要職のフローラおばあちゃん
+ Chapter.1 サロン
フローラおばあさんは、先代皇帝の第二十六妃であった。
そして、英雄、色を好むを体現した、先代皇帝の寵姫であった。
寵姫とは言え、先代皇帝の守備範囲は広く、その人数とバリエーションたるや、可憐な乙女から妖艶な美女、凛々しい騎士姫に、親しみやすい庶民の娘。
女性の産まれてから死ぬまでをすべて愛した、変態もしくは英雄的な何かである。
フローラおばあさんは膝枕担当だった。癒し系である。いやらし系をも内包している。
当時、フローラさんの膝枕はハーレム内でも、「不眠に悩んだらフローラ殿のひざまくら」と合言葉になるほど評判だったのだが、今はとりあえず割愛する。
フローラおばあさんは、今もその時のツテで、帝国城のサロンに顔を出していた。
サロンに顔を出すことは、帝国城で生きるには大切なことだ。
新しい人脈を広げ、新しい情報を聞き、帝国城内での己の身の振り方を考える。
とは言え、居心地のよい顔なじみグループで数年を過ごせば、新しい勢力に乗り遅れてしまうのである。
時の流れとは切ない。
フローラおばあさん達サロン仲間は、すでに終了した時代の人物となっていた。
+ Chapter.2 黒い神殿
最近の若い人はなっていない。
フローラおばあさんは、古き良きサロン仲間達と、ため息をついた。
いつの世も、「最近の若い者は……」と言い出すのは、老人のつとめである。
ついこないだ、隠居に片足を突っ込んだサロン仲間が、道楽にと、帝国城の地下を掘り起こした。
ちなみに老人の言う「こないだ」とは、昨日から数十年前までと幅広い。
サロン仲間は、地層研究などと称していたが、温泉でも出ればめっけもんといったノリである。
しかし、なんのビギナーズラックか、封印された黒い神殿を掘り当てた。
これはこれは、と仲間がはやし立てる中、突然、顔も知らない軍魔導師団の将校がやってきて、「魔法神殿であるからには、我が魔導師団の領分である」などと言いだすのだ。
そして軍魔導師団の将校は、フローラおばあさん達から、神殿を取り上げた。
ヒゲを蓄えた将校とは言え、フローラおばあさん達からすれば、青二才も良いところ。フローラおばあさん達は憤慨した。
しかし近年、帝国城の権力分布図は更新されまくっている。
将校に報復をしようにも、サロン仲間が持ちうるコネクションは、志し半ばで途切れるのだった。
カリスマが何だというのだ。たたき上げが何だというのだ。
流行の服に身を包んでる、白魚の手が眩しい、あの貴族の坊を見習いなさい。今でも実力ではなく、人脈を駆使しているではないか。
世の中、実力主義ではない。年功序列でもいいじゃない。
今日もサロンは、老人らしい話題で忙しかった。
その内容は、すでに何十周も繰り返されているのだが、フローラおばあさん達は、なぜか気付かないのである。
+ Chapter.3 将軍
フローラおばあさんは、見知らぬ青年から「オレだよ、オレオレ!」などと言われれば、うっかり自分の息子かと思うほど、自分の子供と疎遠だった。
噂では帝国軍で将軍などしているらしいが、うまくやっているのだろうか。
フローラおばあさんは、ここ二十年ほど会っていない我が子を、なんとなく心配をした。
フローラおばあさんが、自分の息子に最後に会った時、息子はまだ少年であった。
帝国内で一般的な、黒髪黒目である。
騎士のパレードを見て、その目を野心的にキラキラ輝かせていた。つい昨日のように思い出せる。
フローラおばあさんにとって、子供はいつまでも子供のままである。
ある日、帝国城の赤絨毯で、黒甲冑の将軍とすれ違った。
「これは母上。お久し振りでございます」
赤い瞳の将軍の呼びかけに、フローラおばあさんは少し驚いた。
しかし、母上、という呼びかけから、自分の子供なのだと推察する。
どんなに思いがけないことが起きようと、某家政婦協会の婦人が死体を発見した時みたいに、常に冷静でなければ、この帝国城ではやっていけない。
「あら。まあまあ。久し振りですね。軍部ではしっかりやっていますか?」
「えぇ」
「あら……。何だか目の色が、昔と違うみたいだけれど。どうしたの?」
「これは、まあ、その、……最近の流行です」
「──そうなの」
フローラおばあさんには、最近の若い人のオシャレは分からない。
野蛮な魔物と同じ赤い瞳が、最近の流行とは、どういうことなのか。
フローラおばあさんと将軍の間に、ぎこちない空気が流れた。
騎士のパレードに喜んでいたあの子が、若者風のオシャレをするとは、時の流れとは残酷なものである。
+ Chapter.4 双子
フローラおばあさんが気が付いたときに、いつの間にか帝国城に姿を現したのは、双子の少年少女であった。
目つきの悪さが、どことなく昔のわが子に似ている。
フローラおばあさんは、そう思った。
帝国城がいかに子供にふさわしくないのか、フローラおばあさんは知っていた。
フローラおばあさんは積極的に双子と接触し、不便はないかと、それこそ老婆心を働かせたのである。
「帝国城から出たいと思ったら、いつでも声を掛けてね。城下町の宿屋に、ツテがあるのです。私はいつでも、あなたたちの味方です」
フローラおばあさんが双子に言うと、双子は、お互いに目を合わせ、首を振った。
「いいえ。私たちは城から出ません。城にはフローラおばあちゃんだっているのに……」
「こんなに魔物がいっぱいいる帝国城に、おばあちゃんだけを置いていけないです」
双子は熱いまなざしで、フローラおばあさんの、シワシワやわらかい手を、そっと握った。
+ Chapter.5 疎開先
そんな双子を置いて、と言えば人聞きが悪いが、帝国と他国との戦況の悪化に、フローラおばあさんは城を離れざるを得なかった。
双子もこの疎開を勧めてくれたのだが、とうの双子は帝国城に残ったままで、大丈夫なのだろうか。
いざとなったら、帝国城の脱出路はコレで、皇帝の王座の後ろには、城を全壊させる仕掛けがある、とフローラおばあさんとっておきの情報を、双子に託しておいた。
白魚の手の貴族にも、双子をよろしくねと、よく言っておいた。
フローラおばあさんは、帝国内の最北端にある、ひなびた町で、双子を切なく心配した。
手に残るのは、あの時につないだ、双子の冷たい両手の感触である。
しかしこの町に、サロンの顔なじみが何人もいたのは、フローラおばあさんにとって幸いだった。
この町は帝国からの、いい疎開先らしい。
サロン仲間と世間話をしているだけでも気が紛れる。
フローラおばあさんは、歩きながら、道の先にある看板を指さした。
「あら、ご覧になって。あの立て札。この先は永久凍土があるらしいけれど、立ち入り禁止になってるのね」
「あぁ。何でも最近、化石が発掘されたとかで、帝国軍が、本格的に調査をしたと聞いたわ……」
「まぁ。どこに行っても帝国軍、帝国軍なのですね」
「本当じゃのう。帝国軍と言えば、古代神話研究家の某を、覚えてるかね」
「えぇ、もちろん。気難しいカイゼルひげさんね」
「懐かしいのう」
「やつも、ひげは相変わらずだったが、頭髪はさびしくなっておったわ。ふぉふぉ」
サロンの顔なじみは、自分のつるつる頭をなでながら笑った。
その話によると、帝国城の関係者が、かの古代神話研究家のカイゼルひげさんに接触を図っているらしい。
研究家の中でも、特にマイナーな説をたてている、カイゼルひげさんである。
──これは何かある。
暇をもてあました、否、老人たちの昔取った杵柄が騒ぐのであった。
+ Chapter.6 古代神話研究家のカイゼルひげさん
フローラおばあさんたちサロン仲間一行は、早速、カイゼルひげさんの所に向かった。
だがしかし、ときは既に遅かった。
カイゼルひげさんの研究室は、疎開先である帝国最北端から、遠く離れた南の島にある。
フローラおばあさん達が、やっと南の島に着いた時、カイゼルひげさんと帝国城関係者は、東の地の果てへ出立した後だった。
東の地の果て、というのは、カイゼルひげさんの研究の目的地である。
永久凍土の残る帝国最北端から、この南の島まで、数ヶ月以上の船旅を要した。
その上さらに東の地の果てへとなると、さすがにサロン仲間も追いかけるのをためらった。
サロン仲間の数人は、最近、足腰を悪くしているのだ。
老いとは素敵でもあり、まあ不便でもある。
しかし老いてなお、時間と体力と財力のある老人をなめてはいけない。
フローラおばあさんたちは、一部の仲間を南の島のバカンスに残し、丈夫な仲間とドンブラコッコと船旅を続けたのだった。
+ Chapter.7 東の地の果て
フローラおばあさんたちは、とうとう、東の地の果てへ到着した。
イルカあり、人魚あり、クラーケンありの、デンジャラスでファンタスティックな旅程であった。
そして運命とは気まぐれなものである。
この時もまた、ときは既に遅かった。
フローラおばあさん達がカイゼルひげさんの所に着いたとき、カイゼルひげさんの海の調査は、とっくに終了しており、東の地の果てには淋しくカモメが鳴いていた。
自分たちは何のために船旅をしていたのか。
クラーケンの塩焼きに舌鼓を打っている場合ではなかったのだ。
フローラおばあさんたちは反省した。
だが東の地の果てには、カイゼルひげさんが一人残っていた。
カイゼルひげさんは、この地に残って、自分の研究を、更に続けるらしい。
騒動には間に合わなかったが、目当ての旧友、カイゼルひげさんには会えたのだ。
フローラおばあさん達とカイゼルひげさんの、積もる話しも、きりがない。
カイゼルひげさんの話だと、こうだった。
接触を図ってきたのは「帝国」関係者ではなく、「王国」関係者だと言う。
フローラおばあさん達が聞いていたのは「帝国」関係者だった。
どういう事なのか。
ささいな違いであるが、自分たちの情報が、間違っていたのか。
フローラおばあさん達の灰色の脳細胞はうなった。
カイゼルひげさんの話によると、白魚の手の「帝国」貴族の口利きでやってきた「王国」の救世主一行、というのが種明かしであった。
その種明かしにも、フローラおばあさん達は再びうなる。
敵国の王国に手を貸すとは、白魚の手の帝国貴族は、何を考えているのだろう。
しかし、最近の若い人の考えることはサッパリ分からんので、そういう事ってことで、話を進めた。
複雑怪奇な繋がりは、帝国内では、ままあることである。
カイゼルひげさんは、王国の救世主と共に、東の地の果てへとやってきた。
そして一緒に海溝に潜り、双方の目的物である「空から堕ちたもの」を探す事になったのだ。
ちなみに海溝にいどむ潜水艦は、工業大国の渾身の一作である。
なぜか王国の救世主一行が所持していた。
工業大国は「帝国」と同盟を組み、「王国」とは敵対してるはずなのだが……。
+ Chapter.8 工業大国の潜水艦
フローラおばあさん達は覚えていないが、少し前の新聞に、こんな見出しがあった。
──工業大国の潜水艦。工業大国から帝国へ納品される当日、「何者かにより」乗組員ごと盗まれる。──
カイゼルひげさんは、研究が立証できるのならば、細かいことは気にしない。潜水艦の紋章がどこの国の物かなんて、不自然なものは何も見てません、知りません。
そのニュースは、すぐ揉み消されちゃったしね。
ちなみに王国一行によると、潜水艦艦長と乗組員とエンジニアと、一部の工業大国えらい人の同意は得ているらしい。
「そんな戦争するより海底冒険に行こうぜ」とは、潜水艦の中の偉い人の上から三番目くらいの人の言である。
ともあれ、そんな潜水艦を駆り、海底をアッチコッチ動き回ること数日。
果たして一行は、海溝の洞窟に、「空から堕ちたもの」を見つけたのだった。
カイゼルひげさんは年単位の調査期間を覚悟していたのだが、何の加護か、見つかる時には見つかるもんである。
しかし洞窟は不安定であった。
「空から堕ちたもの」は、王国一行に特別な武器を譲り、洞窟は地震に埋もれ、再び海溝の奥へと沈んだ。
カイゼルひげさんと王国一行は、危機一髪で洞窟を脱出したのだ。
+ Chapter.9 帝国城
フローラおばあさん達は、一通り話を聞き終わった。
そして、自分たちはそもそも何のために、この東の地の果てに来たのか、ふと我に返った。
たしか、単なる野次馬だった気がする。
旧友にも会えたし、土産話も出来たし、フローラおばあさん達は満足して、帝国へ戻ったのである。
その頃には、帝国内の戦いも鎮静化していた。
出入りが規制されていた帝国城下町も、比較的自由に、関所をくぐることが出来た。
フローラおばあさんは足早に、懐かしき帝国城へと向かう。
すると帝国城は、土台から崩れ、その姿を無惨にもさらしていた。
「あらあら、あら」
フローラおばあさんは、思わず口元に手を当てる。
がれきと骨組みの山だった。
サロン仲間が発掘した、あの黒い神殿も、崩れたのか、再び土の中なのだろう。
帝国城は、今から数週間前に、完全に倒壊したらしい。
がれきからは、いまだに煙がくすぶっている。火元も分からないし、しばらく消えることはないのだろう。
後片づけやら調査やら、帝国、王国入り乱れての兵士が、おのおの作業を行っていた。
設計図を開いた技術者、要不要な食料資材を売りつける商人、善意悪意な復興の支援をする貴族、人々は、ざわざわと行き交い、立ち止まり、しゃがんで走って、歩いている。
フローラおばあさんも、その中にまざって歩いた。
+ Chapter.10 双子のお帰り
曇り空に立ちのぼる煙を、ぼんやり眺めていたフローラおばあさんに、一人の少女が近付いた。
「もしかして、フローラさんですか?」
「えぇ。そうだけれど、お嬢ちゃんは……?」
「おじょ……わ、私は菜々子と言います」
「あら。真沙子ちゃんと正也くんのお友達ね」
帝国の救世主とか言われていた双子から、王国の救世主である少女のことを、フローラおばあさんはよく聞いていた。
フローラおばあさんの問いかけに、少女は少し照れ笑いをした。
「フローラさんのこと、真沙子ちゃんと正也くんから、たくさん聞いていました。想像通り……想像通りです……っ!」
「あら。どんなお話かしら、がっかりさせてはいないかしら。うふふ。ところで、二人はいったい、どうなったの?」
少女は打ち震えていた表情を落ち着かせた。
「真沙子ちゃんと正也くんは、無事に家に帰りました」
力強く伝えた少女に、フローラおばあさんは、双子の両手の温度を思い出しながら頷く。
「そう、ちゃんとお家に帰れたのね。よかった……」
+ Chapter.11 帝国城跡地にて
フローラおばあさんと同じように空を見上げる、赤毛のメイドがいた。
メイドは、魔物の消えた帝国の空を、感慨深く見ていた。
「まあ。あなたは、帝国城のメイドですね。ずっと城にいたのですか?」
「えぇ……、仕事がありましたので」
メイドは、そばかすのある頬をほころばせた。帝国城のメイド服を着て、仕事熱心な少女である。
「ところで、皇帝はどうなったのか、ご存知?」
「さぁ……。私が見たときには、ご自室の椅子で亡くなっておられました。誰かが運んだのか、そのまま城と共にされたのかまでは、知りません」
フローラおばあさんの問いに、メイドは首を左右に振った。
彼女の格好は、自分が逃げるだけで精一杯だったというのがうかがえる。
その近くに、白魚の手をした貴族が現れた。どこにでも現れる青年である。
「あら。あなたは、疎開はしなかったのですね」
「これはフローラ殿。相変わらずおうつくしいですね。えぇ、あいにく用事ができてしまって」
貴族の青年は、まわりのがれきに不似合いなほど、丁寧なお辞儀をした。
そしてオーバーな身振りで肩をすくめ、側近の三人と、王国の救世主に抱かれた赤ん坊を、流れるように見た。
「しかし、いつの時代も、友人と有能な部下は、何にも代え難いものですねぇ」
貴族の口調は、その言葉に反して、どことなく軽薄である。
帝国城崩壊の危機を乗り越えての感慨だろうか、フローラおばあさんもその言葉自体に異存はない。
貴族の視線を受けた黒髪黒目の赤ん坊は、殺意を込めた目で、その貴族をにらんでいた。
フローラおばあさんは、その目線に、息子と同じ面影を見たのだった。
「……私の息子は無事なのかしら」
今さら言えた義理ではないけれど……、と目線を落としたフローラおばあさんに、貴族と側近の三人は声を揃えて即答する。
「無事です」
「げんきです」
「げんきなおとこのこですよ」
その答えに、フローラおばあさんのおっとりした頭が追いつくよりも早く、遠くで雄叫びが聞こえた。
「うおおお! 殺せ、俺を殺せ! 死なせてくれ!」
「将軍!」
「おい、誰か将軍を止めろ!」
「誰かって誰がだよ……」
「将軍、いまどきハラキリなんて流行りませごふっ」
たたき上げの獅子将軍は、部下に慕われていた。
獅子将軍が帝国城と心中しようとした所を、数十人の部下がワッショイワッショイと城の外へ運んだのである。
獅子将軍は、数十人の部下を投げては放っての、稽古を付けていた。
そのかわいがりに触発された、王国の救世主が、将軍にタックルを加え、将軍の部下とチームを組み、なんか良い勝負になってきたのは蛇足である。
王国の救世主の護衛が、それを心配そうに見ていた。
護衛からの視線に気付いた王国の救世主は、護衛に手を挙げて、健闘してることをアピールした。なんか……超いい笑顔である。
フローラおばあさんは、ドカドカバキバキドキドキしてる若者を、ホノボノ眺めていた。
+ Chapter.12 新皇帝
戦いに敗れた帝国は、どうやら解体は、紙一重で免れた。
軍部もそのまま残り、獅子将軍は一暴れして気が落ち着いたのか、大人しく復興に力を注いでいる。
乳児化したカリスマ将軍は、フローラおばあさんが預かった。帝国城に籍を置いたる者、何があっても驚かない。
新皇帝の席には、繰り上げと辞退が相次ぎ、しばらく落ち着くことはなかった。
一時的に誰かが席についても、不慮の事故か、謎の病気に襲われるのである。きな臭い。
星の数ほどいる王族の末裔のなか、結局、誰なのかよくわからない、田舎暮らしの少年が抜てきされた。
少年は、たぐいまれなる幸運に恵まれ、事故も病気も行方不明も、紙一重でかわしている。
その上、くじを引けば特賞、道を歩けば隕石にぶつかる、風が吹けば周囲の女性のスカートがめくれるラッキースケベ。
──この少年は、天性の何かを持っている。
何らかの星の元に生まれているのだと、フローラおばあさんたちは頷きあった。
新築された帝国城に、再びサロンを開き、今日もフローラおばあさん達は世間話に余念がない。
そこを白魚の手をした貴族が通りすがっては、如才なく挨拶を行う。
まがまがしいステンドグラスをあつらえた、どす赤い絨毯の廊下では、悪の越後屋、悪の越前屋、悪の回船問屋がいかがわしく跋扈する。
新帝国城の内外装は、今回も、国内で採掘される石の関係で、黒と灰色を基調としていた。
頂上には、帝国伝統建築のトゲトゲした尖塔が建ち並び、そのまわりには雷雲をまとわせる。
紫電を轟かせ、帝国城は、本日も通常運行である。