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橋基君が気まずそうな顔を浮かべている。飯田さんが俺に寄ってきて小声で聞いてくる。



「二人は大丈夫そうですか?」


「甘野さんのスキルは【強制使役】で、橋基君は甘野さんに使役されてる。」


「使役の条件は分かりますか?連れてきてしまいましたが、私たちも使役されたりしないでしょうか?」


「取りあえず、俺は対抗できるスキルを持っているから大丈夫だと思う。みんなに何かされたら俺が何とかするよ。」


「分かりました。大和さんを信じます。」



俺を、ね。二人を信用しないという意味かな。



橋基君と甘野さんには何も聞かずにとりあえず食べなと肉を振舞った。二人共ここに来てからまともな食事を取れていなかったようで、喜んで食べていた。食べ終わったところで情報交換を持ち掛けた。




「腹も膨れたところで、情報交換をしたい。先ずはお互いのスキルを確認したい。俺たちは、見て分かる通りに迷彩服を創造するスキルがある。それから、ペットボトルの水、ナイフ、塩。生活に必要な物を創造するスキルを取った。橋基君と甘野さんはどんなスキルかな?」



もちろんこちらの情報のほとんどは伏せてある。だが複数の目に見えて分かるスキルを公開したので今度はあちらが答える番だ。

甘野さんが代表して答えてくれる。橋基君には「勝手に変なことをしゃべらないようにね」と言っていたが、あの緩い感じの指示が使役の命令なのだろうか。



「橋基君は剣を出すスキルを取ってモンスターと戦ってくれていたよ。私はモンスターを仲間にするスキルを取ろうとしたんだけど、仲間にする条件が厳しいみたいで、役に立たなそうなの。」



ステータスで確認済みなので情報の一部を隠していることがバレバレだ。こっちもほとんどの情報を隠しているのでお互いさまだが、話を進めるために暴露させてもらおう。



「モンスターを仲間にするのは難しいから、代わりに橋基君を使役したのかな?」


「えっ?な、何言ってるの?」


「ごめんね。俺は人のステータスを見ることが出来るんだ。それで橋基君が使役状態なのと、甘野さんのスキルが【強制使役】だってことは分かってるんだ。」


「そんなっ!?」


「大丈夫。別に責めてはいないよ。スキルを取得した時は本当にモンスターを使役するつもりだったんでしょう?俺も候補に考えていたから分かるけど、モンスターが脅威ならそれを使役できちゃえば脅威が無くなるどころか戦力アップになるからね。」



最初からクラスメイトを狙い撃ちしようなんて普通は考え無いだろう。



「そうなの!それなのに絶対出来ない条件で。」


「どんな条件だったの?」


「濃厚接触よ。」


「濃厚接触?」


「セックス中なら80%。ディープキスなら30%。傷口を触ってれば10%。モンスター相手にどうしろっていうのよ!?」



同級生の女子から性的な言葉が出てきてちょっと動揺した。やっぱり俺たちを転移させたのは悪魔だね。

甘野さんはスキル取得時に使役可能となる条件を指定しなかったのだろう。できれば無条件が良いからその気持ちは分かる。でも、スキル取得時に指定が不十分なところがあると悪意の込もった補足がされることを俺は知っている。



「それは酷いね。」


「橋基君としたわよ。ディープキス。でも私から誘ったんじゃないからね。偶然会ったんだけど、スキル取得で失敗して役立たないスキルになったって言ったら、護ってやる代わりに身体で奉仕しろって言ってきたのよ。だから逆に利用させてもらっただけよ。」



聞いてないのに教えてくれたよ。



「まじかー。橋基君。今のは事実?」


「喋っていいわよ。本当のことを言いなさい。」



甘野さんが命令する。やっぱりこの適当っぽい口頭指示が命令なんだな。




「別に甘野なんか好きじゃなかったんだぞ!」


「いや、論点ずれてるし、好きじゃなかったならより悪いよ。【聖剣召喚】なんて勇者っぽいスキル取っておいて中身はゲスだね。」


「うるせぇ!大和だって女子ばっかり仲間にして下心丸出しじゃねえか!」


「俺も下心が全く無いとは言わないが、相手の気持ちを考えて自制出来るのが人間だろう。自制なく衝動のままに行動するとケダモノと呼ばれるんだよ。」


「俺だって佐藤や飯田には紳士的に対応するさ。だけど甘野だぞ。それを助けてやろうとしたのに使役なんてしやがって!」



駄目だ。こいつの言うことは聞くに堪えない。



「甘野さん。もういいや、こいつ黙らせていいよ。」


「橋基君。黙りなさい。」



橋基君は憤慨しつつも口を閉じた。



「おお、黙った。どういう原理だろう。」


「逆らうと激痛がするみたいよ。昨日散々逆らって痛い思いをして学習したみたい。猛獣の躾ね。」


「なるほどね。それは使役されたくないね。うん。情報交換はこんなもんかな。それじゃあこれで。俺たちは探索を再開するよ。」


「ちょっと。私も仲間に入れてよ。」


「いや、使役持ちとケダモノって、仲間にするリスクが高いでしょう。事情は理解したし同情はするけど、一緒に行動するのはちょっと不安だな。今後も会えば情報交換や物々交換をする程度がちょうどいいと思うけど。」


「お願いよ!助けて!使役しててもケダモノと二人きりなんて嫌なの!」



ケダモノ、ケダモノと言われて橋基君が顔を伏せている。落ち込んでいるのかな。

それにしても面倒くさいな。みんなの意見を聞いてみるか。



「仲間だけで相談してみるよ。ちょっと待ってて。」



二人をその場に残し、5人で少し離れた場所で相談を始めた。



「どうしようか。」



俺の問いかけに口火を切ったのは飯田さんだ。



「先ほど大和さんも言っていましたが、あの二人と一緒に行動するのはリスクが高いと思います。それに、仲間の人数制限は6人までだと思われます。入れられるのはあと1人だけです。あの二人を仲間にするのは反対です。」



飯田さんがはっきり言ってくれた。真中さんもうんうんと頷いている。



「でも甘野さんが可哀想だよね。」



佐藤さんは優しいね。その感性自体は良い物なので失わないで欲しい。非情さは俺と飯田さんが担当しよう。

でも今はそこまで非情になる場面でもないんだよなぁ。難しいな。



「佐藤さんに確認だけど、一緒に行動するとなるとホームの存在も明らかになるし、俺達だけホームに入って二人を入れないとなると、ここで別れる以上に恨まれる可能性がある。二人をホームに入れてあげるということで良いのかな?正直なところ、ホームは奥の手として有用だからあまり知られたくないと思うんだけど、どうかな?」


「扉が目立っちゃうからホームの存在を隠し通すのは難しいと思うの。だから教えるまではいいんじゃないかな。それで、私は中に入れてあげたいと思ってる。」


「私はケダモノや人をスキルで使役するような人と一緒に寝たくはありません。」


「でも七菜ちゃんだって可哀想だと思うでしょう?」


「まだ会っていないだけでクラスメイト全員が森に放り出されています。全員が可哀想でしょう。美咲さんはクラスメイト全員をホームに入れるつもりですか?まだ廊下の他は1畳分の部屋しか解放できていないじゃないですか。廊下がいくら広いとは言っても、全員で入ることは出来ません。何処かで線を引く必要があります。線を引くなら、あの二人は外でしょう。」


「でも。」



佐藤さんは「でも」だけで言葉が続かない。これは一旦止めた方が良いな。



「ストップ。それ以上は議論が平行線だよ。飯田さんの言う通り、ホームはクラス全員が入れるほどは拡張できていない。だから何処までを仲間とするかの線引きは必要。あの二人は仲間を選べるなら避けたいと俺も思う。でも今後も誰と出会えるか分からないし、選べる環境にはないんだよね。どうしても出会った順になっちゃうのは仕方ないんじゃないかな。森から出られる人の人数制限については確証が無いし、今はまだ同級生として仲良くしておいた方がいいと思う。わざわざ嫌われて敵を作る必要はないよね。」



そこで話を区切る。二人の顔を見たがまだ解決策を提示していないのであまり納得していない様子だ。

飯田さんが俺の袖を引き、耳打ちしてきた。



「私たちは既に戸田さんを追い出してしまったじゃないですか。今更言われても困ります。」



言葉の意味は理解したが、真意を伺うために飯田さんの表情から読み取ろうと思い顔を見つめた。辛く、悲しそうに見える。

そこで初めて気付いた。冷徹気丈に見えていた飯田さんは、実は昨日戸田君を追い出したことで心を痛めていたんだ。



「大丈夫。これを見て。」



手の平を開き、マップウィンドウを見せた。



「昨日マーキングした20番はまだ表示されている。無事だよ。」


「そうですか。」



飯田さんは何でもない体で言っているが、安心したようだ。昨日まで同じ教室で学んでいたクラスメイトを切り捨てようなんて考えが良くなかったのかもしれない。



「みんな。実は昨日、俺は戸田君とも会ったんだ。あの二人を仲間に引き入れるなら、戸田君も仲間に入れてあげたい。戸田君のスキルは【銃創造】。昨日話した印象では異世界に突然連れてこられて若干高圧的になっていたよ。マーキングしてあるから転移で直ぐに会いに行けるけど、どうかな。」


「仲間は多い方が良いと思う!」



美咲さんが元気に答えた。



「大和さんがそうしようというなら、私も異存はありません。」



飯田さんは反対しないというだけか。でも表情は嬉しそうに見える。

今はこれが正解なんだと思う。



「よし。それじゃああの二人も戸田君もみんなまとめて仲間に引き入れちゃおう!」



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