランスポート】、20番。」
視界が一瞬で変化した。暗い。洞穴の中か?
「うわっ!」
「何?」「きゃあっ。」
暗闇で急に声がしてみんなが驚いてしまっている。
「みんな、落ち着いて。戸田君、いるんだろう。鈴木大和だよ。昨日ぶりだね。」
まだ目が慣れていないので良く見えていないが、目の前の岩影から誰かが這い出てきたのが分かる。
「大和か。昨日急にいなくなったが生きていたんだな。悪いが、さっきまでモンスターに追われていたから話は後だ。お前たちも身を隠せ。」
そう言うと戸田君は再び岩陰に戻り出す。
仕方なく俺たちも戸田君に倣って適当に身を隠す。
「戸田君。モンスターはどっちから来るんだい?」
「外だ。逃げている途中で偶然洞穴を見つけて身を隠した。」
「それはどれくらい前の出来事かな?」
「どれくらいだったか。1時間位だろうか。」
「結構前だね。もう追ってきていないんじゃないかな。」
「敵がこちらを殲滅するつもりならまだこの辺りを捜索しているはずだ。油断するな。」
「えっと、どんなモンスターだったの?」
「また棍棒を持った人型のモンスターだ。3人いた。」
確か戸田君は昨日も人型のモンスターと戦ったって言っていたな。俺は今のところ同じモンスターに出会っていないのに、引きが良いのか悪いのか。
「この穴の奥は探索済みかな?」
「まだだ。これ以上奥は危険だ。暗くて灯りがないと対処できない。」
「戸田君はモンスター一体なら倒せるかな?」
「ああ。俺も一体なら逃げてない。」
「そっか。俺も一体なら瞬殺できるよ。それから、橋基君も一体なら倒せるよね?」
「俺か?ギャア!」
「馬鹿、喋っていいよ。」
「クソ甘野!」
「ほら、倒せるか答える。」
「一体なら倒せるさ!」
「うん。戸田君。こちらも戦力が増えて数的不利は無くなったし、隠れる必要は無いんじゃないかな。」
「そうか?そうか。」
隠れながらも俺が緊張感無く喋っていたので、みんなも緊張感を保てなかったのだろう。戸田君の「そうか」を聞いた瞬間にみんなが隠れるのを止めていた。
「とりあえず落ち着いて話せる場所を確保したいね。外に出てモンスターがいないか調べるのと、奥がどうなっているか探索するのと、どっちが良いと思う?」
俺が誰とはなしに問いかけると、戸田君が答えた。
「後顧の憂いを断ちたい。外のモンスターを倒すぞ。」
すると佐藤さんが恐る恐る手を挙げた。
「あの~、戸田君の話し方が教室の時と違い過ぎて気になるんだけど、どうしちゃったのかな?」
それを聞いて橋基君が笑い出す。
「だっはっは!!佐藤さん!!ナイス!!こいつは異世界に舞い上がっておかしなテンションになってるだけだって!!ははははははっ。」
いや、俺も気になっていたけど、言わないであげて欲しかった。
「お前らが緊張感無さ過ぎるんだろうがっ!!」
ほら、戸田君が怒っちゃったよ。
「戸田君ごめんよ。でもさ、俺たちが緊張していたら女子は怖がるだろう。ここが危険な場所でいつ死ぬか分からない、言わば戦場だと言うのは理解しているけど、女子を怖がらせるのは本意ではないでしょう?」
俺の言葉を聞いて戸田君が佐藤さんを見た。佐藤さんは困惑の表情。俺の目には「戸田君のキャラが違い過ぎて怖いよ」と思っているようにみえる。理由はどうだか分からないが、女子を怖がらせているのに違いはない。
「そうか。いや、そうだね。大和君の言う通りだ。分かったよ。いつも通りに話すように気を付けるよ。」
「うん、そっちの方がいいよ!」
佐藤さんが花のような笑顔を咲かせた。
ああ、たぶん今、戸田君は心を撃ち抜かれたな。
佐藤さん!不用意に俺のライバルを増やさないで!
ところで外に出て人型モンスターと戦うとなると確認しておきたいことがある。
「ところで甘野さん。【強制使役】に人数制限はあるの?」
「心配しなくてももうみんなに使ったりしないよ?」
「そうじゃなくて、人型のモンスターなら使役したら小間使いに使えるんじゃないかと思ってさ。」
「私にモンスターとやれって言うの?」
「まさか。俺ならモンスターを無力化して捕まえることもできるよって話。傷口に触れても使役できるんだよね。」
「そんなことできるの?橋基君に試させたけど、モンスターは小さな怪我じゃ大人しくならないし、動けないほどの大怪我をさせると使役する意味がないから無理だったよ。」
「試そうとしたってことは人数制限は問題無いんだね。それなら試してみようよ。」




